社労士 健康保険法 問12:健康保険法
(令和8年度(2026年度)試験対応・数値確認日 2026-06-08)
健康保険における保険給付の通則(受給権の保護・資格喪失後の給付等)に関する次のア〜オの記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア保険給付を受ける権利(受給権)は、譲渡し、担保に供し、または差し押さえることができない。ただし、傷病手当金および出産手当金の受給権については、国税滞納処分による差押えは認められる。正答
- イ被保険者が資格を喪失した後でも、資格喪失前に開始した傷病手当金・出産手当金の継続給付を受けることができる。この継続給付を受けるためには、資格喪失の日の前日まで継続して1年以上被保険者であったこと、および資格喪失前に当該給付を受けていたことまたは受ける状態にあったことが必要である。
- ウ保険者は、保険給付に関して必要があると認めるときは、保険給付を受ける者(受給者)に対して文書または物件の提出を求め、または医師の診断を命ずることができる。受給者がこれを拒んだときは、保険者は当該保険給付を一時差し止めることができる。
- エ偽りその他不正の行為によって保険給付を受けた者に対しては、保険者は、その給付に要した費用の全部または一部を徴収することができる。この場合、事業主がその不正行為を認知しつつ届出その他の義務を怠ったときは、連帯して費用の徴収に応ずる義務が生じることがある。
- オ保険給付を受ける権利は、権利が発生した日(傷病手当金等については最初の支給事由が生じた日)から2年を経過したときは時効によって消滅する。
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正答はア(誤っている記述)です。
健康保険の保険給付を受ける権利は、譲渡・担保提供・差押えが禁止されています(健保法第61条)。アの後半「傷病手当金および出産手当金の受給権については国税滞納処分による差押えは認められる」という記述が誤りです。傷病手当金・出産手当金の受給権も差押禁止の対象であり、国税滞納処分による差押えも認められません(条文に例外規定なし)。
一方、ウ・エ・オについては正しい記述です。イの継続給付要件(資格喪失前日まで継続1年以上・資格喪失前に受給していたか受けられる状態にあった)も正確です。
保険給付の通則に関する主要規定の整理:
| 通則事項 | 内容 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 受給権の保護 | 譲渡・担保提供・差押えの禁止(国税滞納処分も含む) | 健保法第61条 |
| 消滅時効 | 給付を受ける権利は2年で時効消滅 | 健保法第193条 |
| 資格喪失後の継続給付 | 傷病手当金・出産手当金のみ(1年以上被保険者+受給中または受給可能状態) | 健保法第104条 |
| 給付の一時差止め | 文書・物件提出・医師診断命令への拒否時 | 健保法第59条 |
| 不正利得の徴収 | 不正受給額の全部または一部を徴収可能・事業主連帯責任も | 健保法第58条 |
各選択肢の解説:
- ア(誤・正答): 受給権の差押禁止は国税滞納処分を含めすべての差押えに及びます。健保法第61条は「保険給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえることができない」と規定しており、例外規定(国税滞納処分を認める)は存在しません。類似する労働基準法上の退職金や、年金法上の受給権(差押禁止の例外的緩和)と混同した誤りです。
- イ(正): 資格喪失後の継続給付要件(継続1年以上被保険者+受給中または受給可能状態)は健保法第104条の正確な記述。「任意継続被保険者の期間は含まない」という重要な実務論点は別問(Wave1 kenpo_03)で扱っています。
- ウ(正): 保険者の文書提出命令・診断命令と一時差止めの規定は健保法第59条の正確な記述。「一時差止め」は「取消し」ではなく、義務に応じれば差止めが解除されます。
- エ(正): 不正利得の徴収規定(健保法第58条)は正確。事業主の連帯責任は、事業主が虚偽の届出をした場合や不正を知りつつ協力した場合に認められます。
- オ(正): 保険給付を受ける権利の消滅時効は2年(健保法第193条)。起算点は「権利が発生した日」であり、傷病手当金については支給事由が生じた日(労務不能となった日の翌日から待期完成の翌日)が起算点となります。
【受給権保護の趣旨と差押禁止の全面性】
健康保険の受給権(保険給付を受ける権利)の差押禁止は、他の社会保険・公的給付と比較しても厳格です。差押禁止の趣旨は「病気・けが・出産という生活上の危機に際して受給する給付が、債権者の取立てによって被保険者の手に届かないことを防ぐ」点にあります。
