社労士 労働安全衛生法 問17:労働安全衛生法
(令和8年度(2026年度)試験対応・数値確認日 2026-06-08-wave4-legal-revision)
労働安全衛生法に規定する化学物質管理に関する次のア〜オの記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア化学物質のリスクアセスメント義務(第57条の3)は、労働安全衛生法施行令第18条に掲げる「リスクアセスメント対象物質」(約900物質・順次追加)を製造・輸入・使用・譲渡・提供する事業者に対して課せられる。正答
- イ化学物質のSDS(安全データシート)の交付義務(第57条の2)は、リスクアセスメント対象物質を「他の事業者に譲渡・提供する場合」に適用されるものであり、同一事業者内での部門間移動(社内移動)には適用されない。
- ウ2023年4月施行の改正安衛法により、化学物質の「自律的管理」体制が導入され、従来の特定化学物質等の個別規制に加えて、リスクアセスメントに基づく化学物質管理者(化学物質管理責任者)の選任義務が設けられた。
- エSDS(安全データシート)に記載すべき情報には、化学物質の名称・組成・危険有害性の分類・応急措置・取扱い・保管方法等が含まれ、GHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)に基づく分類・表示が要求されている。
- オリスクアセスメント義務が課される「リスクアセスメント対象物質」には、製品として市場で流通する既製品も含まれるため、市販の洗剤や塗料を購入して使用する事業者もリスクアセスメントを実施する義務がある。
AI解説(初心者・標準・上級)
理解度に合わせて3レベルの解説を無料で読めます。根拠条文・通達も明記。
正答はア(誤っている記述)です。
アの「約900物質」という記述が誤りです。2023年4月の改正安衛法施行(化学物質の自律的管理制度の導入)にあわせて、リスクアセスメント対象物質は大幅に拡大され、現在は約2,900物質(厚労省告示対象物)が対象となっています。改正前の約900物質という数字は旧来の値です。
2023年4月施行の主な変更点:
- リスクアセスメント対象物質の約900→約2,900物質への大幅拡大
- 化学物質管理者(化学物質管理責任者)の選任義務の新設
- 保護具着用管理責任者の選任義務の新設
- 自律的管理(リスクアセスメント結果に基づく自主的な管理措置)の原則化
化学物質の自律的管理制度(2023年4月・2024年4月段階施行)の概要:
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| リスクアセスメント対象物質 | 約2,900物質(2023年4月から。旧制度の特化則・有機則対象物を包含) |
| リスクアセスメント義務の対象 | 対象物質を「製造・取扱い(使用・加工・保管・廃棄等)」する事業者 |
| SDS交付義務の対象 | 対象物質を「他の事業者に譲渡・提供する」場合(社内移動は対象外) |
| 化学物質管理者 | リスクアセスメント・記録管理を統括。選任義務(2023年4月) |
| 保護具着用管理責任者 | 呼吸用保護具等の選定・使用状況を確認。選任義務(2024年4月) |
各選択肢の整理:
- ア(誤): 「約900物質」が誤り。2023年4月の自律的管理制度導入で約2,900物質に拡大。また施行令第18条は対象物質のリストだが、改正後の告示対象物を合わせた広い対象が「リスクアセスメント対象物質」全体を構成する。
- イ(正): SDS(安全データシート)の交付義務は「他の事業者への譲渡・提供時」(第57条の2)。同一事業者内の部門間移動には適用されない。
- ウ(正): 2023年4月施行の改正で化学物質管理者(化学物質管理責任者)の選任義務が新設された。
- エ(正): SDSへのGHSに基づく分類・表示の要求(ラベル表示義務も第57条)。
- オ(正): 市販品(洗剤・塗料・接着剤等)を購入して使用する事業者も、リスクアセスメント対象物質に該当する場合はリスクアセスメントの実施義務がある。
SDSに記載すべき16項目(GHS基準)の主要項目:
化学品の名称・組成・危険有害性の分類・応急措置・火災時の措置・漏出時の措置・取扱い・保管・ばく露防止・物理化学的性質・安定性・廃棄・輸送・法規制情報等。
【化学物質管理の規制パラダイム転換:個別規制型から自律的管理型へ】
従来の日本の化学物質管理は「特定化学物質障害予防規則(特化則)」「有機溶剤中毒予防規則(有機則)」「鉛中毒予防規則(鉛則)」「粉じん障害防止規則(粉じん則)」という個別物質ごとの規制が中心でした。各規則が「この物質を取り扱う場合は○○設備を設置し、□□の健診を実施し、△△の作業主任者を選任する」という詳細な作業基準を定める「仕様規制型」です。
この方式の問題点は「対象外の物質(未規制物質)については何も規制がない」という「規制の網の目」の問題です。世界では約10万種以上の化学物質が工業的に使用されており、日本の特化則等の対象物質(約670物質)は氷山の一角でした。
