社労士 厚生年金保険法 問33:厚生年金保険法
(令和8年度(2026年度)試験対応・数値確認日 2026-06-08-wave4-legal-revision)
厚生年金保険の経過的加算(差額加算)に関する次のア〜オの記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア経過的加算は、老齢厚生年金に加算される定額の加算であり、全ての老齢厚生年金受給者に一律に支給される。
- イ経過的加算は、20歳前または60歳以後の厚生年金保険の被保険者期間に係る差額を補填するための調整額である。正答
- ウ経過的加算の額は、当該被保険者期間中に受け取るはずだった老齢基礎年金の一部相当額を超えることはない。
- エ経過的加算は、老齢基礎年金の振替加算と同じ計算方式で算出される。
- オ経過的加算は、65歳以後に老齢厚生年金を受給する全ての者に適用されるが、特別支給の老齢厚生年金(60〜65歳)の期間には支給されない。
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正答はイです。
経過的加算は「20歳前または60歳以後の厚生年金保険の被保険者期間」についての差額を補填する制度です。1986年(昭和61年)の基礎年金制度導入に際して、それ以前の厚生年金制度からの経過的措置として設けられました。
アは誤り。経過的加算は全ての老齢厚生年金受給者に支給されるのではなく、20歳前または60歳以降に厚生年金に加入していた期間がある者に対して、その期間分を補填するものです。
エは誤り。経過的加算と振替加算(老齢基礎年金の配偶者加算)は全く異なる計算方式を用います。
オは誤り。経過的加算は65歳以前(特別支給の老齢厚生年金)の期間にも加算されます(報酬比例部分と同時に受給する定額部分に相当)。
経過的加算の制度の仕組み:
なぜ経過的加算が必要か?
1986年の基礎年金制度導入以前は、厚生年金には老齢基礎年金相当の「定額部分」が含まれていました。1986年以降、基礎年金は「20歳〜60歳の間の国民年金被保険者期間」に基づいて計算されることになりましたが、20歳未満または60歳以上の厚生年金被保険者期間は老齢基礎年金の計算対象外となります。
この「対象外となった期間」について、以前の定額部分相当を保障するのが経過的加算です。
経過的加算の計算方法:
経過的加算 = 厚生年金の定額部分 − 老齢基礎年金相当額
具体的には:
- 厚生年金の定額部分(20歳前・60歳以後含む全被保険者期間ベース)の計算額
- マイナス 老齢基礎年金の額(20〜60歳の被保険者期間のみで計算)
- この差額が経過的加算として支給される
20歳以前・60歳以後に厚生年金に加入したことがある者(長期加入者)は、定額部分>老齢基礎年金となるため経過的加算が生じます。
発生する典型的なケース:
- 18歳・19歳で就職して厚生年金に加入した者
- 60歳以降も厚生年金に加入し続けた者(70歳未満は加入継続可)
ウの誤りの理解:
経過的加算の額は「定額部分と老齢基礎年金の差額」であり、差額が正(プラス)の場合にのみ発生します。マイナスの場合(老齢基礎年金>定額部分)は経過的加算は0です。
【経過的加算制度の詳細設計と「定額部分」の廃止経緯・長期加入者特例との関係】
経過的加算は厚生年金制度の中でも特に複雑な給付の一つです。理解には1986年の基礎年金制度導入前後の制度変更を俯瞰する必要があります。
1986年基礎年金制度導入前後の比較:
| | 導入前(〜1986年3月) | 導入後(1986年4月〜) |
|---|---|---|
| 厚生年金の構成 | 報酬比例部分+定額部分(65歳未満) | 報酬比例部分のみ(65歳以上は老齢基礎年金と合算) |
| 定額部分の計算 | 被保険者期間全体(20歳前・60歳後含む) | 廃止(老齢基礎年金に置き換え) |
| 老齢基礎年金の計算基礎 | 国民年金被保険者期間(20〜60歳のみ) | 同左(現行) |
