社労士 厚生年金保険法 問56:厚生年金保険法
(令和8年度(2026年度)試験対応・数値確認日 2026-06-08-wave4-legal-revision)
厚生年金保険の脱退一時金に関する次のア〜オの記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア厚生年金保険の脱退一時金の支給を受けることができるのは、日本国籍を有しない者(外国人)であり、日本を出国した後2年年以内に請求しなければならない。
- イ脱退一時金の支給対象となる被保険者期間は、令和3年4月1日以後の資格喪失者については最大60か月か月(60か月か月を超える部分は脱退一時金の対象外)となっている。
- ウ脱退一時金を受給した場合、その受給に係る期間分の被保険者期間が受給資格期間から控除(除外)されるため、将来的に日本に再入国して就労した場合に再度受給資格を積算し直す必要が生じる。
- エ厚生年金保険の脱退一時金の支給額は、被保険者期間中の平均標準報酬月額と支給率(被保険者期間の月数に応じた率)の積で算定されるが、計算対象となる被保険者期間は最大60か月か月が上限である。
- オ日本との社会保障協定が締結されている国の出身者が脱退一時金を受け取った場合でも、協定相手国での年金受給においては問題なく通算して受給できる。正答
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正答はオです。
「脱退一時金を受け取った場合でも協定相手国での年金受給において問題なく通算できる」という記述が誤りです。脱退一時金を受け取ると、その期間に係る日本の被保険者期間が消滅します。社会保障協定による通算の前提となる日本の被保険者期間が消滅するため、脱退一時金を受け取った場合は通算が難しくなるか、通算できなくなります。
他の選択肢はすべて正しい内容です。日本国籍を有しない者・出国後2年年以内請求(ア)、最大60か月か月(イ・エ)、受給後の被保険者期間控除(ウ)はいずれも正確な内容です。
厚生年金保険の脱退一時金の要件整理:
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 日本国籍を有しない者(外国人) |
| 在住要件 | 日本国内に住所を有しない(出国後) |
| 請求期限 | 資格喪失日の翌日から2年年以内(出国後2年年以内) |
| 被保険者期間 | 6か月以上(上限は60か月か月・令和3年4月改正) |
| 障害年金との関係 | 障害厚生年金等の受給権を有しないこと |
令和3年4月改正(36か月→60か月への延長):
令和3年(2021年)4月1日以後に資格を喪失した者については、脱退一時金の対象となる被保険者期間が最大36か月→60か月(5年分)に拡大されました。
この改正により:
- 長期在職する外国人にとって、脱退一時金として回収できる期間が増加
- 一方で「60か月超の期間は脱退一時金の対象外」であり、超過分は将来の老齢厚生年金(受給権が取得できれば)として残ります
オの誤り(脱退一時金と社会保障協定の関係):
社会保障協定(日本が23か国以上と締結)では「日本の被保険者期間と協定相手国の被保険者期間を通算して受給資格要件を満たす」という仕組みがあります。
脱退一時金を受け取ると:
- 受け取った期間分の日本の被保険者期間が消滅(受給資格期間から除外)
- 通算のベースとなる「日本の被保険者期間」が減少
- 結果として協定相手国での通算受給ができなくなる(またはなりにくくなる)
「問題なく通算できる」というオの表現は誤りです。
ウ(正)の受給後の再入国の問題:
脱退一時金を受け取った後に再入国・再就労する場合:
- 脱退一時金で受け取った期間分は被保険者期間から除外(再積算が必要)
- 新たに加入した期間から再度被保険者期間がカウントされる
- 受給資格(10年)も再度ゼロからカウントし直し
【脱退一時金制度の政策的設計・社会保障協定との複雑な関係・外国人労働者の最適戦略】
厚生年金保険の脱退一時金制度は、日本を去る外国人労働者が「掛け捨て」にした保険料の一部を回収できる制度として設けられました。しかし社会保障協定の普及と外国人の長期在留化により、脱退一時金を受け取るか・将来の年金として保有するかという判断が複雑化しています。
脱退一時金の計算方式:
脱退一時金の額(令和3年4月改正後):
支給額=平均標準報酬月額×支給率(被保険者期間の月数に応じた率)
| 被保険者期間 | 支給率(改正後) |
