問題
確定給付企業年金(DB)および厚生年金基金に関する次のア〜オの記述のうち、誤っているものはどれか。なお、令和8年度試験の法令基準日(2026年4月10日)時点の制度を前提とすること。
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答え合わせ
- ア
- イ
- ウ
- エ
- オ
自信の3択
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解説
正答はオ(誤っている記述)です。
確定給付企業年金(DB)に対して事業主が拠出する掛金は、法人税法上の損金に算入することができます。「損金に算入することができない」という記述が誤りです。事業主にとって掛金の損金算入は大きな税制優遇であり、企業が企業年金を導入する主な動機の一つです。
後半の「積立不足の場合に追加掛金を拠出する義務を負う」という記述は正しいです。DBは給付額が確定しているため、運用結果が想定を下回った場合(積立不足)は事業主が追加掛金(特別掛金)を拠出して不足を補う義務があります。これが確定拠出年金(DC)との最大の違いです(DCは掛金額のみ確定し給付額は運用次第)。
確定給付企業年金(DB)の2形態(アの根拠):
| 形態 | 仕組み | 規約等の認可 |
|---|---|---|
| 規約型 | 規約(労使合意)に基づき事業主が給付を行い、事業主が契約する信託銀行・生命保険会社等が資産を管理・運用 | 労使合意→規約について厚生労働大臣の承認(第3条第1項第1号) |
| 基金型 | 独立した法人格を持つ「企業年金基金」が資産管理・給付 | 基金の設立について厚生労働大臣の認可(同項第2号) |
※規約の作成には、厚生年金保険の被保険者の過半数で組織する労働組合(ないときは過半数代表者)の同意が必要(第3条第1項)。厚生労働大臣の権限の多くは地方厚生局長に委任されている。
厚生年金基金の「代行機能」と代行返上(イ・ウの根拠):
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 代行機能 | 厚生年金保険の報酬比例部分(「代行部分」)を国に代わって基金が給付 |
| 代行返上制度 | 確定給付企業年金法の施行(2002年4月1日)により可能に。基金が代行部分を国に返上し、DB・DCへ移行 |
| 新設禁止 | 2014年(平成26年)改正で厚生年金基金の新設を禁止 |
| 解散命令 | 積立不足が著しい基金に対する解散命令制度を整備 |
| 残余財産の分配 | 解散後の残余財産は加入者・受給者に按分して分配(正しい) |
各選択肢の正誤:
- ア(正): 規約型(事業主が直接運営・承認)・基金型(別法人・認可)の2形態の区別は正確。
- イ(正): 代行機能の説明・代行返上(確定給付企業年金法の施行により可能に)の説明は正確。
- ウ(正): 2014年改正による新設禁止・解散命令・残余財産の按分分配は正確。
- エ(正): DB加入者の中途退職時のポータビリティ(脱退一時金相当額の他制度への移換)は正確。
- オ(誤): 「損金に算入することができない」→ 誤り。DBの事業主掛金は損金算入可能(法人税法上の優遇)。追加掛金義務は正しい。
DBとDCの最大の違い(試験頻出):
| 比較軸 | DB(確定給付) | DC(確定拠出) |
|---|---|---|
| 確定している要素 | 給付額(受け取る年金額が事前に確定) | 掛金額(拠出額が確定、給付額は運用次第) |
| 運用リスク | 事業主が負担(積立不足→追加掛金義務) | 加入者(個人)が負担 |
| 掛金の損金算入 | 可能(法人税優遇) | 可能(同様) |
| ポータビリティ | 中途退職時に脱退一時金を受けるか、脱退一時金相当額を他のDB・企業型DC・iDeCo・企業年金連合会へ移換 | 個人別管理資産を転職先の企業型DC・iDeCo等へ移換 |
【厚生年金基金の「代行割れ」問題と2014年改正の背景】
厚生年金基金の「代行割れ」問題とは、基金が代行部分(国の厚生年金報酬比例部分に相当する金額)の支払義務を果たすのに必要な積立金を保有できなくなった状態を指します。バブル崩壊(1990年代)・長期デフレ・低金利環境による運用収益の低迷により、多くの厚生年金基金が積立不足に陥りました。
2014年(平成26年)の改正は、AIJ投資顧問による年金資産消失事件(2012年)を直接の契機としています。AIJ事件は、複数の厚生年金基金から運用を受託していた投資顧問会社で多額の年金資産の消失が発覚した事件で、厚生年金基金の資産管理・ガバナンスの脆弱性を露呈しました。
2014年改正の主な内容:
1. 厚生年金基金の新設禁止(以後、新たに厚生年金基金を設立できない)
2. 財政状況が悪化した基金への解散命令制度の整備
3. 5年間の時限措置(早期解散の促進): 代行割れの基金などの早期解散を促す「特例解散制度」の時限的導入(代行返上とは別の仕組み)
