社労士 厚生年金保険法 問55:厚生年金保険法
(令和8年度(2026年度)試験対応・数値確認日 2026-06-08-wave4-legal-revision)
特別支給の老齢厚生年金の繰上げ請求に関する次のア〜オの記述のうち、**誤っているもの**はどれか。 本問は特別支給の老齢厚生年金の繰上げ請求の要件・効果・制限について問うものである。繰上げ請求の取消し不可・同時繰上げ強制・障害給付への影響など、繰上げの不利益効果を正確に理解しているかを問う。
- ア特別支給の老齢厚生年金の繰上げ請求とは、本来の支給開始年齢(61〜64歳)よりも前(60歳から)に繰り上げて請求することをいう。
- イ特別支給の老齢厚生年金の繰上げ請求をした後でも、年金の支払いが開始される前(受給開始月前)であれば、その繰上げ請求を取り消すことができる。正答
- ウ特別支給の老齢厚生年金の繰上げ請求をした場合、繰上げを行った月数に応じた減額率が適用され、この減額は生涯にわたって継続する。
- エ特別支給の老齢厚生年金を繰上げ請求した場合、同時に老齢基礎年金も繰上げ受給しなければならない(同時繰上げ強制)。
- オ特別支給の老齢厚生年金の繰上げ請求をすると、障害基礎年金・障害厚生年金の受給権を取得しても当該障害給付を請求できなくなる。
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正答はイです。
「繰上げ請求をした後でも、年金の支払いが開始される前であれば取り消すことができる」という記述が誤りです。特別支給の老齢厚生年金の繰上げ請求は、一度請求したら取消し・撤回は一切できません。支払い開始前であろうと、どのような事情があっても取り消すことはできず、請求した翌月分から減額された年金が生涯にわたって支払われ続けます。
これは繰上げ請求の最も重要なリスクの一つです。他の選択肢はすべて正しい内容です。ア(60歳から繰上げ可)、ウ(生涯減額)、エ(同時繰上げ強制)、オ(障害給付請求不可)はいずれも正確な内容であり、繰上げ請求の不利益効果として重要な知識です。
特別支給の老齢厚生年金の生年月日別支給開始年齢(男性):
| 生年月日 | 特別支給の支給開始年齢 | 繰上げ可能年齢 |
|---|---|---|
| 昭和28年4月2日〜昭和30年4月1日 | 61歳 | 60歳(繰上げ可) |
| 昭和30年4月2日〜昭和32年4月1日 | 62歳 | 60歳(繰上げ可) |
| 昭和32年4月2日〜昭和34年4月1日 | 63歳 | 60歳(繰上げ可) |
| 昭和34年4月2日〜昭和36年4月1日 | 64歳 | 60歳(繰上げ可) |
| 昭和36年4月2日以後 | なし(特別支給なし) | 通常の老齢厚生年金の繰上げ(65歳→60歳)は可 |
イの誤りの詳細(繰上げ請求は一切取消し不可):
特別支給の老齢厚生年金の繰上げ請求を行うと、「請求した」という事実だけで不可逆的な法的効果が発生します。
- 支払い開始前であっても取消し不可
- 事情変更(就職・離婚・病気回復等)があっても取消し不可
- 繰下げに変更することも不可
これは通常の契約における「申込みの撤回」のような概念が年金法には存在しないためです。請求と同時に受給権が確定し、翌月から減額された年金の支給が開始されます。
エ(正)の同時繰上げ強制(重要):
特別支給の老齢厚生年金の繰上げ請求をすると、老齢基礎年金も同時に繰上げ受給しなければなりません(同時繰上げ強制・厚年法附則第7条の3第4項)。老齢厚生年金だけ繰り上げて老齢基礎年金は65歳からという選択はできません。
オ(正)の障害給付請求不可(重要):
特別支給の老齢厚生年金(含む繰上げ)の受給権者が傷病を負った場合でも、新たに障害基礎年金・障害厚生年金の受給権を取得しても当該障害給付を請求できなくなります(繰上げ老齢年金受給権と障害年金の競合規定)。
【特別支給の老齢厚生年金の繰上げ請求の不可逆性・取消し不可の法的根拠・実務的リスクの全体像】
特別支給の老齢厚生年金は、昭和60年(1985年)の年金大改革で「老齢厚生年金の支給開始年齢を60歳から65歳に段階的に引き上げる」ための経過措置として設けられた制度です。その繰上げ請求には、一般の行政手続きとは異なる強力な不可逆性があります。
繰上げ請求の不可逆性(イの誤りの法的根拠):
厚年法附則第7条の3に基づく繰上げ請求は、法的には「受給権の確定」と同時に発生します。
| 時点 | 法的状態 |
|---|---|
| 繰上げ請求書を提出した瞬間 | 受給権が確定・取消し不可の状態に |
