社労士 健康保険法 問9:健康保険法
(令和8年度(2026年度)試験対応・数値確認日 2026-06-07)
健康保険における保険給付の種類と被扶養者(家族)への給付に関する次のア〜オの記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア健康保険の保険給付は、被保険者本人に対する給付と被扶養者に対する給付(家族給付)に大別される。被扶養者に対する家族療養費の給付率は、被保険者本人の療養の給付と同率(原則7割給付・3割自己負担)であるが、6歳未満の被扶養者(義務教育就学前)については8割給付(2割自己負担)となる。
- イ被扶養者が出産した場合、家族出産育児一時金として被保険者に対して1児につき50万円が支給される。ただし、被扶養者本人ではなく、被保険者(扶養者)に支給される点が、被保険者本人の出産育児一時金との制度上の違いである。
- ウ被扶養者が死亡した場合、被保険者に対して家族埋葬料として5万円が支給される。これに対して、被保険者本人が死亡した場合には埋葬料として5万円が支給されるが、被保険者に生計を維持されていた者がいない場合には、実際に埋葬を行った者に対して埋葬費(実費の範囲内で5万円を上限)が支給される。
- エ被扶養者に対する家族傷病手当金・家族出産手当金は、健康保険において設けられている給付の種類である。被扶養者が療養のために働けない状態になった場合、被保険者と同様の所得補填給付が受けられる。正答
- オ健康保険の現物給付(療養の給付)と現金給付(療養費)の違いは、現物給付が保険医療機関での保険診療として直接提供されるのに対し、現金給付は保険医療機関以外での受診や緊急の場合等に、被保険者がいったん費用を全額立て替えた後に保険者から償還払いされる方式をとる。
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正答はエ(誤っている記述)です。
エの誤りは「家族傷病手当金・家族出産手当金は健康保険の給付として設けられている」という部分です。健康保険において、被扶養者(家族)に対する傷病手当金・出産手当金に相当する給付は存在しません(健保法第52条の給付の種類に含まれない)。傷病手当金・出産手当金は被保険者本人の「労務不能による所得補填」を目的とした給付であり、被扶養者は被保険者として働いていないため、そのような給付は設計されていません。
他の選択肢は正しく、被扶養者への家族療養費(原則7割・就学前8割)(ア)、家族出産育児一時金50万円は被保険者へ支給(イ)、家族埋葬料5万円(ウ)、現物給付と現金給付の違い(オ)はいずれも正確です。
健康保険の給付の種類(被保険者分・被扶養者分)の比較:
| 給付名(被保険者) | 対応する家族給付(被扶養者) | 給付率・額 |
|---|---|---|
| 療養の給付 | 家族療養費(第110条) | 原則7割(就学前は8割) |
| 療養費(第87条) | 家族療養費に含まれる | 同上 |
| 高額療養費(第115条) | 高額療養費(世帯合算) | 同上 |
| 傷病手当金(第99条) | 家族傷病手当金:存在しない | — |
| 出産育児一時金(第101条) | 家族出産育児一時金(第114条)| 50万円(被保険者に支給) |
| 出産手当金(第102条) | 家族出産手当金:存在しない | — |
| 埋葬料(第100条) | 家族埋葬料(第113条)| 5万円 |
| 移送費(第97条) | 家族移送費(第111条) | 実費相当 |
各選択肢の解説:
- ア(正): 家族療養費の給付率は原則7割(被保険者本人の療養の給付と同率)。ただし義務教育就学前(6歳未満)の被扶養者は8割給付(2割負担)となります。70歳以上の高齢受給者は別途の給付率規定が適用されます。
- イ(正): 家族出産育児一時金は「被扶養者が出産した場合に被保険者に対して」支給されます。支給先が「被扶養者本人ではなく被保険者」である点は健保法第114条の明文規定通りです。額は本人の出産育児一時金(第101条)と同額の50万円。
- ウ(正): 埋葬料(被保険者死亡)・家族埋葬料(被扶養者死亡)はともに5万円。被保険者に生計を維持されていた者がいない場合の「埋葬費(実費・上限5万円)」の区別も正確です。
- エ(誤・正答): 家族傷病手当金・家族出産手当金という制度は健康保険に存在しません。被扶養者は被保険者として就労していないため、労務不能による所得補填給付は設計されていない。被扶養者が療養を必要とする場合は、家族療養費(医療費の補填)のみが適用されます。
- オ(正): 現物給付(療養の給付:保険医療機関での保険診療)と現金給付(療養費:いったん全額自己負担→後払い)の区別は正確です。療養費(第87条)が適用される典型例として「海外での受診」「保険医療機関以外での緊急受診」「鍼灸・あん摩等の施術」等があります。
【健康保険の給付体系:医療系給付・現金給付・付加給付の3層構造】
