社労士 労働者災害補償保険法 問28:労働者災害補償保険法
(令和8年度(2026年度)試験対応・数値確認日 2026-06-08-wave4-legal-revision)
労働者災害補償保険法に規定する「算定基礎日額」および「特別給付金」に関する次のア〜オの記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア「算定基礎日額」とは、被災労働者が被災前1年間に支払われた「特別給与(賞与・一時金等)」の総額を365で除して得た額をいい、特別年金・特別一時金の算定基礎として用いられる。
- イ算定基礎日額は、業務上の傷病等が発生した日の直前1年間に事業主から支払われた「ボーナス等の特別給与」の総額(上限あり)を365で除して算出する。
- ウ特別支給金(特別年金・特別一時金)は「傷病補償年金」「障害補償年金」「遺族補償年金」等の保険給付に上乗せして支給されるものであり、算定基礎日額ではなく「給付基礎日額」を基準として計算される。正答
- エ算定基礎日額の計算において、被災前1年間に支払われた特別給与の総額が「給付基礎日額の365倍の20%」を超える場合は、「給付基礎日額の365倍の20%」を特別給与の額とみなして計算する。
- オ特別支給金(休業特別支給金を含む)の支給は、労災保険給付(保険給付本体)に加えて支給されるものであり、使用者の損害賠償責任との調整(損益相殺)の対象とはならないとするのが最高裁判所の判例である。
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正答はウ(誤っている記述)です。
特別年金・特別一時金(障害特別年金・遺族特別年金・傷病特別年金・障害特別一時金・遺族特別一時金)は、「算定基礎日額」を基準として計算されます。設問ウの「給付基礎日額を基準として計算される」は誤りです。
ただし「休業特別支給金」だけは例外で、給付基礎日額×20%で計算されます。混同しやすい論点です:
- 特別年金・特別一時金 → 算定基礎日額が基準
- 休業特別支給金 → 給付基礎日額が基準
算定基礎日額は「被災前1年間に受けた賞与等特別給与の総額÷365」で計算し、特別給与総額の上限は「給付基礎日額×365×20%」です。
算定基礎日額と給付基礎日額の使い分け:
| 区分 | 基準となる日額 | 給付の種類 |
|---|---|---|
| 保険給付本体 | 給付基礎日額 | 療養補償給付・休業補償給付・傷病補償年金・障害補償給付・遺族補償給付・葬祭料・介護補償給付 |
| 特別支給金(特別年金・特別一時金) | 算定基礎日額 | 障害特別年金・遺族特別年金・傷病特別年金・障害特別一時金・遺族特別一時金・傷病特別給付 |
| 休業特別支給金 | 給付基礎日額 | 休業補償給付に加えて(給付基礎日額×0.2×20%) |
算定基礎日額の計算:
- 計算式: (被災前1年間の特別給与総額)÷ 365
- 特別給与総額の上限: 給付基礎日額 × 365 × 20%
- 算定基礎日額の実質上限: 給付基礎日額 × 20%(上限の総額 ÷ 365)
各選択肢の整理:
- ア(正): 算定基礎日額の定義(特別給与総額÷365)は正しい。
- イ(正): 被災前直前1年間の特別給与総額(上限あり)を365で除する計算は正しい。
- ウ(誤): 「給付基礎日額を基準として計算される」が誤り。特別年金・特別一時金は算定基礎日額を基準として計算される(休業特別支給金は別系統で給付基礎日額が基準)。
- エ(正): 特別給与総額の上限は「給付基礎日額×365×20%」であり、これを超える場合は上限額を用いて算定基礎日額を計算する。
- オ(正): 特別支給金は損益相殺の対象とならないとする最高裁判決(最判S62.7.10等)が確立した判例。
休業特別支給金と算定基礎日額の関係の注意点:
休業特別支給金(給付基礎日額の20%相当)は「給付基礎日額」が基準であり「算定基礎日額」ではありません。これは特別年金・特別一時金(算定基礎日額が基準)との混同が生じやすい重要な区別です。
【算定基礎日額の制度趣旨:賞与補償の公平性の確保】
労災保険の給付基礎日額は「平均賃金(日常の給与を基準とした1日当たりの賃金額)」が基礎となります。しかし日本の賃金制度では、年収の20〜30%を占めるボーナス(特別給与)が「平均賃金」の計算から除外されています(労基法第12条第4項)。
この結果、「高額のボーナスを受けていた労働者」が被災した場合でも、ボーナス部分は給付基礎日額に反映されず、保険給付が実際の収入水準を大幅に下回るという「補償の過少」問題が生じました。
算定基礎日額(特別給与額 ÷ 365)を用いた特別支給金(特別年金・特別一時金)制度は、この問題に対応するために設けられました。「日常の給与部分(給付基礎日額ベース)」と「特別給与部分(算定基礎日額ベース)」を分けて補償することで、被災前の実際の収入水準に近い補償を実現します。
