社労士 健康保険法 問8:健康保険法
(令和8年度(2026年度)試験対応・数値確認日 2026-06-07)
健康保険における標準報酬月額の決定・改定に関する次のア〜オの記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア被保険者が資格を取得した際の標準報酬月額(資格取得時決定)は、資格取得時の報酬月額(1か月間の報酬の見込み額等)に基づいて決定されるが、毎年1回の定時決定(算定基礎届)が行われるまでの間は変更されることなく同一の標準報酬月額が適用され続ける。
- イ定時決定(算定基礎届)では、4月・5月・6月の3か月間に被保険者が受けた報酬を算定の基礎とし、その平均額により標準報酬月額を決定する。4月・5月・6月のいずれかの月に報酬の支払基礎日数が17日未満の月がある場合には、その月を除いた月の平均額を算定の基礎とする。
- ウ随時改定(月額変更届)の要件は、①固定的賃金に変動があること、②変動後の標準報酬月額と変動前の標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じること、③変動後の継続した3か月の報酬が支払われること(かつ各月の支払基礎日数が17日以上)の3要件すべてを満たした場合である。
- エ随時改定の要件を満たした場合には、その月(継続した3か月の報酬が確定した月)の翌月から改定された標準報酬月額が適用される。ただし、随時改定と定時決定の適用時期が重なる場合には、定時決定が優先して適用される。
- オ育児休業(産後パパ育休含む)から職場復帰した後に報酬が低下した場合、通常の随時改定(月額変更届)の要件を満たさなくても、申出により標準報酬月額を速やかに改定することができる育児休業等終了時改定の制度がある。この改定は、職場復帰した月以降の報酬の3か月平均に基づき翌月から適用される。正答
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正答はオ(正しい記述)です。
育児休業から復帰後に報酬が低下した場合、随時改定の「2等級以上の差」という要件を満たさなくても、本人の申出により標準報酬月額を改定できる「育児休業等終了時改定」(健保法第43条の3)があります。これにより、実態に合った保険料(及び将来の給付計算基礎)を速やかに反映させることができます。
アは誤りで、随時改定の要件を満たせば年の途中でも変更されます。イは誤りで、支払基礎日数17日未満の月は「除く」ではなく適切な処理が必要です。ウは概ね正しいですが、エの随時改定と定時決定が重なる場合の優先順位(定時決定が優先するという記述)に注意が必要です。
標準報酬月額の決定・改定の3種類まとめ:
| 種類 | 時期・要件 | 適用開始 | 根拠条文 |
|---|---|---|---|
| 資格取得時決定 | 資格取得時の報酬見込み | 資格取得月から | 健保法第42条 |
| 定時決定 | 毎年4〜6月の3か月平均 | 9月(同年8月まで前の等級)から | 健保法第43条 |
| 随時改定 | 固定的賃金変動+2等級以上差+3か月継続 | 変動後3か月の翌月から | 健保法第43条の2 |
| 育休終了時改定 | 育休等終了後の報酬低下・本人申出 | 申出月の翌月(3か月平均後)から | 健保法第43条の3 |
| 産前産後終了時改定 | 産休終了後の報酬低下・本人申出 | 申出月の翌月から | 健保法第44条 |
各選択肢の解説:
- ア(誤): 資格取得時決定後も、随時改定の要件を満たせば年の途中で標準報酬月額が変更されます。「変更されることなく同一の標準報酬月額が適用される」は誤りです。定時決定(9月)も毎年行われます。
- イ(誤): 設問イでは「4月・5月・6月のいずれかの月に支払基礎日数が17日未満の月がある場合には、その月を除いた月の平均額を算定の基礎とする」とあり、本則として正しい方向性ですが、いくつかの不正確な点があります。①特定適用事業所の短時間労働者については17日基準ではなく11日以上が判定基準となります(健保法施行規則第24条)。②4・5・6月のすべての月が17日未満(短時間労働者は11日未満)の場合は除外する月数が0となり、従前の標準報酬月額が維持されます。③一般のパートでも17日未満が複数月ある場合の特殊な計算規定があります。設問イは「17日未満=一律に除く」と単純化しているため、短時間労働者の特例(11日基準)に触れていない点で不正確な記述となります。
- ウ(正): 随時改定の3要件(固定的賃金変動・2等級以上差・3か月継続かつ各月17日以上)の記述は正確です。なお「2等級以上の差」は変動後と変動前の等級差であり、報酬が下がる場合も対象となります。
- エ(誤): 随時改定と定時決定の優先順位は、「随時改定が優先」されます(定時決定は随時改定の結果を踏まえて行われます)。「定時決定が優先する」は誤りです。ただし定時決定(9月分〜)は随時改定があった場合でも毎年実施されます。
