社労士 労働者災害補償保険法 問17:労働者災害補償保険法
(令和8年度(2026年度)試験対応・数値確認日 2026-06-08-wave4-legal-revision)
労働者災害補償保険法における第三者行為災害(第三者の行為による業務災害・通勤災害)に関する次のア〜オの記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア第三者行為災害において、政府は被災労働者に保険給付を行った場合、その給付の価額を限度として、被災労働者が第三者に対して有する損害賠償請求権を代位取得する(求償権の行使)。
- イ第三者行為災害において、被災労働者が第三者から先に損害賠償を受けた場合、政府は保険給付の価額と損害賠償額が重複する範囲について、重複額を限度として保険給付を行わないことができる(控除)。
- ウ第三者行為災害において、被災労働者(または遺族)が第三者と示談を締結し損害賠償の全部の支払いを受けた場合、その後の労災保険給付は一切受けられなくなる。正答
- エ政府が第三者に対して求償権を行使する場合、求償の対象となるのは保険給付(療養補償・休業補償・障害補償等)に相当する額であり、慰謝料部分については求償できない。
- オ第三者行為災害の届出として、被災労働者(または事業主)は「第三者行為災害届」を所轄の労働基準監督署に提出することが求められる。
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正答はウ(誤っている記述)です。
ウは「示談で損害賠償の全部を受けた場合、その後の労災保険給付は一切受けられなくなる」としていますが、これは誤りです。示談で受け取った賠償額に相当する範囲(重複する部分)については保険給付が制限されますが、示談で填補されなかった損害(例: 将来の逸失利益・介護費用等)に対応する労災保険給付は引き続き受けられます。「全部の支払いを受けた」という文言に注意が必要で、示談内容が全損害を完全に填補している場合と部分的な場合で扱いが異なります。
アは正しく、求償権の代位取得はほぼそのとおりです。イは正しく、先払い控除の仕組みです。エは正しく、慰謝料部分は求償対象外です。オは正しく、第三者行為災害届の提出義務があります。
第三者行為災害の基本的仕組み(法第12条の4):
第三者行為災害とは、業務上・通勤上の災害が第三者(事業主や被災労働者以外)の行為によって生じた場合です。典型例は交通事故(加害者が第三者)・第三者の故意・過失による労災です。
この場合、被災労働者には「労災保険給付を受ける権利」と「第三者への損害賠償請求権」が重複して発生しますが、同一損害について二重の填補は禁止されます。そこで次の2つの調整ルールがあります:
| 調整方式 | 内容 |
|---|---|
| 求償(法第12条の4第1項) | 政府が先に保険給付→第三者への損害賠償請求権を代位取得→第三者に求償 |
| 控除(法第12条の4第2項) | 第三者が先に賠償→その額を限度に保険給付を控除(重複給付防止) |
ウが誤りである詳細:
被災労働者が第三者と示談した場合、政府は「示談で填補された損害」の範囲で保険給付を行わないことができます。ただし、示談内容が労災保険給付の対象となる損害(逸失利益・治療費等)のすべてを填補しているわけではない場合や、示談による賠償額が労災給付の価額を下回る場合は、残額について労災保険給付が行われます。示談が「完全な損害填補」であることは稀であり、ウの「一切受けられなくなる」という断言は誤りです。
慰謝料と求償(エ):
求償の対象は労災保険給付に相当する損害(療養費・逸失利益等)のみです。精神的苦痛に対する慰謝料は保険給付の対象外のため、求償も不可。被災者は第三者から別途慰謝料を受け取ることができます。
【第三者行為災害の「先行調整」と「事後求償」の設計原理】
日本の労災保険制度は「保険給付先行→代位求償」を原則とする設計です。これは被災労働者の迅速保護(第三者との損害賠償交渉に時間がかかるため、まず保険給付で救済)と、最終的な損失は加害者に帰着させるという公平性の両立を図るものです。欧米の多くの制度も同様の設計を採用しています。
【示談の法的効果と「全額示談」の例外的場合】
被災労働者が第三者と示談した場合の法的効果は複雑です:
1. 示談が「てん補」した損害の範囲を超えて全損害を免除する内容の場合: 政府の求償権が消滅し(被災者が自ら権利を放棄したため)、以後の保険給付も重複部分については制限される。
2. 示談が一部の損害のみを対象とする場合: 示談対象外の損害部分については保険給付が継続される。
実務上問題となるのは「示談書の文言が曖昧で、示談の範囲が労災給付対象部分を含むかどうか不明な場合」です。被災者が示談する際に社労士に相談せず、「将来の逸失利益・介護費用まで含めた全額放棄」的な示談書にサインしてしまうと、以後の労災保険給付が制限されるリスクがあります。社労士は示談交渉に際して「労災保険への影響」を被災者に説明する責務があります。
【求償権の行使実態と回収困難ケース】
政府(労働基準監督署)が第三者に求償する場合、第三者が自動車保険(任意保険・自賠責)に加入していれば保険会社から回収できます。しかし、第三者が無保険・支払い能力がない場合は回収困難となります。このため、実務上は「政府が先行して保険給付を行い、求償は後から行うが回収できない場合もある」というリスクが制度上内在しています。
【自賠責保険との関係:交通事故の場合の複合調整】
通勤途中の交通事故(典型的な第三者行為災害)の場合、第三者(加害者)の自賠責保険と任意保険、および労災保険(療養・休業補償等)の3つの補償制度が競合します。実務的な調整順序は「自賠責先行→労災後から補填」または「労災先行→自賠責求償」のどちらかで、被災者の選択・任意保険会社との交渉・監督署との調整が必要となる複雑な手続きです。社労士・弁護士・任意保険会社の3者が関与するケースが多く、社労士としては労災側の手続き・申請を担います。
【第三者行為災害届の実務的意義(オ)】
第三者行為災害届は、「第三者が誰か・どのような経緯で災害が起きたか・第三者の損害賠償の状況」を監督署に報告するものです。この届出が適切に行われることで、政府は第三者への求償権を適切に行使できます。事業主が被災労働者に代わって届出を行うことが多く、社労士が作成・提出を支援するのが実務的な流れです。
根拠: 労働者災害補償保険法第12条の4。厚生労働省「第三者行為災害について(手引き)」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/topics/dl/tp0401-1_00001.pdf(確認日2026-04-10)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(本試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 労働者災害補償保険法第12条の4(第三者行為災害・求償・控除)、厚生労働省「第三者行為災害について」 <!-- 監修確定 2026-06-08(legal-reviser): ア「政府の代位取得(求償権)」は法第12条の4第1項、イ「控除」は同条第2項と整合。エ「慰謝料は求償対象外(保険給付に相当しない損害は求償できない)」は最高裁判例(H元.4.27等)の確立した解釈と整合。ウの「示談全部受領→以後一切受給不可」は誤りで、示談で填補されなかった損害(追加発生分・継続中の障害補償等)は引き続き請求可能。正答ウで一意性確保。 --> 各根拠条文は厚生労働省「e-Gov法令検索」(https://elaws.e-gov.go.jp/)で原文を確認できます。令和8年度(2026年度)試験基準日時点で施行されている法令の数値を反映(数値確認日 2026-06-08-wave4-legal-revision)。
本問・解説は試験対策のための学習コンテンツです。法令・通達は改正されることがあるため、最新の内容は厚生労働省・全国社会保険労務士会連合会の公式情報をご確認ください。