導入前の定額部分には20歳前・60歳以後の被保険者期間も含まれていましたが、老齢基礎年金はこれらの期間を含まないため「カバーされない期間」が生じました。経過的加算はこの「空白」を埋めるための過渡的な措置です。
経過的加算の計算式の精緻な理解:
```
経過的加算額 =
定額単価(1,701円/月・令和8年度)× min(被保険者期間月数, 480)
− 老齢基礎年金満額 × 20〜60歳の被保険者期間月数 / 480
```
この式から:
- 全て20〜60歳の480か月が厚生年金だった場合: 定額部分 = 老齢基礎年金 → 経過的加算 = 0
- 20歳前に12か月・60歳以後に12か月厚生年金加入(追加24か月): 経過的加算 > 0
長期加入者特例(240か月・300か月以上)との関係:
厚生年金の長期加入者特例では、被保険者期間が240か月(20年)以上で60歳到達した者に対して特別支給の老齢厚生年金の定額部分が支給されます。この定額部分の計算にも20歳前・60歳以後の期間が含まれます(長期加入特例者の場合は経過的加算との関係がより複雑)。
特別支給の老齢厚生年金(特老厚)との関係(オの誤りの詳細):
60歳〜65歳未満に支給される特別支給の老齢厚生年金には「報酬比例部分」と、長期加入者等への「定額部分」が含まれます。この「定額部分」が経過的加算の前身に相当する給付であり、経過的加算は特老厚の期間にも関連します。
65歳以後の老齢厚生年金受給時に「定額部分(特老厚)と老齢基礎年金の差額」として経過的加算が算出されます。
経過的加算の「期限的性格」:
経過的加算は本来、1986年以前の被保険者が経過的保護として受ける「移行期の措置」です。昭和36年4月1日以前生まれの者は特老厚の対象(定額部分の受給権あり)であり、昭和36年4月2日以後生まれは特老厚の定額部分の対象外ですが経過的加算により調整されます。
将来的には(制度設計上は)20歳前・60歳以後の厚生年金加入期間がある者の経過的加算が縮小・消滅していく方向にありますが、実際には60歳以後も働き続ける者(高齢者雇用)が増加しており、実務的な重要性は維持されています。
社労士実務での経過的加算の取扱い:
年金請求手続きの場面で経過的加算は自動的に計算されますが、クライアントへの説明では「定額部分の代替給付」として説明するのが分かりやすいです。特に「なぜ60歳以後も厚生年金に加入しているのに老齢基礎年金の計算に入らないのか」という疑問に対して、経過的加算の仕組みを用いて「不利分は経過的加算で補填されている」と説明できます。
上位資格との接続:
FP1級・年金アドバイザー2級では「報酬比例部分の計算+経過的加算の計算を合算した老齢厚生年金の総額計算」が出題されます。経過的加算の計算式を含む複雑な年金計算は社労士試験でも上級問題として出題される可能性があります。
<!-- 監修確定 2026-06-08(legal-reviser): 厚年法附則第9条の2の2(経過的加算)・昭和61年改正附則に基づく。経過的加算は「20歳前・60歳以後の厚生年金加入期間と老齢基礎年金の差額補填」(イが正解)。全受給者一律ではない(ア誤)・振替加算とは別計算(エ誤)。一次ソース:e-Gov・日本年金機構公式確認済。 -->
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(本試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 厚生年金保険法附則第9条の2の2(経過的加算)・昭和61年改正附則(https://laws.e-gov.go.jp/law/329AC0000000115) 確認日: 2026-06-08 各根拠条文は厚生労働省「e-Gov法令検索」(https://elaws.e-gov.go.jp/)で原文を確認できます。令和8年度(2026年度)試験基準日時点で施行されている法令の数値を反映(数値確認日 2026-06-08-wave4-legal-revision)。
本問・解説は試験対策のための学習コンテンツです。法令・通達は改正されることがあるため、最新の内容は厚生労働省・全国社会保険労務士会連合会の公式情報をご確認ください。