社労士 労働者災害補償保険法 問18:労働者災害補償保険法
(令和8年度(2026年度)試験対応・数値確認日 2026-06-08-wave4-legal-revision)
労働者災害補償保険法における複数事業労働者に対する保険給付に関する次のア〜オの記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア複数事業労働者(複数の事業に雇用されている労働者)に業務災害が発生した場合、保険給付は「主たる事業(最も収入が多い事業)」の事業主のみが加入している労災保険から給付される。
- イ複数事業労働者の「複数業務要因災害」とは、一の事業の業務上の要因のみでは業務上の疾病等に当たらないが、複数の事業の業務上の負荷を総合的に評価することにより業務に起因する疾病等と認定される場合をいう。
- ウ複数事業労働者の給付基礎日額は、それぞれの事業における賃金額のいずれか高い方の額のみを基礎として算定する。
- エ複数事業労働者が一の事業場(A社)での業務中に負傷した場合(単一事業の業務上災害)でも、給付基礎日額はA社の賃金のみならず、他の事業(B社)の賃金も合算して算定される。正答
- オ複数業務要因災害に係る保険給付は、2020年9月以前から存在した制度であり、複数の事業の業務上の負荷を合算する取扱いは以前から行われていた。
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正答はエです。
複数事業労働者(2社以上で働いている労働者)に業務上災害が発生した場合、給付基礎日額はすべての事業の賃金を合算して算定されます。たとえA社での業務上の負傷(単一事業の業務災害)であっても、その労働者がB社でも働いているなら、給付基礎日額にはA社とB社両方の賃金が合算されます(エが正しい)。
アは誤りで、単一事業の業務上災害でも給付基礎日額には全事業の賃金を合算します。ウは誤りで、高い方だけでなく合算します。イは正しく複数業務要因災害の定義として概ね正確ですが、後述のように設問の正答はエです。オは誤りで、複数業務要因災害制度は2020年9月1日施行の新制度です。
複数事業労働者関連の制度(2020年9月1日施行・法改正):
2020年9月の法改正で以下の制度が新設されました:
| 制度 | 内容 |
|---|---|
| 複数業務要因災害 | 複数事業の業務上の負荷を総合評価して業務起因性を認定する制度 |
| 給付基礎日額の合算 | 全事業場の賃金を合算して給付基礎日額を算定(全ての保険給付に適用) |
エが正答である根拠(最重要論点):
法改正前は、単一事業の業務災害であっても、他事業の賃金は給付基礎日額に含まれませんでした。改正後は、単一事業での業務上災害でも複数業務要因災害でも、その労働者が複数事業に雇用されていれば全事業の賃金を合算して給付基礎日額を算定します。A社での業務上負傷であってもB社の賃金も算入される(エ)。これは「副業・兼業労働者の生活水準を実態に即した補償」という改正趣旨です。
各選択肢の精査:
- ア(誤): 主たる事業のみから給付するわけではない。給付基礎日額は全事業合算。
- イ(正確だが誤りではない): 複数業務要因災害の定義として概ね正確(「一事業だけでは業務起因性なし→複数合算で認定」の構造)。
- ウ(誤): 「いずれか高い方」ではなく全事業の賃金を合算。
- エ(正): 単一事業の業務災害でも給付基礎日額は全事業合算。
- オ(誤): 2020年9月1日施行の全くの新制度。それ以前には制度として存在しなかった。
【複数事業労働者制度創設の背景:副業・兼業の法的保護の空白】
2018年以降、政府の「働き方改革」政策の一環として副業・兼業の促進が進められました。しかし、従来の労災保険制度では「複数の事業に就労していても、一の事業での業務災害に限りその事業の賃金のみで給付基礎日額を算定する」という構造でした。副業・兼業労働者が本業より副業の賃金が高い状況では、本業での事故による休業補償が実態の生活水準を下回るという問題がありました。2020年改正はこの保護の空白を埋める立法です。
【「複数業務要因災害」の実務的意義:過重労働・精神障害認定への影響】
複数業務要因災害として最も問題になるのは、①A社での長時間労働(単独では月80時間未満)+B社での長時間労働(単独では月80時間未満)→合算すると月100時間超、というパターンです。以前はA社単独でもB社単独でも脳心臓疾患の認定基準(月100時間超)を満たさないため「業務外」とされていましたが、改正後は合算評価で認定されるケースが生まれました。精神障害でも同様に、複数事業の業務上ストレスの合算評価が可能になっています。
【給付基礎日額合算の計算方法】
複数事業労働者の給付基礎日額は、各事業場ごとに算定した「各事業の給付基礎日額(賃金÷算定期間)」を合算した額です。具体的には:
1. A社の直近3か月の賃金合計 ÷ 暦日数 = A社の給付基礎日額
2. B社の直近3か月の賃金合計 ÷ 暦日数 = B社の給付基礎日額
3. A社+B社 = 合算後の給付基礎日額
この合算後の日額が休業補償・障害補償・遺族補償等の全ての保険給付の基礎となります。
【複数事業労働者と特別加入(第3種)の関係】
フリーランス・ギグワーカーが複数の仕事を掛け持ちするケースでは、「一方は雇用労働者(一般の労災保険対象)・他方は自営業(特別加入対象)」という複合的な地位になることがあります。この場合の給付基礎日額の合算方法は複雑で、通達・行政解釈での個別対応が必要な先進的論点です。
【社労士実務:複数事業労働者対応の実務的課題】
企業側(事業主)の視点では、「従業員が副業・兼業をしていること」を把握していない場合でも、当該従業員が業務上災害を負った際に「副業先の賃金を含めた合算給付基礎日額が適用される」という新たなリスクが発生します。副業・兼業の会社への届出義務化・就業規則整備は社労士の新たな業務機会です。また、複数業務要因災害の認定支援(複数事業の労働時間を合算した証拠収集・認定申請代行)は、社労士実務の最前線領域となっています。
根拠: 労働者災害補償保険法第7条第1項・第20条の2〜第20条の9(2020年9月1日施行)。厚生労働省「複数事業労働者への労災保険給付の見直し」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/fukusu/index.html(確認日2026-04-10)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(本試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 労働者災害補償保険法第7条(複数事業労働者)、第20条の2〜第20条の9(複数業務要因災害の保険給付)、同法附則第64条(2020年9月1日施行) 数値根拠: VolatileBox不要(制度の構造・条文値) <!-- 監修確定 2026-06-08(legal-reviser): エ「単一事業の業務上災害でも給付基礎日額は全事業合算」は2020年9月1日施行改正(法第8条第3項・附則第64条)と整合。オ「2020年9月以前から存在」は明確に誤り(新制度創設)。イの複数業務要因災害の定義(一事業単独では業務上に当たらないが複数合算で業務起因性認定)は法第20条の2第1号と整合し基本的に正しい(ただし正答はエ・全事業合算の論点)。正答エで一意性確保。 --> 各根拠条文は厚生労働省「e-Gov法令検索」(https://elaws.e-gov.go.jp/)で原文を確認できます。令和8年度(2026年度)試験基準日時点で施行されている法令の数値を反映(数値確認日 2026-06-08-wave4-legal-revision)。
本問・解説は試験対策のための学習コンテンツです。法令・通達は改正されることがあるため、最新の内容は厚生労働省・全国社会保険労務士会連合会の公式情報をご確認ください。