社労士 労働一般常識 問18:労務管理その他の労働に関する一般常識(労一)
(令和8年度(2026年度)試験対応・数値確認日 2026-06-08-wave4-legal-revision)
労働委員会による不当労働行為の救済手続に関する次のア〜オの記述のうち、**正しいもの**はどれか。なお、令和8年度試験の法令基準日(2026年4月10日)時点の制度を前提とすること。
- ア不当労働行為の救済申立ては、不当労働行為があった日から1年以内に行わなければならない。この申立期間を過ぎた場合、労働委員会は申立てを却下しなければならず、一切審査することができない。
- イ都道府県労働委員会(地労委)が発した救済命令(初審命令)に不服がある当事者は、当該命令の交付の日から30日以内に中央労働委員会(中労委)に再審査の申立てをしなければならない。
- ウ中央労働委員会が発した再審査命令(または再審査申立ての棄却命令)に不服がある使用者は、当該命令の交付の日から30日以内に東京地方裁判所に取消訴訟(行政訴訟)を提起しなければならない。正答
- エ労働委員会の救済命令は、その名宛人である使用者に対して命令交付の日から一定期間内に履行義務が発生する。使用者が救済命令に従わない場合、最終的に裁判所による履行強制(間接強制等)のみが認められており、労働委員会自身が直接的な制裁を行うことはできない。
- オ都道府県労働委員会(地労委)の審問手続において、当事者間に和解が成立した場合、労働委員会は和解を勧めることができる。和解が成立した場合、審査は打ち切られ、未履行の救済命令は当然に失効する。
AI解説(初心者・標準・上級)
理解度に合わせて3レベルの解説を無料で読めます。根拠条文・通達も明記。
正答はウ(正しい記述)です。
中央労働委員会(中労委)が発した再審査命令(または棄却命令)に不服がある使用者は、命令交付の日から30日以内に東京地方裁判所に取消訴訟(行政訴訟)を提起しなければなりません(労組法第27条の19)。
イは誤りです。都道府県労働委員会の初審命令への不服(中労委への再審査申立て)は「命令交付の日から15日以内」です(労組法第27条の15第1項。30日ではありません)。再審査申立て=15日、取消訴訟=30日というセットで覚えます。エは誤りです。使用者が救済命令に従わない場合、裁判所の履行強制だけでなく、労組法第32条に基づく過料(50万円以下)等の制裁が設けられています。
不当労働行為の救済手続フロー(最重要整理):
```
不当労働行為発生
↓
【申立】被害者(労働者・組合)が都道府県労働委員会(地労委)に申立て
※ 申立期間: 行為の日から1年以内(労組法第27条第2項)
↓
【初審】地労委による審査(調査・審問・和解勧告)
↓
【初審命令】地労委が救済命令・棄却命令を発付
↓(不服がある当事者)
【再審査申立】中央労働委員会(中労委)に再審査を申し立て
※ 申立期間: 初審命令交付の日から「15日以内」(労組法第27条の15第1項。イの「30日」は誤り)
↓
【再審査】中労委が審査
↓
【再審査命令】中労委が再審査命令・棄却命令を発付
↓(不服がある当事者)
【行政訴訟】東京地方裁判所に取消訴訟を提起
※ 提訴期間: 中労委命令交付の日から「30日以内」(ウの根拠・正解)
↓
【高等裁判所・最高裁判所】通常の上訴手続
```
申立期間1年の解釈(アの誤りの詳細):
1年の申立期間は「不当労働行為があった日」から起算します。ただし「継続する行為(例:組合嫌悪の態度を示し続ける支配介入)」については、その行為が継続する限り申立期間が進行しない解釈もあります。「一切審査できない」という絶対的な規定ではなく、行為の性質によって申立適格の判断が異なる余地があります(アの「一切審査できない」は誤り)。
救済命令の履行確保(エの誤りの詳細):
使用者が救済命令を履行しない場合の制裁:
- 労組法第32条: 使用者が救済命令に従わない場合、50万円以下の過料(裁判所が科す行政罰)
- 過料とは刑事罰(罰金)ではなく行政上の秩序罰ですが、命令の履行を促す効力があります
- また、救済命令の公表(厚生労働省・都道府県)という社会的制裁も活用されます
【中労委・地労委の組織構成と「三者構成」の意義】
労働委員会は使用者委員・労働者委員・公益委員の三者で構成されます(労組法第19条)。この三者構成は、不当労働行為審査において「労使双方の利益代表と中立的な公益委員」が審査に参加することで、専門性と公正性を確保するための制度設計です。
| 委員種別 | 推薦・選任 | 人数(例:中労委) |
|---|---|---|
| 公益委員 | 衆参両議院の同意を得て内閣総理大臣が任命 | 15名(審査事件は3名合議) |
| 使用者委員 | 使用者団体(経団連等)の推薦→内閣総理大臣任命 | 15名 |
| 労働者委員 | 労働者団体(連合等)の推薦→内閣総理大臣任命 | 15名 |
【「誠実交渉義務」の審査と「一方的な態度」の認定基準】
中労委・地労委が不当労働行為(第2号・団交拒否)を審査する際、「誠実に交渉したか」の判断基準として以下が検討されます:
1. 交渉申し入れへの応答: 合理的な期間内に団体交渉の日程・場所を設定したか
2. 交渉担当者の権限: 使用者側が「決定権限のない者」のみを出席させて実質的な交渉を回避していないか(「上と相談する」を繰り返し妥結意図なし=形式的交渉として違反の可能性)
3. 資料・情報の開示: 組合が合理的に要求する財務情報・人事データを使用者が正当な理由なく非開示にしていないか
4. 交渉の打切り: 十分な交渉を経ずに一方的に「交渉は打ち切る」と宣言することはそれ自体が違反の可能性
【中労委の「再審査」の法的性格と「二審制の意義」】
日本の不当労働行為審査は「行政的二審制(地労委→中労委)+司法審査(行政訴訟)」の三段階構造です。
中労委による再審査の法的性格は「上訴(控訴)」ではなく「行政的な再審査(de novo review に近い)」であり、中労委は地労委の判断を拘束されず、独自の事実認定・法的評価を行うことができます(ただし実務上は地労委の判断を尊重することが多い)。
【「緊急命令」制度:命令の仮執行力】
使用者が救済命令の取消訴訟(行政訴訟)を提起した場合でも、労働委員会(中労委)が裁判所に「緊急命令」の発令を申し立てることができます(労組法第27条の20)。緊急命令が発令されると、取消訴訟の係属中でも使用者は救済命令に従う義務が生じます。これは「取消訴訟の長期化を利用した不当労働行為の継続」を防ぐための仕組みです。
【社労士実務:使用者代理と組合代理の両面】
社労士は不当労働行為の審査手続に使用者側・組合側の双方の代理として関与できます。
使用者側社労士の実務ポイント:
- 「解雇した理由が組合活動とは無関係である」ことの客観的証拠の整理(人事評価記録・業績データ・懲戒処分の経緯)
- 団体交渉の日程・内容・発言を詳細に記録した「団交記録(議事録)」の作成・管理
- 不当労働行為審査における陳述書・証人尋問の準備
組合側社労士の実務ポイント(地域合同労組支援等):
- 不当労働行為申立書の作成(行為の特定・証拠の整理)
- 申立期間1年の起算点の確認(継続する行為の場合の整理)
- 審問期日での立会い・証拠の提出
【上位資格への接続:社会保険労務士と弁護士の役割分担】
不当労働行為事件では、審問手続に社労士が関与しつつ、取消訴訟(行政訴訟)段階では弁護士が訴訟代理人を担います。社労士は行政審査段階(地労委・中労委)を主担当し、弁護士は司法段階(東京地裁〜最高裁)を主担当とする役割分担が一般的です。この分担を理解した上で、使用者または組合の代理として早期段階から証拠保全・事実整理に取り組むことが重要です。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(本試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 労働組合法第27条(審査の申立て・1年の申立期間)・第27条の15(再審査申立期間・15日)・第27条の19(取消訴訟・30日・東京地裁)・第32条(命令の履行確保・過料) 行政訴訟の管轄: 労組法第27条の19第2項(中労委命令に対する取消訴訟は東京地裁) 不履行の効果: 労組法第32条(過料50万円以下)・救済命令を支持する確定判決違反は1年以下の禁錮等 一次ソース: e-Gov 労働組合法第27条 https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000174 ・厚労省 不当労働行為制度(審査手続) https://www.mhlw.go.jp/churoi/about/torikumi/futourodokoui.html <!-- 監修確定 2026-06-08(legal-reviser)改訂: ア誤り(申立期間1年は正しいが「一切審査できない」は言い過ぎ。継続する行為の場合の起算点解釈に柔軟性あり)。イ誤り(再審査申立期間は労組法第27条の15で「命令交付の日から15日以内」が正しい→設問イの「30日以内」は誤り)。ウ正しい(中労委命令への取消訴訟=30日以内・東京地裁・使用者の場合の出訴期間。労働者・労組の場合は行政事件訴訟法準用で「処分があったことを知った日から6か月以内」だが、本選択肢は使用者を想定した一般的記述として正しい)。エ誤り(使用者が命令に従わない場合、労組法第32条で50万円以下の過料・救済命令を支持する確定判決違反は禁錮刑等もある→「労働委員会自身が直接的な制裁を行えない」「裁判所による履行強制のみ」は不正確)。オ誤り(和解が成立しても「未履行の救済命令が当然に失効」とは限らず、和解内容により申立てが取り下げられるのが通常)。正答ウ確定。 --> 各根拠条文は厚生労働省「e-Gov法令検索」(https://elaws.e-gov.go.jp/)で原文を確認できます。令和8年度(2026年度)試験基準日時点で施行されている法令の数値を反映(数値確認日 2026-06-08-wave4-legal-revision)。
本問・解説は試験対策のための学習コンテンツです。法令・通達は改正されることがあるため、最新の内容は厚生労働省・全国社会保険労務士会連合会の公式情報をご確認ください。