比較対象:
- 年金受給権(国年・厚年): 差押禁止(国年法第24条・厚年法第41条)。ただし国税滞納処分による差押えは例外的に認められる(国税徴収法の特例)。
- 雇用保険給付(基本手当): 差押禁止(雇保法第11条)
- 労災給付: 差押禁止(労災法第12条の5)
- 健康保険給付: 差押禁止(健保法第61条)・国税滞納処分を含むすべての差押えに及ぶ(年金と異なり国税滞納処分による差押えも認められない)
試験での頻出の誤肢パターン:
「傷病手当金は所得補填的性格を持つため、国税滞納処分に限り差押えが認められる」→ 誤り。健保法第61条に例外はない。
【資格喪失後の継続給付の全体像(健保法第104条〜第106条)】
資格喪失後に継続給付が認められる給付の種類:
| 給付の種類 | 継続給付の可否 | 追加要件 |
|---|---|---|
| 療養の給付(現物給付) | 不可(資格喪失後は現物給付不可) | — |
| 療養費(現金給付) | 可(健保法第104条第4項) | 喪失前から受給中または受給可能状態 |
| 傷病手当金 | 可(健保法第104条) | ①継続1年以上②受給中または受給可能状態 |
| 出産手当金 | 可(健保法第105条) | ①継続1年以上②出産の日(産前)以内に資格喪失 |
| 出産育児一時金 | 可(健保法第106条) | ①継続1年以上②資格喪失後6か月以内の出産 |
| 埋葬料・埋葬費 | 可(健保法第105条の2) | ①継続1年以上②資格喪失後3か月以内の死亡 |
継続給付における「継続1年以上」の算定(実務の重要ポイント):
1. 同一保険者の強制被保険者としての継続期間のみカウント(任意継続被保険者の期間は不算入)
2. 同一保険者でなければ通算不可(転職で保険者が変わるとリセット)
3. 1日も空白なく「継続」していることが必要(一日でも資格を喪失すると再カウント)
資格喪失後の傷病手当金継続給付の終期:
継続給付の支給期間は「通算1年6か月の残余期間」ではなく、「傷病手当金の通算支給期間(支給開始日から通算1年6か月)のうちの未消化分」です。2022年の通算化改正後は、在職中に一部の期間を就業していた場合でも残余期間が消滅しないため、資格喪失後の継続給付と通算支給期間の関係は以下の通りです:
例: 在職中に200日分消化 → 資格喪失後に継続給付を受けられる残日数 = 通算547日(1年6か月)− 200日 = 347日分
【消滅時効2年の起算点の詳細(試験での計算問題への応用)】
健保法第193条の「2年」の時効の起算点:
| 給付の種類 | 時効の起算点 |
|---|---|
| 療養の給付・療養費 | 診療を受けた日の翌日(費用を支払った日の翌日) |
| 傷病手当金 | 支給を受けるべき日(各支給日)の翌日 |
| 出産育児一時金 | 出産した日の翌日 |
| 埋葬料・埋葬費 | 被保険者が死亡した日の翌日 |
時効の中断(更新)は民法の規定が準用されます。傷病手当金の場合、毎月の申請がそれぞれ独立した「支給を受けるべき日」を持つため、申請を怠った月分から2年を経過すると時効消滅します。これは「最初の支給日から2年で全額時効消滅」とはならないため、注意が必要です。
【社労士実務への接続:受給権保護と執行実務の境界】
社労士が労使間の紛争解決業務(特定社労士)を行う際、「会社が未払い傷病手当金の申請手続きを放置している」というケースが問題になることがあります。受給権を持つ被保険者が時効(2年)内に申請できるように適切にアドバイスすることも社労士の重要な職務です。また、不正利得の徴収(健保法第58条)の場面では、社労士が事業主側の代理人として適切な対応を助言する場面もあります。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(本試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 健康保険法第61条(受給権の保護・差押禁止)・第104条(資格喪失後の継続給付)・第59条(保険給付の一時差止め)・第58条(不正利得の徴収)・第193条(消滅時効2年) 確認日2026-06-08 出典: e-Gov 健康保険法 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=211AC0000000070 各根拠条文は厚生労働省「e-Gov法令検索」(https://elaws.e-gov.go.jp/)で原文を確認できます。令和8年度(2026年度)試験基準日時点で施行されている法令の数値を反映(数値確認日 2026-06-08)。
本問・解説は試験対策のための学習コンテンツです。法令・通達は改正されることがあるため、最新の内容は厚生労働省・全国社会保険労務士会連合会の公式情報をご確認ください。