| 翌月から | 減額された年金の支給開始 |
| 以降ずっと | 減額は生涯継続・変更不可 |
「支払い開始前なら取消し可能」という誤解は、一般の契約・申込みの感覚から生じる典型的な誤りです。年金法の繰上げ請求はこの常識が通用しない特殊な法的行為です。
段階的廃止のタイムライン(男性・女性比較):
| 男性の生年月日 | 特別支給状況 |
|---|---|
| 昭和28年4月1日以前 | 既に65歳到達済み(経過措置完了) |
| 昭和28年4月2日〜昭和36年4月1日 | 段階的に支給開始年齢が上昇(61〜64歳) |
| 昭和36年4月2日以後 | 特別支給なし(65歳から通常の老齢厚生年金) |
| 女性の生年月日 | 特別支給 |
|---|---|
| 昭和33年4月2日〜昭和41年4月1日 | 段階的に61〜64歳(男性より5年遅れ) |
| 昭和41年4月2日以後 | 特別支給なし(65歳から) |
男性は「昭和36年4月2日以後」・女性は「昭和41年4月2日以後」が特別支給なし世代の境界線です。
繰上げ請求の4大リスク(ウ・エ・オ・国年法との接続):
1. 生涯減額(ウ):
繰上げ月数×0.4%が老齢年金(老齢厚生年金+老齢基礎年金)の額から永久に減額されます(令和4年4月以降の繰上げは月0.4%)。取消し不可と相まって、一度繰り上げると減額から逃れられません。
2. 同時繰上げ強制(エ):
厚生年金の繰上げ請求は老齢基礎年金の繰上げ請求を含む形で行わなければなりません。「厚生年金だけ繰り上げる」選択はなく、国民年金の老齢基礎年金も同時に減額されます。
3. 障害給付への影響(オ):
繰上げ老齢年金を受給開始した後に障害状態が生じても、障害基礎年金・障害厚生年金の受給権を行使できなくなります(ただし既に障害認定を受けていた者は別)。
4. 寡婦年金への影響(国年法との接続):
妻が繰上げ老齢年金を受給すると、夫が死亡した際に「寡婦年金の受給権が消滅」します(国年法第50条第2項)。
繰上げを選択しない方が良い典型的なケース(社労士相談の実務):
- 健康状態が良好で長寿が見込まれる場合(損益分岐点を超えて損になる)
- 現在または近い将来に障害状態が生じる可能性がある場合
- 将来的に配偶者が60歳未満で死亡する可能性がある場合(寡婦年金喪失)
- 在職中で在職老齢年金の停止が大きく「繰り上げても手取りが増えない」場合
特に「取消し不可」という不可逆性は社労士相談で最初に説明すべき事項であり、「後で取り消せると思っていた」というトラブルが実務上も存在します。社労士は相談者に繰上げのリスクを十分に説明した上で、書面で確認を取ることが望まれます。
令和4年改正の繰下げ延長との対比:
令和4年改正で繰下げ上限が70歳→75歳に延長されたのに対し、繰上げの最低年齢(60歳)は変わらず、繰上げ減額率も月0.5%→月0.4%(令和4年4月〜)に緩和されました。繰下げ優遇・繰上げ緩和という方向性で「長く働いて後で年金を多くもらう」ライフスタイルを誘導する政策です。取消し不可という制約は改正後も変わっておらず、繰上げは慎重な判断が求められます。
<!-- 監修確定 2026-06-08 差し戻し修正版(legal-reviser): 選択肢イを「昭和36年4月2日以後生まれ男性は受給権なし→繰上げ対象にもならない」(論理的にほぼ正しく誤りの根拠が弱い)から「繰上げ請求後・支払い開始前なら取消し可能」(誤・実際は一切取消し不可)に差し替え。これにより正答イの誤り根拠が法的に明確に確定。厚年法附則第7条の3に基づく。一次ソース:e-Gov厚年法・日本年金機構公式確認済。 -->
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(本試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 厚生年金保険法附則第7条の3(https://laws.e-gov.go.jp/law/329AC0000000115)・昭和60年改正法附則 確認日: 2026-06-08 各根拠条文は厚生労働省「e-Gov法令検索」(https://elaws.e-gov.go.jp/)で原文を確認できます。令和8年度(2026年度)試験基準日時点で施行されている法令の数値を反映(数値確認日 2026-06-08-wave4-legal-revision)。
本問・解説は試験対策のための学習コンテンツです。法令・通達は改正されることがあるため、最新の内容は厚生労働省・全国社会保険労務士会連合会の公式情報をご確認ください。