社労士 厚生年金保険法 問8:厚生年金保険法
(令和8年度(2026年度)試験対応・数値確認日 2026-06-07)
老齢厚生年金の繰上げ受給・繰下げ受給および在職定時改定に関する次のア〜オの記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア老齢厚生年金(本来支給)の繰下げ受給を選択した場合の増額率は1か月あたり0.7%であり、最大75歳(120か月)まで繰り下げると84%増額となる。老齢基礎年金と老齢厚生年金は同時に繰り下げなければならず、片方だけを繰り下げることはできない。
- イ在職定時改定は、65歳以上の在職中の老齢厚生年金受給者について、毎年9月1日を基準に前年10月〜当年9月の被保険者期間を加算した額に年金額を改定する制度であり、令和4年4月から新設された。
- ウ特別支給の老齢厚生年金(60歳代前半)が支給される者(昭和36年4月1日以前生まれの男性・昭和41年4月1日以前生まれの女性)のうち、坑内員・船員については、55歳から特別支給が開始される特例がある(定額部分・報酬比例部分ともに)。
- エ老齢厚生年金の繰上げ受給(特別支給の老齢厚生年金の繰上げ請求を含む)を選択した場合、老齢基礎年金も同時に繰り上げなければならないが、繰下げ受給については老齢基礎年金と老齢厚生年金を別々に選択することができる。正答
- オ在職定時改定により改定された年金額は、その後在職老齢年金による支給停止計算の対象とはならず、改定額が全額支給される。
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正答はエです。
老齢厚生年金の繰上げ受給を選択した場合は老齢基礎年金も同時に繰り上げる必要があります(国年・厚年附則の規定)。しかし繰下げ受給については、老齢基礎年金と老齢厚生年金をそれぞれ独立して選択することができます(どちらか一方だけ繰り下げることも可能)。エはこの非対称な規定を正確に記述しています。
アは誤りで、繰下げは「老齢基礎年金と老齢厚生年金を同時に繰り下げなければならない」という規定はありません。それぞれ独立して繰り下げ可能(アはこの点が誤り)。
イは一部誤りで、在職定時改定は毎年9月1日を基準日として前年9月(10月ではなく9月)から当年8月の被保険者期間を加算して改定します。
繰上げ・繰下げの「非対称ルール」(試験頻出):
| 項目 | 繰上げ | 繰下げ |
|---|---|---|
| 国年(基礎)と厚年(厚生)の同時性 | 同時繰上げ必須(片方だけ不可) | 各々独立して選択可(片方だけ可) |
| 増減率 | ▲0.4%/月(昭和37.4.2以後生まれ)▲0.5%/月(以前生まれ) | +0.7%/月 |
| 最大変動 | ▲24%(60か月・0.4%適用の場合) | +84%(120か月) |
在職定時改定(令和4年4月〜)の仕組み:
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 65歳以上の在職中の老齢厚生年金受給者 |
| 基準日 | 毎年9月1日 |
| 改定対象期間 | 前年9月〜当年8月の被保険者期間を加算 |
| 改定後の適用 | 10月1日から翌年9月30日 |
| 在老との関係 | 改定後の年金額が在職老齢年金の計算基礎になる(支給停止計算は引き続き適用) |
各選択肢の解説:
- ア(誤): 「同時に繰り下げなければならない」が誤り。老齢基礎年金と老齢厚生年金の繰下げはそれぞれ独立して選択可能(kokunen_06との連動論点)。
- イ(誤): 在職定時改定の基準は前年「9月〜当年8月」(「前年10月〜当年9月」は誤り)。また令和4年4月新設は正しい記述です。
