社労士 健康保険法 問16:健康保険法
(令和8年度(2026年度)試験対応・数値確認日 2026-06-08)
健康保険法における不服申立て(審査請求・再審査請求)に関する次のア〜オの記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア健康保険の処分(保険給付の不支給決定・保険料の賦課等)に不服がある者は、社会保険審査官に対して審査請求をすることができる。審査請求は、処分を知った日(処分のあった日)の翌日から起算して3か月以内に行わなければならない。正答
- イ社会保険審査官の決定に対してさらに不服がある場合は、社会保険審査会に対して再審査請求を行うことができる。再審査請求は、社会保険審査官の決定書の謄本が送付された日の翌日から起算して60日以内に行わなければならない。
- ウ社会保険審査官に対する審査請求は口頭審理が原則とされており、審査請求人は審査官に対して直接意見を述べる機会が保障されている。審査請求を行ったまま90日以内に決定がなされない場合、審査請求人は棄却の決定があったものとみなして社会保険審査会に再審査請求をすることができる(みなし棄却制度)。
- エ社会保険審査会の裁決に不服がある場合、審査請求人は行政事件訴訟法に基づいて裁判所に取消訴訟を提起することができる。健康保険の処分に関する訴訟では、社会保険審査会の裁決を経ることなく直接裁判所に訴訟提起する「直訴」が認められている。
- オ社会保険審査官および社会保険審査会の審査は、健康保険法上の不服のみを対象とし、国民年金・厚生年金保険・雇用保険等の不服申立ては別の機関(社会保険審査官・審査会とは別の独立した機関)に対して行う必要がある。
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正答はアです。
社会保険審査官への審査請求は、平成28年4月施行の行政不服審査法改正に伴い、処分を知った日の翌日から3か月以内に行わなければならないと改正されました(社審法第4条)。アはこの現行ルールに沿った正しい記述です。
ウは「90日以内に決定なし→みなし棄却」とありますが、現行法(社審法第32条)では2か月(60日ではない)以内に決定なし→みなし棄却です。よってウは誤りです。
イは「再審査請求は60日以内」も誤りで、正しくは「決定書謄本送付の翌日から2か月以内」(社審法第32条)。エの「直訴」は訴願前置主義(社審法第38条)違反で誤り。オも誤り(社保審査官・審査会は国年・厚年・船員保険も担当。雇用保険は別系統=雇保審査官・労働保険審査会)。
健康保険の不服申立ての手続きフロー:
```
保険者の処分(給付不支給・保険料賦課等)
↓ 知った日の翌日から【3か月以内】(H28.4改正後)
社会保険審査官に審査請求
↓ 決定書謄本送付日の翌日から【2か月以内】
※ 審査請求から2か月以内に決定なし→みなし棄却→審査会に再審査請求可
社会保険審査会に再審査請求
↓ 裁決(処分行政庁の取消しまたは棄却)
行政事件訴訟(取消訴訟)→ 裁判所
※ 審査会の裁決を経ることが「訴願前置主義」の原則
```
期間の整理(頻出の数字・H28.4改正後の現行ルール):
| 手続き | 期限 | 起算点 |
|---|---|---|
| 審査請求(社会保険審査官) | 3か月以内 | 処分があったことを知った日の翌日 |
| 再審査請求(社会保険審査会) | 2か月以内 | 決定書謄本送付日の翌日 |
| みなし棄却(社審法第32条) | 審査請求から2か月経過で棄却とみなすことができる | 審査請求日 |
| 取消訴訟(行政事件訴訟法第14条) | 裁決から6か月以内 | 裁決があったことを知った日 |
各選択肢の解説:
- ア(正・正答): 平成28年4月の行政不服審査法改正に伴い、社審法第4条も改正され、審査請求の期間は「処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内」となりました(改正前は60日以内)。よってアは現行法に沿った正しい記述です。なお、被保険者の資格または標準報酬に関する処分については、処分があった日の翌日から2年を経過すると審査請求できなくなります(時効)。
- イ(誤): 再審査請求は「決定書の謄本が送付された日の翌日から起算して2か月以内」(社審法第32条)。「60日以内」という記述は誤り(2か月は暦月計算で月によって28〜31日があり、60日とは一致しない)。「謄本が送付された日の翌日」という起算点は正しい。
- ウ(誤): 口頭審理が請求により行われる点(社審法第13条等)は概ね正確だが、後段の「90日以内に決定がない場合のみなし棄却」が誤り。現行法(社審法第32条)では「審査請求があった日から2か月(=60日相当ではなく暦月計算)以内に決定がないとき、審査請求人は棄却したものとみなして社会保険審査会に再審査請求することができる」とされています。「90日」は旧法時代の数字混同です。
- エ(誤): 健保の処分に対する訴訟は、原則として社会保険審査会の裁決を経てから(訴願前置主義)行政訴訟を提起する必要があります(社審法第38条)。「直訴が認められている」は誤り。
- オ(誤): 社会保険審査官・社会保険審査会は健康保険に限らず、国民年金・厚生年金保険・船員保険の不服申立ても担当します(社審法第2条)。なお雇用保険・労災保険の不服申立ては「雇用保険審査官・労働保険審査会」が担当する別系統で、社会保険審査官・審査会の管轄外です。「別の独立した機関」という記述自体は雇用保険・労災との関係では正しい部分もあるが、健保以外を全て別機関とする趣旨は誤り。
【社会保険審査制度の全体像:2段階審査と訴願前置主義】
社会保険の不服申立て制度は「社会保険審査官及び社会保険審査会法」(昭和28年制定)に基づき、行政不服申立ての一般法(行政不服申立法)の特別法として機能します。
