社労士 健康保険法 問29:健康保険法
(令和8年度(2026年度)試験対応・数値確認日 2026-06-08-wave4-legal-revision)
健康保険の保険給付に関する通則について、次のア〜オの記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア健康保険の保険給付を受ける権利(受給権)は、差し押さえることができない。ただし、事業主が被保険者に代わって保険料を滞納している場合には、被保険者の受給権を差し押さえて保険料の滞納分に充当することが認められている。
- イ健康保険の保険給付を受ける権利は、他人に譲渡することはできない。ただし、相続によって給付を受ける権利が他の者に移転することは認められる。
- ウ保険給付として支給される金銭は、租税その他の公課(公租公課)の対象となる。これは、保険給付が所得補填的な性格を持つためである。
- エ被保険者が死亡した場合に、死亡した被保険者に支給すべき保険給付でまだ支給されていないものがあるとき、当該保険給付については、その被保険者の遺族(一定の範囲)が自己の名で請求し受領することができる。正答
- オ保険給付を受ける権利は、2年間行使しない場合には時効によって消滅する。なお、保険料の請求権の時効も同様に2年であるため、給付請求権・保険料請求権ともに2年で統一されている。
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正答はエです。
健康保険の保険給付を受ける権利(受給権)は、差押え・譲渡・担保提供が禁止されています(健保法第61条)。また保険給付として支給される金銭は公租公課(税金等)が免除されます(第62条)。
アは誤りです。滞納保険料への充当目的であっても受給権の差押えは認められていません。
イは誤りです。受給権の譲渡は禁止されており、相続による移転も原則として認められません。ただし未支給給付については、被保険者の死亡後に遺族が自己の名で請求できる特別規定があります(第100条)。エはこの未支給給付の仕組みを述べており正しい記述です。
ウは誤りです。保険給付の金銭は公租公課が免除されます。
オは誤りです。給付請求権の時効は2年ですが、保険料の徴収権の時効も2年と同じ点については正しいものの、「統一されている」という表現がやや誤解を招く表現であるほか、本問では時効起算点の問題が誤りの核心です(時効の起算点は給付請求権と保険料で異なります)。
健康保険の保険給付通則(第61条〜第62条・第100条)の体系:
| 通則事項 | 条文 | 内容 |
|---|---|---|
| 差押禁止 | 第61条 | 受給権の差押えは不可(滞納充当目的も不可) |
| 譲渡禁止 | 第61条 | 受給権の第三者への譲渡禁止(相続による移転も含め原則不可) |
| 担保提供禁止 | 第61条 | 受給権を担保に入れることは禁止 |
| 公租公課免除 | 第62条 | 保険給付として支給される金銭は税金等の対象外 |
| 未支給給付 | 第100条 | 被保険者死亡時に未支給の保険給付は遺族が自己名で請求可 |
各選択肢の解説:
- ア(誤): 健保法第61条は「保険給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえることができない」と定めています。滞納保険料への充当目的であっても受給権の差押えは一切認められません。
- イ(誤): 受給権の譲渡は第61条で禁止されています。相続によって受給権が移転することも原則として認められません。ただし未支給給付(第100条)は別扱いで、被保険者死亡後の未支給分を遺族が「自己の名で請求する」ことが認められています。これは「受給権の移転」ではなく「遺族に独自の請求権が発生する」仕組みです。
- ウ(誤): 健保法第62条により、保険給付として支給される金銭は「租税その他の公課を課することができない」と定められています(公租公課の免除)。給付金に所得税・住民税等は課せられません。
- エ(正): 健保法第100条(未支給給付)の規定が正しく述べられています。被保険者が死亡した際、未支給の保険給付(傷病手当金等の現金給付が典型)があれば、遺族(配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹の順位)が自己の名で請求できます。
- オ(誤): 給付請求権の時効は健保法第193条で2年、保険料の徴収権も同条で2年と定められており、数値は一致します。しかし「統一されている」という表現は、両者の時効起算点が異なるため正確ではありません(給付請求権は給付事由発生日の翌日から・保険料は納付期限の翌日から)。
【健保の保険給付通則と他社会保険法との比較・未支給給付の手続詳細】
保険給付通則の条文構造と立法趣旨:
健保法第61条(差押禁止・譲渡禁止・担保提供禁止)の立法趣旨は、被保険者の生活保障機能の確保にあります。保険給付は被保険者が疾病・負傷・死亡・出産の際に受けるセーフティネットであり、これを差し押さえたり第三者に売り渡せたりすると、実際に給付が必要な者(被保険者本人)に行き渡らなくなります。同趣旨の規定は国民年金法(第24条)・厚生年金保険法(第41条)・雇用保険法(第11条)・労働者災害補償保険法(第12条の5)に共通して存在します。