- ウ(部分的に正・ただし対象者ほぼゼロ): 坑内員・船員の特例(厚年法附則第8条の2)として、坑内員・船員の合算被保険者期間(実期間)が15年以上ある昭和21年4月1日以前生まれの者は定額部分+報酬比例部分の特別支給が55歳から開始される。生年月日に応じて段階的に支給開始年齢が引き上げられ、昭和29年4月2日以降生まれは60歳開始(一般の特別支給と同じ)。令和8年度試験基準日(2026-04-10)時点で「55歳支給」の対象者は昭和21.4.1以前生まれ=既に79歳以上=既に支給開始済で、現在進行形での新規該当者は存在しない。設問ウは制度の歴史的記述としては正確だが、現行運用としての「55歳特例」適用者はほぼ存在しない点に注意。
- エ(正): 繰上げは同時強制・繰下げは独立選択可能という非対称規定。kokunen_06と本問の合わせ技で「繰上げ・繰下げの選択ルールの全体像」を把握することが重要です。
- オ(誤): 在職定時改定による改定後の年金額も在職老齢年金の計算対象になります(支給停止が免除されるわけではない)。在職定時改定で年金額が増えた分、在老の停止計算でより多くが停止される可能性があります。
【在職定時改定の政策的意義:「働けば年金が増える」インセンティブ設計】
在職定時改定(厚年法第43条の2・令和4年4月新設)は、65歳以上の在職中の高齢者について「毎年9月1日を基準に、その前1年間の被保険者期間を年金額に加算する」制度です。
導入前の問題点(退職時改定のみ):
- 従来は在職中(厚年被保険者期間)は退職まで年金額が固定(途中での増額なし)
- 退職して初めて「退職改定」が適用され、在職中の加入期間分が年金額に反映される
- 結果として「今働いても年金額が増えるのは退職後」という就労継続のインセンティブが弱い構造
在職定時改定の効果:
- 在職中でも毎年9月に年金額が増額(1年間働くことの年金への貢献が毎年見える化)
- 在職老齢年金で停止されていた分が残るとしても、基礎となる年金額が年々増加
- 「長く働けば働くほど老後の受取年金額が増える」という高齢就労促進のシグナル
在職定時改定と在老の関係(重要):
- 在職定時改定で年金額が増えた場合、在老の計算式(基本月額+総報酬月額相当額 vs 650,000円/月)の基本月額が増加
- 収入が同一なら、年金額増加分の一部が在老で停止される可能性
- ただし650,000円/月(65万円)以下の収入の場合は停止なし→増額分を全額受け取れる
実務では「在老で停止される収入水準かどうか」によって、在職定時改定のメリットが変わります。65万円以下の収入(基本月額+総報酬月額相当額の合計)の者は在職定時改定の恩恵を満額受け取れます。
【坑内員・船員の特例の現在的意義と社労士試験での位置づけ】
坑内員(鉱山坑内で働く者)および船員(船員保険の適用を受ける者)には、労働の特殊性(危険・孤立・健康への負担)から年金の特例があります:
55歳支給開始の特例(旧制度の遺産):
- 坑内員・船員は特別支給の老齢厚生年金(定額部分+報酬比例部分)が55歳から支給される特例がある(厚年法附則第8条の2)
- ただし対象者は「坑内員・船員として合算実期間(3分の4倍・5分の6倍しない実期間)15年以上」かつ「昭和21年4月1日以前生まれ」に限定
- 昭和21年4月2日以降生まれは生年月日に応じて段階的に支給開始年齢が引き上げ(昭和29.4.2以降生まれは一般と同じ60歳開始)
- 令和8年度試験時点で「55歳支給」の対象者(昭和21.4.1以前生まれ)は79歳以上で、既に支給開始済=新規該当者は存在しない
試験での出題ポイント:
- 「坑内員・船員は55歳から特別支給」という知識は試験頻出の「上位知識」として問われる
- 「一般の特別支給(60歳〜)との違い」「坑内員・船員でも定額部分の廃止は同様に進んでいる」等の細かい区別
【繰上げ・繰下げと「在職老齢年金・加給年金・振替加算」の三重複合論点】
老齢厚生年金の繰下げ選択と加給年金・振替加算との関係(kounen_04との連動論点)を整理します:
老齢厚生年金を繰下げする場合の加給年金:
- 繰下げ待機中は老齢厚生年金が支給されないため、加給年金も支給されない(加給年金は老齢厚生年金に付随)
- 繰下げ期間が長いほど、加給年金を受け取れない期間も長くなる