【特別給与の上限規制:算定基礎日額の過大化防止】
算定基礎日額の上限が「給付基礎日額×20%」とされている理由は以下の通りです:
日本の賃金実態では、特別給与(ボーナス)は年収の20%前後が典型的な水準です。特別給与が年収の20%を超える場合(例:給与の2割が日常給与で8割がボーナスという異常な構造)は、「ボーナス部分を特別支給金で補償」という制度の趣旨を超えて過大な補償につながるリスクがあります。
このため「特別給与は給付基礎日額×365×20%を超えないように上限を設定」することで、制度の安定的な運営を図っています。
【損益相殺の対象外となる根拠:最高裁判決の法理】
特別支給金(特別年金・特別一時金・休業特別支給金)が損益相殺の対象とならない理由については、最高裁判所昭和62年7月10日判決が基本的な法理を確立しています。
損益相殺とは「損害と同一の原因(不法行為等)により利益を受けた場合、その利益を損害額から差し引く」という民法上の法理です。労災保険給付(保険給付本体)については「被災者(労働者)が保険料(事業主が負担するが経済的には労働者の賃金コストに含まれる)という対価を払っているため、損益相殺の対象になる」と解されています。
一方、特別支給金は:
1. 社会政策的給付としての性格: 特別支給金は保険給付の性格を持つ「傷病補償年金」等と異なり、「労働者の福祉増進・被災者援護」を目的とした社会政策的な追加給付としての性格が強い。
2. 損害填補目的ではない: 損益相殺の対象となるのは「損害を填補する目的で支給される給付」であるが、特別支給金は「保険給付本体に加えて福祉的に支給される上乗せ給付」であり損害填補目的ではない。
3. 使用者の賠償責任との分離: 特別支給金を損益相殺の対象とすると、「労働者が損害賠償請求できる額が減少する→使用者の損害賠償責任が事実上軽減される」という結果になり、安全配慮義務の抑止効果が弱まる。
この法理は現在も判例として確立しており、被災労働者が民事損害賠償訴訟を提起する際に「特別支給金を差し引かずに損害額を計算できる」という重要な実務上の意義を持ちます。
【社労士の実務:算定基礎日額の確認と特別支給金申請支援】
社労士が被災労働者の労災申請を支援する際、以下の点が実務上重要です:
1. 算定基礎日額の計算: 被災前1年間の賞与等特別給与の実績を使用者から取得し、上限適用後の算定基礎日額を計算する。特別給与の証明(賞与明細・源泉徴収票等)の収集が必要。
2. 特別支給金の種類と申請タイミング: 障害特別年金(障害補償年金の申請時)・遺族特別年金(遺族補償年金の申請時)等、保険給付本体の申請と合わせて特別支給金の申請書(様式別途)も提出する。
3. 算定基礎日額の変更: 被災後も特別給与の実績が変動した場合、算定基礎日額の改定申請が必要になることがある。
根拠: 労働者災害補償保険法第8条の2(算定基礎日額)、労働者災害補償保険特別支給金支給規則第2条・第3条(特別支給金の計算)、最高裁判所昭和62年7月10日判決(特別支給金の損益相殺非該当)。確認日2026-06-08。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(本試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 労働者災害補償保険法第8条の2(算定基礎日額)、労働者災害補償保険特別支給金支給規則第2条・第3条 <!-- 監修確定 2026-06-08(legal-reviser): ウが誤り。特別支給金のうち「障害特別年金・遺族特別年金・傷病特別年金・障害特別一時金・遺族特別一時金」は**算定基礎日額**を基準として計算される(給付基礎日額ではない)。設問ウは「給付基礎日額を基準として計算される」と述べているため明確に誤り。なお「休業特別支給金」だけは給付基礎日額×20%で計算されるが、これは特別年金・特別一時金とは別系統。ア正=算定基礎日額の定義(特別給与総額÷365)。イ正=被災前1年間の特別給与総額を365除算。エ正=特別給与総額の上限は給付基礎日額×365×20%(算定基礎日額の実質上限は給付基礎日額の20%)。オ正=特別支給金は損益相殺の対象外(最判S62.7.10)。正答=ウ。当初プラン正答位置「エ」だったが、法的正確性を優先しウを正答とした。 --> 各根拠条文は厚生労働省「e-Gov法令検索」(https://elaws.e-gov.go.jp/)で原文を確認できます。令和8年度(2026年度)試験基準日時点で施行されている法令の数値を反映(数値確認日 2026-06-08-wave4-legal-revision)。
本問・解説は試験対策のための学習コンテンツです。法令・通達は改正されることがあるため、最新の内容は厚生労働省・全国社会保険労務士会連合会の公式情報をご確認ください。