- オ(正): 育児休業等終了時改定は「申出により」行われる点と、「随時改定の2等級以上という要件を満たさなくても」改定できる点が特徴です。具体的には、育休終了後の最初の月以降継続した3か月平均の標準報酬月額をもとに翌月から改定します。
【標準報酬月額制度の設計思想:なぜ「等級制」か】
標準報酬月額は実際の報酬(毎月変動しうる)を50等級(健保)・32等級(厚年)に区分することで、①保険料計算の安定性・③給付計算の簡便化・②事務処理負担の軽減を実現します。この等級制があることで、年に数回しか改定しない(原則は年1回の定時決定)仕組みが成り立っています。
定時決定(算定基礎届)の詳細:
4月・5月・6月の報酬(「支払いを受けた月」ベース・通常は締日払い)を算定の基礎として、9月1日から翌年8月31日まで適用される標準報酬月額を決定します。
実務上の重要ポイント:
1. 4〜6月の残業時間・手当に注意: 4〜6月の残業が多い会社では標準報酬月額が高くなり、年間の保険料負担が増加します。これは「算定基礎月の残業を意図的に減らす」という節税戦略(コンプライアンス上問題がある行為)の根拠にもなっており、社会問題化した時期もあります。
2. パートタイム労働者の特例: 支払基礎日数が11日以上17日未満の月は、通常の算定基礎と異なる計算方法(時間数を基礎とする換算)が適用されることがあります(施行規則第27条の3)。
随時改定(月額変更届)の実務的な注意点:
3要件の中で「固定的賃金の変動」が核心です。固定的賃金とは「賃金形態(時間給制等)の変更や基本給・残業の定額手当等」を指します。
| 固定的賃金の変動 | 随時改定の対象 |
|---|---|
| 基本給の昇給・降給 | 対象 |
| 手当の新設・廃止 | 対象 |
| 時間給単価の変更 | 対象 |
| 残業手当の増減(非固定) | 対象外(固定的賃金でない) |
| 季節的な報酬変動 | 対象外 |
育児休業等終了時改定(健保法第43条の3)の活用方法:
育休明け短時間勤務により報酬が下がっても、随時改定の「2等級以上の差」要件を満たさない場合(1等級の減少にとどまる場合等)でも、本人の申出により改定できます。
この制度のポイント:
1. 申出は「育休終了後に職場復帰した場合」に限定(育休中は対象外)
2. 申出のタイミングは「育休終了日以後の最初の月」から可能
3. 改定基礎は「育休終了後の最初の月から継続した3か月の報酬平均」
4. 改定は「申出月の翌月」(実際には3か月経過後の翌月)から適用
これにより、短時間勤務・時短復帰した従業員の保険料(及び傷病手当金等の給付計算基礎)が実態に合った額に速やかに調整されます。
産前産後休業終了時改定(健保法第44条)との違い:
産後休業(産後56日)終了後に復帰した場合に適用されます。育休終了時改定と類似した制度ですが、対象期間(産後56日以内に復帰)が異なります。産後・育休と2段階の特別改定制度があるという理解が試験での正確な答えにつながります。
【上位資格への接続:標準報酬月額と将来の給付計算の関係】
厚生年金の報酬比例部分は「在職中の標準報酬月額(平均)×乗率×加入月数」で計算されます(厚年法第43条)。育休明けの短時間勤務で標準報酬月額が下がると、将来の年金額(報酬比例部分)の計算基礎も下がるリスクがあります。
このリスクに対応するため、産前産後休業・育児休業中の保険料免除期間は「標準報酬月額の実績として記録に残す」仕組みがあり、養育特例(厚年法第26条)として「短時間勤務による標準報酬低下期間は、休業前の標準報酬月額を用いて年金額を計算する」特例が設けられています。
社労士試験では、健保の標準報酬月額決定(本問)と、厚年の養育特例(厚年法第26条)を横断的に整理することで、育休・産休と保険料・年金の関係を体系的に理解できます。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(本試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 健康保険法第43条(定時決定)・第43条の2(随時改定)・第43条の3(育児休業等終了時改定)・第44条(産前産後休業終了時改定) 確認日2026-06-07 出典: 協会けんぽ 算定基礎届・月額変更届 https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat330/sb3160/ 各根拠条文は厚生労働省「e-Gov法令検索」(https://elaws.e-gov.go.jp/)で原文を確認できます。令和8年度(2026年度)試験基準日時点で施行されている法令の数値を反映(数値確認日 2026-06-07)。
本問・解説は試験対策のための学習コンテンツです。法令・通達は改正されることがあるため、最新の内容は厚生労働省・全国社会保険労務士会連合会の公式情報をご確認ください。