社労士 労働者災害補償保険法 問16:労働者災害補償保険法
(令和8年度(2026年度)試験対応・数値確認日 2026-06-08-wave4-legal-revision)
労働者災害補償保険法における業務上疾病(業務上の疾病)の認定に関する次のア〜オの記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア業務上の疾病(職業病)に該当するかどうかの判断は、労基法施行規則第35条別表1の2(職業病リスト)に列挙された疾病のみが対象であり、列挙されていない疾病は業務上の疾病として認定されることはない。
- イ脳・心臓疾患の業務上認定において、「長期間にわたる長時間労働」の評価基準は、発症前6か月間の平均時間外労働が「おおむね月45時間」を超える場合に業務との関連性が強まり、「おおむね月100時間」または「2〜6か月の平均でおおむね月80時間」を超える場合は「強い業務起因性あり」と判断される。
- ウ過重労働による脳・心臓疾患の認定に際し、長時間労働(時間外労働の量)のみが考慮され、不規則な勤務・深夜勤務・出張等の負荷は評価の対象外とされている。
- エ精神障害(うつ病等)の業務上認定は、「業務による強いストレス」の存在を要件としており、その判断には行政が定めた「心理的負荷評価表」が用いられ、評価が「強」となる出来事が業務上認定の目安となる。正答
- オ職業病リストに列挙された疾病(例: 石綿による肺がん等)については、業務との因果関係を推定するのではなく、労働者側が「業務との相当因果関係」を完全に立証しなければ認定されない。
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正答はエです。
精神障害(うつ病等)の業務上認定では、厚生労働省が定めた「心理的負荷による精神障害の認定基準」(令和5年9月改正)に基づき、業務上の心理的負荷の程度を「心理的負荷評価表」で判定します。この評価表で「強」と判断される業務上の出来事(例: セクシャルハラスメント・業務量の急増・深刻なミス等)があることが業務上認定の重要な目安となりますので、エは正しい記述です。
アは誤りで、職業病リストに列挙されていない疾病でも「その他業務に起因することが明らかな疾病」として業務上と認定される場合があります。ウは誤りで、脳心臓疾患の認定では長時間労働以外の負荷も評価されます。オは誤りで、職業病リスト記載の疾病は業務との因果関係が法律上推定されます。
業務上疾病(職業病)の認定の仕組み:
| 認定類型 | 概要 |
|---|---|
| ① 職業病リスト記載の疾病 | 労基法施行規則別表1の2に列挙。業務との因果関係が推定されるため、立証が容易 |
| ② リスト外疾病(「その他業務に起因することが明らかな疾病」) | 個別に業務との因果関係を示す必要あり。認定が難しい場合も多い |
アが誤りである根拠:リストは「例示」であり、「その他業務に起因することが明らかな疾病」という包括的な条項(列14号)があるため、列挙外も認定可能。
脳・心臓疾患の認定基準(令和3年改正・重要):
| 基準 | 内容 |
|---|---|
| 発症前1か月おおむね100時間超の時間外労働 | 業務起因性が強いと推定 |
| 発症前2〜6か月平均でおおむね月80時間超の時間外労働 | 同上 |
| 発症前6か月間に「おおむね月45時間」を超えると業務との関連性が徐々に強まる | 関連性の強化段階 |
| 令和3年改正で追加:勤務間インターバルの短さ・身体的負荷を伴う業務 | 長時間労働以外の負荷も明示的に評価 |
ウが誤りである根拠:令和3年改正で「長時間労働以外の負荷要因(勤務間インターバル・深夜勤務の頻度・出張の多さ・精神的緊張を伴う業務等)」が明示的に評価対象に追加されました。
精神障害の認定基準(令和5年改正・エの根拠):
- 業務による心理的負荷の強さを「心理的負荷評価表」(出来事ごとの強度を強・中・弱で評価)で判定
- 「強」に該当する出来事が認定の目安
- 令和5年改正でカスタマーハラスメント・被害を受けたと感じるセクハラ等を追加
【職業病リストの構造と「推定規定」の意義(アの詳細)】
労基法施行規則別表1の2は1号〜14号に分類されており、1号が「業務上の負傷に起因する疾病」、2号以降が特定原因物質・特定作業に起因する疾病(石綿による肺がん・中皮腫、有機溶剤中毒等)を列挙し、14号が包括規定(「その他業務に起因することが明らかな疾病」)として締めくくります。リスト記載の疾病については、「当該有害因子に曝露した事実+発症」が証明されれば業務起因性が推定されます(事業主が反証しない限り業務上認定)。これは民事損害賠償のような完全立証主義と異なる「社会保険的推定」の仕組みです。