4. 残余財産の加入者・受給者への按分分配
【代行返上のプロセスと「3つの出口」】
厚生年金基金が代行を返上する場合、主に3つの移行先があります:
1. 確定給付企業年金(DB)への移行: 代行部分を除いた「上乗せ部分」をDBとして継続する(最も多いパターン)
2. 確定拠出年金(DC)への移行: 年金制度を維持するが、給付確定型からDCへ移行(移行時に一時金として資産をDCに移換)
3. 制度廃止: 上乗せ給付も廃止し、加入者に脱退一時金を支払って精算
代行返上後の処理(実務):
- 代行部分に対応する資産として「最低責任準備金」に相当する額を国に納付
- 返還後、代行部分に相当する厚生年金給付は国が支給
- 加入者は「将来の厚生年金給付の管理が国に戻る」という形になり、年金権は保全される
【確定給付企業年金の掛金「損金算入」の実務的意味】
DBの事業主掛金が損金(法人税の損金)に算入できる(オの「誤り」の論点)のは、企業年金の税制優遇の核心です。
損金算入のスキーム(法人税法・確定給付企業年金法):
- 事業主が年金基金(規約型: 信託・保険・基金型: 企業年金基金)に拠出した掛金 → 全額損金算入可能
- 特別掛金(積立不足補填のための追加掛金)→ 事業年度の損金算入が認められる(一定の要件あり)
加入者(従業員)側の税制:
- 掛金は事業主拠出のため、個人所得税の対象外(給与所得には算入されない)
- 年金受給時に「公的年金等」として課税(公的年金等控除が適用)
- 一時金受給時は「退職所得」として退職所得控除が適用(DCも同様)
【企業年金のポータビリティ制度と「企業年金連合会」の役割】
DB加入者が中途退職した場合のポータビリティ(エの根拠):
- 脱退一時金の受給要件は規約で定めるが、老齢給付金の要件を満たさない者に係る脱退一時金について、3年を超える加入者期間を要件として定めてはならない(確定給付企業年金法第41条第3項)
- 中途退職者は「脱退一時金」の受け取りまたは「脱退一時金相当額の他制度への移換」を選択
- 移換先: ①転職先のDB ②転職先の企業型DC ③iDeCo ④企業年金連合会
企業年金連合会(旧・厚生年金基金連合会)は、中途退職者の年金資産を管理・保全する機関です。脱退一時金相当額を企業年金連合会に移換すると、連合会から「通算企業年金」として年金で受け取ることができます。
社労士試験では「厚生年金基金から移管された資産の連合会管理」「代行返上後の国・連合会の役割分担」という論点が出題されることがあります。
【社労士実務とDB・厚生年金基金の接点】
1. 企業年金規約の変更手続: DB規約の変更は、内容に応じて厚生労働大臣(地方厚生局長)の承認・認可または届出が必要(社労士の1号業務の対象)
2. 加入者への年金制度説明義務: 事業主は加入者・受給者に年金制度の内容を説明する義務を負い、社労士がその資料作成・説明を支援
3. 代行返上・制度移行の実務: 制度廃止・移行時には全加入者・受給者への告知、移換手続き、脱退一時金計算など膨大な実務が生じる(社労士・社労士法人の重要業務)
4. 積立不足の発見と対策提言: 毎事業年度の決算時の財政検証や、少なくとも5年ごとに行う掛金の再計算(財政再計算・確定給付企業年金法第58条第1項。年金数理人との協働)で積立不足が判明した場合の追加掛金拠出計画の策定
- 確定給付企業年金法第41条・第58条e-Govで原文を読む
- 厚生年金保険法e-Govで原文を読む
出典と作り方
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(本試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 確定給付企業年金法第2条(定義)・第3条(規約型の規約の承認・基金型の基金の設立)、掛金の損金算入は法人税法施行令第135条 厚生年金基金: 公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部を改正する法律(平成25年法律第63号・2014年4月施行) 代行返上: 確定給付企業年金法附則(代行部分の返上) 出典: 厚生労働省「企業年金・個人年金制度の概要(確定給付企業年金・厚生年金基金)」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/kigyounenkin.html 各根拠条文は厚生労働省「e-Gov法令検索」(https://elaws.e-gov.go.jp/)で原文を確認できます。令和9年度(2027年度)試験に向けて2026年10月1日時点の現行法令の数値を反映(令和9年4月の法改正で変わる箇所は試験前に更新・数値確認日 2026-10-01)。
本問・解説は試験対策のための学習コンテンツです。法令・通達は改正されることがあるため、最新の内容は厚生労働省・全国社会保険労務士会連合会の公式情報をご確認ください。