2023年4月の改正安衛法施行は、この規制モデルを根本的に転換しました:
旧モデル:「規制対象物質リストに載ったものだけを個別に規制」
新モデル:「GHS分類で危険有害性が確認された物質(約2,900物質)について、事業者が自らリスクアセスメントを実施し、リスクに応じた管理措置を自主的に決定する(自律的管理)」
この転換は国際的なトレンドとも整合します。EUでは「REACH規則」(2007年施行)、米国では「改正有害物質規制法(TSCA)」(2016年改正)などで「事業者自身がリスクを評価・管理する義務」が先行して導入されていました。
【リスクアセスメントのプロセスと化学物質管理者の役割】
リスクアセスメントは以下の5ステップで実施します:
1. 危険有害性の特定: 対象物質のSDSを確認してハザード(危険有害性)を把握
2. ばく露の推定: 作業工程・使用量・換気状況・作業者の行動パターンから実際のばく露レベルを推定(測定または推定ツールを使用)
3. リスクの評価: ハザードとばく露の組み合わせでリスクレベルを評価(高・中・低)
4. リスク低減措置の決定: 代替物質への変更・密閉化・局所排気・保護具使用等
5. 記録・見直し: リスクアセスメント結果の記録(3年保存)・定期的な見直し
化学物質管理者はこのプロセス全体を統括し、作業者への教育・記録管理・保護具の選定管理(保護具着用管理責任者と連携)を行います。化学物質管理者の選任は、リスクアセスメント対象物質を製造・取扱いする事業場すべて(業種・規模問わず)に義務付けられています(一方で保護具着用管理責任者は「表示対象物を取り扱う業務に従事させる事業者」のみ)。
【SDS・GHSラベルと国際的整合性の意義】
GHS(Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals)は、国連が推進する「化学品の危険有害性の分類・表示の国際的な統一システム」です。GHSに基づくラベル・SDSの標準化により、異なる国・言語でも化学品の危険性が統一的に理解できるようになります。
日本のSDS・ラベル制度はGHSに基づいており、SDSの16項目構成・ラベルの絵表示(ハザードシンボル)はGHS規格に従っています。これにより、国際貿易・多国籍企業の安全管理においても日本の化学物質管理が国際標準と整合します。
社労士の実務では、顧問先企業が化学物質を取り扱う場合(印刷業の有機溶剤・建設業の石綿・金属加工の切削油等)に「リスクアセスメントの実施体制の整備・化学物質管理者の選任届出・SDS管理の電子化」を支援することが増えています。特に2023年・2024年の段階施行で義務が強化された自律的管理への対応支援は、社労士の新しいビジネス機会として注目されています。
根拠: 労働安全衛生法第57条・第57条の2・第57条の3、令和4年安衛法施行令改正(リスクアセスメント対象物質拡大・2023年4月施行)、化学物質管理者の選任義務(2023年4月)、保護具着用管理責任者選任義務(2024年4月)。確認日2026-06-08。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(本試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 労働安全衛生法第57条・第57条の2・第57条の3(化学物質管理)、令和4年安衛法施行令改正(2023年4月・2024年4月段階施行) <!-- 監修確定 2026-06-08(legal-reviser): アが誤り。リスクアセスメント義務は安衛法施行令第18条のリスクアセスメント対象物質を「製造・取扱い(使用・加工・保管等を含む広い概念)」する事業者に課せられるが、単純な「譲渡・提供するだけ(製造せず仲介する卸売業者等)」についてはSDSの交付義務はあるがリスクアセスメント義務の適用範囲が異なる。また「約900物質」という数字も2024年時点では2,900物質程度に拡大している(2023年4月の自律的管理対応で厚労省告示対象物が大幅増加)。設問アの「約900物質」という記述が誤り(現行は約2,900物質)。また施行令第18条は従来の特定化学物質・有機溶剤等の個別リストであり、「約900」は旧来の数字。正確性からアが誤り。イ正(SDS交付は他の事業者への譲渡・提供時)。ウ正(2023年4月施行で化学物質管理者選任義務追加)。エ正(GHSに基づく分類・表示義務)。オ正(購入して使用する事業者もリスクアセスメント義務あり)。 --> 各根拠条文は厚生労働省「e-Gov法令検索」(https://elaws.e-gov.go.jp/)で原文を確認できます。令和8年度(2026年度)試験基準日時点で施行されている法令の数値を反映(数値確認日 2026-06-08-wave4-legal-revision)。
本問・解説は試験対策のための学習コンテンツです。法令・通達は改正されることがあるため、最新の内容は厚生労働省・全国社会保険労務士会連合会の公式情報をご確認ください。