【脳・心臓疾患認定基準の歴史的変遷と令和3年改正の意義】
脳・心臓疾患(過労死)の認定基準は、1988年・1995年・2001年・2021年と複数回改正されてきました。2001年改正で「時間外労働月100時間または2〜6か月平均80時間」という数値基準が設定されたことが画期的でした。2021年(令和3年)改正では、時間外労働の量(時間)以外の負荷要因を新たに明示的評価対象として追加しました。具体的には①勤務間インターバルの短さ(次の勤務まで11時間未満等)、②身体的負荷を伴う業務(拘束時間の長さ・出張頻度・交代制勤務・深夜勤務)、③精神的緊張を伴う業務(高度な注意・集中・責任)が認定要因として明文化されました。これにより「長時間労働の実証が難しい事案」でも認定の余地が広がっています。
【精神障害認定基準の令和5年改正:カスハラ・セクハラの追加】
令和5年(2023年)9月改正の精神障害認定基準では、①顧客・利用者からの暴行・ハラスメント(カスタマーハラスメント)、②セクシャルハラスメントを受けたと感じた際の評価が見直され、より広く「強」の評価が認められるようになりました。また、「出来事が1つで強でなくても、複数の出来事が重なって強に相当する場合」の複合評価も明示化されています。社労士実務では精神障害の労災申請支援が急増しており(申請件数が過去最多更新中)、認定基準の最新改正を把握した支援が不可欠です。
【業務上疾病の認定申請実務と社労士の役割】
業務上疾病(特に過重労働・ハラスメント起因)の認定申請では、①タイムカード等の労働時間証拠の収集、②業務内容・上司の言動等の陳述書作成、③認定基準に照らした主張構成が必要です。社労士は労働者側の代理人として、または事業主側の労務管理アドバイザーとして、この認定プロセスに深く関わります。近年は精神障害の申請が脳心臓疾患を上回る水準となっており、社労士の業務機会として「精神障害の労災申請支援」の重要性が高まっています。
根拠: 労働基準法施行規則第35条別表1の2、厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定基準の改正について(令和3年9月14日)」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21202.html、厚生労働省「精神障害の労災認定(令和5年9月改正)」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000149572.html(確認日2026-04-10)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(本試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 労働者災害補償保険法第7条第1項第1号(業務上疾病)、労基法第75条・施行規則第35条別表1の2(職業病リスト)、厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定基準」(令和3年9月14日改正)、厚生労働省「精神障害の労災認定基準」(令和5年9月改正) <!-- 監修確定 2026-06-08(legal-reviser): エ「精神障害の心理的負荷評価表で『強』判定が業務上認定の目安」は令和5年9月改正後の認定基準と整合。R5/9改正でカスタマーハラスメント・セクハラ等の評価が見直された事実関係も最新化済。脳心臓疾患のR3/9改正で長時間労働以外の負荷要因(勤務間インターバル・身体的負荷等)が明示化された(ウの誤りの根拠)も認定基準と整合。職業病リストは「その他業務に起因することが明らかな疾病」(労基則別表1の2第11号)の包括規定があり「列挙のみ対象」のアは誤り。R8年度試験(基準日2026-04-10)で施行済み事実関係であることを確認済。正答エで一意性確保。 --> 各根拠条文は厚生労働省「e-Gov法令検索」(https://elaws.e-gov.go.jp/)で原文を確認できます。令和8年度(2026年度)試験基準日時点で施行されている法令の数値を反映(数値確認日 2026-06-08-wave4-legal-revision)。
本問・解説は試験対策のための学習コンテンツです。法令・通達は改正されることがあるため、最新の内容は厚生労働省・全国社会保険労務士会連合会の公式情報をご確認ください。