審査機関の役割分担:
| 機関 | 役割 | 設置場所 |
|---|---|---|
| 社会保険審査官 | 第1次審査(1次不服申立て) | 全国の地方厚生(支)局(8か所) |
| 社会保険審査会 | 第2次審査(再審査・最終行政判断) | 厚生労働省(中央1か所) |
対象となる法律(横断知識):
社会保険審査官・審査会が扱う不服申立てには:
- 健康保険法(健保)
- 国民健康保険法(国保)※一部
- 厚生年金保険法(厚年)
- 国民年金法(国年)
- 船員保険法
- 雇用保険法(雇用)→ただし雇用保険の不服申立ては一部が「雇用保険審査官・労働保険審査会」が担当(社審法ではなく労働保険審査官及び労働保険審査会法)
重要な誤りポイント(試験の頻出混同):
```
健保・年金系 → 社会保険審査官 → 社会保険審査会
雇用・労災系 → 雇用保険審査官 → 労働保険審査会
(労働基準監督署系) → 労働保険審査会
```
オの「社会保険審査官・審査会が健保だけを扱う」という誤りと、「雇用保険は別機関」という点が試験での誤肢作成に使われます。実際には、雇用保険の不服申立ては「雇用保険審査官(都道府県労働局設置)」が第1次審査、「労働保険審査会(厚生労働省)」が第2次審査を行い、社会保険審査官・審査会(地方厚生局・厚生労働省)とは別系統です。
【期間の詳細:3か月・2か月の使い分け(H28.4改正後・現行法)】
| 手続き | 期限 | 条文 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 審査請求 | 3か月以内 | 社審法第4条 | 行政不服審査法改正(H28.4)で「60日→3か月」に延長 |
| 再審査請求 | 2か月以内 | 社審法第32条 | 「60日ではなく2か月」(月により日数が異なる) |
| みなし棄却 | 審査請求から2か月以内に決定なしで棄却とみなせる | 社審法第32条 | 改正で「3か月→2か月」短縮 |
| 訴訟提起(取消訴訟) | 裁決から6か月以内 | 行政事件訴訟法第14条 | 審査会裁決後の出訴期間 |
【2016年(平成28年)4月改正の重要ポイント】
行政不服審査法の全面改正に伴い、社会保険審査官及び社会保険審査会法も同時に改正されました。主な改正点:
1. 審査請求期間: 60日以内 → 3か月以内(被申立人の救済機会拡大)
2. みなし棄却期間: 3か月 → 2か月(迅速な救済の実現)
3. 口頭意見陳述の請求権を明文化
この改正以前の問題集や受験テキストでは「60日以内」「3か月みなし棄却」と記載されている場合がありますが、令和8年度試験では改正後の数値(3か月以内・2か月みなし棄却)が正解です。試験では「60日以内」「90日以内」という旧法時代の数字を使った誤肢が頻出するため、正確な現行ルールの暗記が必須です。
【みなし棄却(社審法第32条)の趣旨と実務上の対処】
「みなし棄却」は、審査機関が2か月以内に決定を下さない場合に、申立人が「棄却があったものとみなして」次の手続きに進める制度です。趣旨は:
- 行政機関が決定を先延ばしにすることで申立人の権利実現が妨げられることを防ぐ
- 適時に次の不服申立て・訴訟に移行できる権利を保障
実務では、医療費・保険料等の紛争で迅速な解決が必要な場面(傷病手当金の不支給決定等)において、みなし棄却を利用して社会保険審査会への再審査請求または行政訴訟に移行することがあります。
【訴願前置主義と取消訴訟:社労士実務の最終段階】
健保の処分に対する取消訴訟は、原則として社会保険審査会の裁決を経てから提起する必要があります(訴願前置主義・社審法第38条)。社労士(特定社労士)が関与する個別労使紛争は労働委員会・あっせん手続きが中心ですが、社会保険に関する不服申立てでは:
1. 審査請求(社会保険審査官・60日以内)→ 決定(3〜6か月程度)
2. 再審査請求(社会保険審査会・2か月以内)→ 裁決(6か月〜1年程度)
3. 取消訴訟(地方裁判所・裁決から6か月以内)→ 判決
という3段階の長期的な手続きが必要で、この全体像を依頼者に説明・アドバイスする能力が社労士に求められます。特に傷病手当金や障害年金の不支給決定に対する不服申立ては、申請者が日々の生活に困窮している状況で行われることが多く、迅速かつ的確な対応が重要です。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(本試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 健康保険法第189条(審査請求・再審査請求)・社会保険審査官及び社会保険審査会法第4条(審査請求期間「3か月」・H28.4施行)・第32条(再審査請求期間「2か月」・みなし棄却「2か月」) 確認日2026-06-08 出典: 厚生労働省 社会保険審査請求制度 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/sinsa/ 近畿厚生局 審査請求FAQ https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kinki/faq/shinsakan_00001.html e-Gov 社会保険審査官及び社会保険審査会法 https://laws.e-gov.go.jp/law/328AC0000000206 各根拠条文は厚生労働省「e-Gov法令検索」(https://elaws.e-gov.go.jp/)で原文を確認できます。令和8年度(2026年度)試験基準日時点で施行されている法令の数値を反映(数値確認日 2026-06-08)。
本問・解説は試験対策のための学習コンテンツです。法令・通達は改正されることがあるため、最新の内容は厚生労働省・全国社会保険労務士会連合会の公式情報をご確認ください。