健康保険の給付は大きく以下の3層で理解すると体系的です。
第1層:医療系給付(現物給付・現金給付)
- 療養の給付(第63条〜・現物給付の中心): 保険医療機関での保険診療の提供
- 療養費(第87条・現金給付): 現物給付が不可能な場合の後払い
- 入院時食事療養費(第85条): 入院中の食事(標準負担額との差額)
- 入院時生活療養費(第85条の2): 65歳以上の療養病床の生活費相当
- 保険外併用療養費(第86条): 先進医療・選定療養等の自己負担部分
第2層:所得補填系給付(現金給付)
- 傷病手当金(第99条): 労務不能時の所得補填
- 出産手当金(第102条): 産前産後休業中の所得補填
- 出産育児一時金(第101条): 出産費用の補填
第3層:その他の現金給付
- 高額療養費(第115条): 自己負担限度額超過分の返還
- 埋葬料・埋葬費(第100条): 葬儀費用への一部補填
- 移送費(第97条): 緊急移送費用の補填
被扶養者への家族給付(第3章・第110条〜第116条)は、この体系に対応した「家族版」ですが、「所得補填系給付(傷病手当金・出産手当金)」には対応する家族給付がありません。
【被扶養者給付が「所得補填」に対応しない理由】
傷病手当金・出産手当金が「被保険者の労務不能=収入喪失への補填」を目的とするのに対し、被扶養者は被保険者として就労しているわけではなく、そもそも保険料を負担していない立場です。被扶養者の生計は被保険者の収入により支えられているため、被扶養者の療養中の「所得補填」は設計上不要とされています。
ただし実務では、パートタイム労働者(被扶養者として健保加入)が疾病で働けなくなった場合、傷病手当金が受けられないという問題が生じます。この場合は雇用保険の傷病給付(基本手当の延長)を検討することになりますが、雇用保険の被保険者でなければ適用もありません。
【家族療養費の給付率と「7割・8割」の境界の実務】
家族療養費の給付率:
- 6歳以上70歳未満の被扶養者: 7割(3割自己負担) — 被保険者本人と同じ
- 6歳未満(義務教育就学前)の被扶養者: 8割(2割自己負担) — 子ども医療の特例
- 70歳以上75歳未満の被扶養者(高齢受給者): 現役並み所得者8割・その他9割
「6歳未満」「義務教育就学前」という表現は厳密には「6歳の誕生日後の最初の4月1日前」であり、「小学校入学前」が正確な基準です。試験では「6歳未満」という表現と「義務教育就学前」という表現のどちらが正確かを問われる場合があります。
【市区町村の子ども医療費助成との関係(上位資格への接続)】
健保の家族療養費(8割給付)に加え、ほとんどの市区町村では「子ども医療費助成」として残りの2割(自己負担分)を助成しています。そのため、実際には「完全無料」で医療を受けられる子どもが大多数です。この公費助成と健保給付の二重補填を避けるため、保険者は「第三者の費用負担(自治体助成)がある場合は給付を調整できる」という規定を持ちますが、実務上は自治体と保険者間の調整(レセプトの振り分け)で処理されます。
社一(社会保険一般常識)では、こうした公費助成と健保給付の関係が問われることがあります。また、児童手当(子ども・子育て支援金の使途の一つ)との関係も、令和8年度の改正論点として重要です。
【療養費(現金給付・第87条)が適用される場面】
療養費(第87条)の適用例:
1. 海外での受診: 海外では保険医療機関以外での受診となるため、全額立替→帰国後に療養費として申請。ただし「日本の保険診療基準での換算額」が上限。
2. 保険医療機関以外での急性発症: 船上・登山中等で保険医療機関に受診できない場合
3. 鍼灸・あん摩・マッサージ(施術療養費): 医師の同意書がある場合に限り療養費として支給
4. コルセット等の治療用装具: 医師の指示に基づく装具費用
これらは社労士実務での「被保険者からの相談」でよく問われる場面であり、試験の選択式対策としても重要な知識領域です。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(本試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 健康保険法第52条(給付の種類)・第110条(家族療養費)・第113条(家族埋葬料)・第114条(家族出産育児一時金)・第87条(療養費) 確認日2026-06-07 出典: 協会けんぽ 給付の種類 https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/ 各根拠条文は厚生労働省「e-Gov法令検索」(https://elaws.e-gov.go.jp/)で原文を確認できます。令和8年度(2026年度)試験基準日時点で施行されている法令の数値を反映(数値確認日 2026-06-07)。
本問・解説は試験対策のための学習コンテンツです。法令・通達は改正されることがあるため、最新の内容は厚生労働省・全国社会保険労務士会連合会の公式情報をご確認ください。