他社会保険法との比較(差押禁止・譲渡禁止・公租公課免除):
| 法律 | 差押禁止・譲渡禁止条文 | 公租公課免除条文 |
|---|---|---|
| 健康保険法 | 第61条 | 第62条 |
| 国民年金法 | 第24条 | 第25条 |
| 厚生年金保険法 | 第41条 | 第42条 |
| 雇用保険法 | 第11条 | 第12条 |
| 労働者災害補償保険法 | 第12条の5 | 第12条の6 |
各法で「差押禁止→公租公課免除」の順で並んでいる点(条文番号の連続性)が社労士試験で狙われます。
未支給給付(健保法第100条)の詳細:
未支給給付の仕組みは「受給権の相続的移転」ではなく「法律が遺族に固有の請求権を与える制度」です。この区別は重要で:
1. 受給権の譲渡禁止(第61条)とは矛盾しない: 未支給給付請求権は遺族の「自己の名」による固有の権利であって、被保険者の受給権が「移転」するのではありません。
2. 請求できる遺族の範囲と順位(健保法第100条):
- 優先順位: 配偶者 > 子 > 父母 > 孫 > 祖父母 > 兄弟姉妹
- 同順位の者が複数いる場合は、そのうち1人が代表して請求・受領
3. 対象となる給付: 傷病手当金・出産手当金・埋葬料(費)等の現金給付。現物給付(療養の給付)は性質上、未支給の問題は生じません。
4. 遺族が複数いる場合: 代表者1人が全員を代表して請求・受領。受領後は遺族間で分配します。
公租公課免除(第62条)の範囲と実務的意義:
保険給付として支給される金銭には所得税・住民税が課せられません。具体的には:
- 傷病手当金: 非課税(所得税法第9条第1項第9号「公的給付」)
- 出産育児一時金: 非課税
- 埋葬料(費): 非課税
- 療養費: 非課税(現物給付の代替)
ただし、健康保険の保険料の事業主負担分は法人・個人事業主の必要経費(損金)に算入できます。これは公租公課免除とは別の税務処理です。
差押禁止規定と強制執行実務(近年の裁判例):
第61条の「差押禁止」は、国税滞納処分による差押えも含みます。ただし支給済みの金銭が被保険者の銀行口座に入金された後は、一般の預金として差押えが可能になる(支給前の「受給権」と支給後の「預金債権」は法律上別物)という解釈が確立しています(最高裁・下級審裁判例)。これは年金給付の差押えをめぐる議論と同様の構造です。
時効起算点の比較(試験頻出):
| 権利の種類 | 時効期間 | 起算点 |
|---|---|---|
| 給付請求権(傷病手当金等) | 2年 | 給付事由が生じた日(支給事由確定日)の翌日 |
| 保険料徴収権 | 2年 | 保険料の納付期限の翌日 |
| 保険料還付請求権 | 2年 | 保険料を納付した日の翌日 |
「時効2年は共通だが起算点が異なる」という点が社労士試験の論点です。起算点の混同問題が頻出します。
社労士試験での頻出パターン(まとめ):
| よくある誤答パターン | 正しい答え |
|---|---|
| 「滞納保険料充当目的なら差押え可」 | 目的を問わず差押え禁止 |
| 「受給権は相続人に移転する」 | 「移転」ではなく遺族の固有権(未支給給付) |
| 「保険給付の金銭に所得税がかかる」 | 公租公課免除(非課税) |
| 「給付請求権の時効は5年」 | 健保の給付請求権は2年(年金等と混同しない) |
<!-- 監修確定 2026-06-08(legal-reviser): 健保法第61条(差押禁止・譲渡禁止・担保提供禁止)・第62条(公租公課免除)・第100条(未支給給付・遺族の固有請求権)・第193条(時効2年・起算点)一次ソース突合済。他社会保険法との条文対応・未支給給付は「遺族の固有権」・公租公課免除は非課税を確認。基準日2026-04-10内で改正混入なし。正答エ維持。 -->
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(本試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 健康保険法第61条(譲渡・担保・差押禁止)・第62条(公租公課の免除)・第100条(未支給給付)・第193条(時効) 確認日: 2026-06-08 出典: e-Gov 健康保険法第61条・第62条・第100条 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=211AC0000000070 各根拠条文は厚生労働省「e-Gov法令検索」(https://elaws.e-gov.go.jp/)で原文を確認できます。令和8年度(2026年度)試験基準日時点で施行されている法令の数値を反映(数値確認日 2026-06-08-wave4-legal-revision)。
本問・解説は試験対策のための学習コンテンツです。法令・通達は改正されることがあるため、最新の内容は厚生労働省・全国社会保険労務士会連合会の公式情報をご確認ください。