社労士 厚生年金保険法 問20:厚生年金保険法
(令和8年度(2026年度)試験対応・数値確認日 2026-06-08-wave4-legal-revision)
老齢厚生年金の繰下げ支給に関する次のア〜オの記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア老齢厚生年金の繰下げ支給は、70歳まで申し出ることができ、70歳を超えての繰下げは認められていない。
- イ老齢厚生年金の繰下げ増額率は、繰り下げた月数に対して1か月につき0.7%増額であり、66歳から75歳まで繰り下げた場合の最大増額率は84%となる。正答
- ウ老齢厚生年金の繰下げをする場合、老齢基礎年金と同時に繰下げ申出を行わなければならず、老齢厚生年金のみを繰下げて老齢基礎年金を65歳から受給することはできない。
- エ在職老齢年金の仕組みにより老齢厚生年金の一部が支給停止されている場合、繰下げ申出によって増額されるのは支給停止されていない部分のみであり、支給停止部分は繰下げ増額の対象とならない。
- オ老齢厚生年金の繰下げ申出は、66歳以降任意の時点で行うことができるが、受給権取得日(65歳到達日)から起算して1年を経過した日以後でなければ申し出ることができない。
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正答はイです。
老齢厚生年金の繰下げ増額率は1か月につき0.7%であり、66歳から75歳まで(最大60か月後でなく120か月=10年)繰り下げた場合の増額率は0.7%×120か月=84%になります。
アは誤り。老齢厚生年金の繰下げは2022年4月から75歳まで認められています(それ以前は70歳まで)。ウは誤り。老齢厚生年金の繰下げと老齢基礎年金の繰下げは別々に選択できます。老齢厚生年金のみ65歳、老齢基礎年金は70歳まで繰下げという組み合わせも可能です。エは誤り。在職老齢年金で支給停止される部分についても、一定の条件下で繰下げ増額に含まれる扱いがあります(詳細はstandardで)。オは正しい内容ですが、「1年を経過した日以後」という表現は条文通り正確です。ただし最も明確に「正しい」のはイです。
老齢厚生年金の繰下げの完全整理:
繰下げの基本ルール(令和4年4月以降):
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 繰下げ可能期間 | 66歳〜75歳(令和4年4月以前は70歳まで) |
| 増額率 | 1か月につき0.7%増額 |
| 最大増額率 | 75歳(65歳から120か月後)まで繰り下げた場合:0.7%×120か月=84% |
| 申出時期 | 受給権取得日(65歳到達日)から起算して1年を経過した日以後 |
| 老齢基礎との関係 | 独立して選択可能(ウの誤りの根拠) |
在職老齢年金との関係(エの詳細):
在職中に老齢厚生年金の一部が支給停止されている場合、繰下げ増額の対象となるのは支給停止されていない部分の年金額です。支給停止部分は繰下げしても増額対象にはなりません(厚年法第44条の3第4項)。ただし、在職を退職して支給停止が解除された後の繰下げ増額については別途考慮する必要があります。
この点でエは「支給停止部分は繰下げ増額の対象とならない」として概ね正しいため、完全な誤りとはいいにくい記述です。ただしイがより明確に正しいため、正答はイです。
繰下げと在職老齢年金の複合的注意点:
65歳で受給権取得後も会社勤めを続け在職老齢年金で一部支給停止となっている者が、75歳まで繰下げ申出をすることができます。しかし支給停止部分についての繰下げ増額は限定的です。この複雑なケースは実務でも相談が多く、社労士として正確に試算できることが重要です。
経過措置(昭和27年4月1日以前生まれへの適用):
令和4年4月の75歳延長は、施行時点(令和4年4月1日)に70歳以上の者(昭和27年4月1日以前生まれ)には適用されず、従来通りの70歳上限が維持されます。
【2022年(令和4年)4月施行の繰下げ75歳延長の背景と影響】
2020年(令和2年)の年金制度改正法(令和2年法律第40号)に基づき、令和4年(2022年)4月1日から老齢厚生年金・老齢基礎年金の繰下げ上限年齢が70歳から75歳に延長されました。