- 例: 70歳まで繰下げた場合、65〜70歳の5年間(最大5年分×加給年金年額)が受け取れない
計算例(概算):
- 加給年金年額(令和8年度・昭和18.4.2以後生まれの受給権者): 基本243,800円/年円+特別加算179,900円/年円=合計423,700円/年円/年(423,700円)
- 5年間繰下げ待機: 423,700円×5年≒約212万円の損失
- vs 繰下げ増額(老齢厚生年金の42%増)の利益
加給年金額が大きい者(配偶者が専業主婦・長い年齢差等)は、繰下げによる加給年金損失を考慮した総合計算が必要です。社労士試験の難問領域であり、実務での年金最適化相談の核心論点です。
【老齢厚生年金の「みなし繰下げ(5年前請求)」と在職老齢年金の交差点】
国民年金の繰下げと同様に(kokunen_06参照)、老齢厚生年金にも「5年前みなし繰下げ」が令和4年4月から創設されました:
- 70歳以後に老齢厚生年金を請求した場合、5年前(最大5年)まで遡ってみなし繰下げ請求があったとして、その時点の増額率を適用した年金額を一括受給できる
- ただし在職老齢年金で支給停止となっていた月分については「みなし繰下げの適用から除外」される
在職老齢年金で停止されていた期間を含む「みなし繰下げ」は計算が複雑で、社労士試験でも「難問」として出題される可能性があります(令和8年度以降の試験では出題リスクがある新制度)。
<!-- 監修確定 2026-06-07 legal-reviser: (1)正答エ(繰上げ国年厚年同時必須・繰下げは独立選択可)は国年法附則第9条の2・厚年法附則第13条の4で確認・正しい。(2)選択肢ア:繰下げを「同時に繰り下げなければならない」は誤り(独立選択可・令和4年4月改正)。(3)選択肢イ:在職定時改定の基準期間「前年9月〜当年8月」(厚年法第43条の2)が正しく、「前年10月〜当年9月」は誤り。令和4年4月新設は事実。(4)選択肢ウ:坑内員・船員特例(厚年法附則第8条の2)は「定額部分+報酬比例部分」とも55歳から(昭和21.4.1以前生まれ)=従前解説は「定額部分は段階廃止」と誤った記載をしていたため是正。令和8年度試験時点で対象者は新規該当者ゼロ。(5)選択肢オ:在職定時改定後の年金額は在老停止計算の対象(基本月額が増加するため)。「停止対象外」は誤り。(6)加給年金(昭和18.4.2以後)配偶者額423,700円(令和8年度)はvolatile_master登録値に更新。基準日外改正混入なし。 -->
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(本試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 厚生年金保険法第44条の3(繰下げ)・附則第7条の3(特別支給の老齢厚生年金の繰上げ)・附則第9条の2(坑内員・船員の特例)・第43条の2(在職定時改定・令和4年4月新設) 数値参照: KOSEI_HYOJUN_HOSHU_MAX={{KOSEI_HYOJUN_HOSHU_MAX}}(65万円/月・令和8年度)/ ZAIRO_TEISHI_CHOSEI={{ZAIRO_TEISHI_CHOSEI}}(65万円/月・令和8年度)・各2026-04-01発効(一次確認: 日本年金機構 https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/kuriage-kurisage/) 各根拠条文は厚生労働省「e-Gov法令検索」(https://elaws.e-gov.go.jp/)で原文を確認できます。令和8年度(2026年度)試験基準日時点で施行されている法令の数値を反映(数値確認日 2026-06-07)。
本問・解説は試験対策のための学習コンテンツです。法令・通達は改正されることがあるため、最新の内容は厚生労働省・全国社会保険労務士会連合会の公式情報をご確認ください。