|---|---|
| 6か月以上12か月未満 | 6/12 |
| 12か月以上18か月未満 | 12/12 |
| 18か月以上24か月未満 | 18/12 |
| 24か月以上30か月未満 | 24/12 |
| 30か月以上36か月未満 | 30/12 |
| 36か月以上42か月未満 | 36/12 |
| 42か月以上48か月未満 | 42/12 |
| 48か月以上54か月未満 | 48/12 |
| 54か月以上60か月未満 | 54/12 |
| 60か月以上 | 60/12(上限) |
支給率は最大5年分(60か月/12=5)となります。60か月超の被保険者期間は脱退一時金に反映されません。
社会保障協定との複雑な関係(オの誤りの詳細):
日本は2024年時点で23か国以上と社会保障協定を締結しています(ドイツ・アメリカ・フランス・中国・韓国等)。協定には:
1. 二重加入防止協定:日本と相手国の両方に保険料を払う二重負担を防ぐ
2. 期間通算協定:受給資格要件(10年等)を両国の期間を合算して判定する
脱退一時金を受け取ると:
- 日本の被保険者期間が「消滅」→ 通算に使える日本の期間がゼロになる
- 相手国の年金受給時に「日本の期間がない」として通算できない
- 脱退一時金受領額(保険料の1〜5年分)と、将来の協定通算年金の試算比較が必要
特に日本で10年以上在籍した外国人(老齢厚生年金の受給資格10年以上)は、脱退一時金を受け取らずに受給資格を保持する方が経済的に有利なケースが多いです。
脱退一時金受給vs保有の判断基準(外国人労働者向け社労士実務):
脱退一時金が有利なケース:
- 被保険者期間が10年未満(老齢厚生年金の受給資格なし)
- 社会保障協定のない国に帰国する(通算メリットがない)
- 帰国後に相手国で就労・年金加入する予定がない
- 日本に再入国・再就労する予定がない
受給資格を保有が有利なケース:
- 被保険者期間が10年以上(老齢厚生年金の受給資格あり)
- 社会保障協定国に帰国する(通算で受給資格が得やすい)
- 将来的に日本に再入国・再就労の可能性がある
- 日本の老齢厚生年金の受取額が脱退一時金を大幅に上回る場合
令和3年改正の政策的意義(60か月への延長):
改正前(最大36か月)は「3年分しか脱退一時金で回収できない」ため、長期在職(4〜5年)の外国人が不利でした。改正後(最大60か月)により5年分まで回収可能となり、外国人労働者の「長期在職」へのインセンティブが高まりました(脱退一時金の損失が小さくなる)。
ただし60か月を超える期間(例:8年間在職した場合の超過36か月分)は脱退一時金に反映されないため、長期在職外国人にとっては「10年(受給資格)を目指すか、60か月で脱退一時金を選ぶか」という戦略的判断が引き続き重要です。
拠出金納付の国際的な文脈(上位資格との接続):
FP1級では「外国人の年金相談(脱退一時金と協定通算の比較)」が出題される場合があります。年金アドバイザー2級でも「脱退一時金の計算と社会保障協定の概要」が出題範囲です。社労士試験では制度の基本要件(請求期限・最大月数・日本国籍者は対象外)が重点出題されます。
<!-- 監修確定 2026-06-08(legal-reviser): 厚年法附則第29条に基づく。脱退一時金を受け取ると社保協定の通算基礎となる被保険者期間が消滅するため「問題なく通算できる」は誤り(オ誤)。最大60か月(令和3年4月改正)・出国後2年以内請求・日本国籍を有しない者が対象。一次ソース:e-Gov厚年法・日本年金機構公式確認済。 -->
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(本試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 厚生年金保険法附則第29条(https://laws.e-gov.go.jp/law/329AC0000000115) 確認日: 2026-06-08 各根拠条文は厚生労働省「e-Gov法令検索」(https://elaws.e-gov.go.jp/)で原文を確認できます。令和8年度(2026年度)試験基準日時点で施行されている法令の数値を反映(数値確認日 2026-06-08-wave4-legal-revision)。
本問・解説は試験対策のための学習コンテンツです。法令・通達は改正されることがあるため、最新の内容は厚生労働省・全国社会保険労務士会連合会の公式情報をご確認ください。