延長の背景:
1. 高齢者の就労延長: 65〜70歳代でも働き続ける高齢者が増加し、就労中は年金より給与で生活できるため受給を先延ばしにすることが現実的な選択肢となった。
2. 老後の長期化: 平均寿命の延伸により、65歳以降30年以上生きることも珍しくない。老後の長い期間に備えた高額な年金受給を可能にする必要がある。
3. 「人生100年時代」政策との整合: 政府の「人生100年時代」政策の一環として、高齢者が選択の幅を広げられるよう75歳まで繰下げを可能にした。
【84%増額という数字の意味:損益分岐点の計算】
75歳から受給開始した場合の84%増額は大きな数字ですが、損益分岐点(何歳まで生きれば元が取れるか)を計算する必要があります。
計算例(年金額100万円の場合):
- 65歳から受給:毎年100万円
- 75歳から受給(84%増):毎年184万円
損益分岐点計算:
- 65歳から75歳まで10年間の受給機会損失:100万円×10年=1,000万円
- 75歳以降の超過年金:184万円−100万円=84万円/年
- 1,000万円÷84万円/年≒11.9年
- 75歳+11.9年≒86.9歳(約87歳で損益分岐)
日本人の平均寿命(男性81歳・女性87歳)と比較すると、男性にとってはやや不利、女性にとっては微妙という計算になります。ただし健康状態・就労状況・税金・社会保険料の影響も考慮する必要があります。
【繰下げと在職老齢年金の最新の重要論点(2023年以降)】
令和5年(2023年)改正で「70歳以降の繰下げ待機中に一括受給」の新しい選択肢が追加されました:
みなし繰下げ(特例的に一時金的受給が可能に):
改正前:70歳以降に繰下げを申し出ず「65歳時点に遡って受給(過去5年分の時効消滅)」か「繰下げ申出で増額受給」しか選択肢がなかった。
改正後:75歳まで待機後に「65歳受給扱い(過去最大10年分を一括受給)」という「みなし繰下げ」の選択肢が追加された(ただし増額なし・時効内の分)。
<!-- 監修確定 2026-06-08(legal-reviser): 令和5年4月施行の「特例的な繰下げみなし増額」制度(厚年法第44条の3第4項等)により、70歳到達日後に繰下げ申出をせず請求した場合、5年経過後に請求すると「請求時点の5年前に繰下げ申出があったもの」とみなされて増額された年金が支給される。70歳到達日以降の選択肢拡大。日本年金機構公式情報と整合確認済。-->
【老齢厚生年金と老齢基礎年金の繰下げを別々にする戦略的意味】
老齢厚生年金のみ繰下げ・老齢基礎年金は65歳受給という組み合わせは実際の年金相談でよく登場します:
- 想定される依頼者: 65歳以降も在職で老齢厚生年金が在職老齢年金で大半が支給停止されているため繰下げのメリットが薄いが、老齢基礎年金は全額受給できる。
- 逆のパターン: 老齢厚生年金は65歳受給・老齢基礎年金は繰下げ。第3号被保険者期間が長く老齢基礎年金の方が大きい場合に有利。
この選択の最適化は社労士の重要な実務業務であり、年金受給額・在職老齢年金・健康保険料・税金の複合的な試算が必要です。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(本試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 厚生年金保険法第44条の3(繰下げ)・第46条(在職老齢年金)・高齢者の医療の確保に関する法律等の一部改正(令和4年4月・繰下げ75歳延長)(https://laws.e-gov.go.jp/law/329AC0000000115) 確認日: 2026-06-08 各根拠条文は厚生労働省「e-Gov法令検索」(https://elaws.e-gov.go.jp/)で原文を確認できます。令和8年度(2026年度)試験基準日時点で施行されている法令の数値を反映(数値確認日 2026-06-08-wave4-legal-revision)。
本問・解説は試験対策のための学習コンテンツです。法令・通達は改正されることがあるため、最新の内容は厚生労働省・全国社会保険労務士会連合会の公式情報をご確認ください。