労働者災害補償保険法31労働者災害補償保険法

社労士 労働者災害補償保険法 問31:労働者災害補償保険法

令和8年度(2026年度)試験対応・数値確認日 2026-06-08-wave4-legal-revision

労働者災害補償保険法に規定する保険給付の支給制限に関する次のア〜オの記述のうち、**正しいもの**はどれか。

  • 業務上の傷病であっても、労働者が故意に傷病等を発生させた場合には、政府は保険給付の全部または一部を支給しないことができ、「故意」の存在は民事上の不法行為の要件と同一の水準で判断される。
  • 労働者が「重大な過失」により業務上の負傷をした場合、政府は保険給付の一部(30%相当額)を支給しないことができるが、療養補償給付(医療費の給付)についてはこの制限の対象外とされており常に全額支給される。正答
  • 保険給付を受けている者が、正当な理由がなく療養に関する指示(療養担当者の指示・病院への定期受診等)に従わない場合、政府は保険給付の全部または一部を支給しないことができる。
  • 業務上の傷病を発生させた労働者に「重大な過失」があると認定された場合でも、当該労働者の遺族への遺族補償給付については支給制限の対象とはならない。
  • 第三者(使用者以外の者)の行為により業務上の傷病が発生した場合、政府が保険給付を行ったとしても、当該労働者が第三者に対して有する損害賠償請求権は消滅せず、政府が代位取得することもない。
正答:労働者が「重大な過失」により業務上の負傷をした場合、政府は保険給付の一部(30%相当額)を支給しないことができるが、療養補償給付(医療費の給付)についてはこの制限の対象外とされており常に全額支給される。

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正答はイ(正しい記述)です。

「重大な過失」により業務上の傷病を被った労働者に対しては、政府は保険給付の一部(給付基礎日額の30%相当)を支給しないことができますが、療養補償給付(医療費の現物・費用給付)についてはこの支給制限の対象外であり、常に全額が支給されます。

アが誤りの理由:故意の場合は「全部不支給」が原則であり、「一部不支給」ではありません。また「民事上の不法行為と同一の水準」という説明も適切ではありません。

ウが誤りの理由:療養指示違反による支給制限には「程度の増進または回復妨害」という結果要件が必要です(第12条の2の2第3項)。設問ウは結果要件を欠いた記述で不正確です。

エが誤りの理由:重大な過失による支給制限は遺族補償給付にも及び得るため、「対象とならない」と断言する記述は誤りです。

オが誤りの理由:第三者行為災害で政府が保険給付を行った場合、政府は代位取得(求償権の行使)が可能です(第12条の4)。「代位取得することもない」は誤りです。

標準試験対策の基準レベル

保険給付の支給制限の類型(第12条の2の2):

| 支給制限の原因 | 制限の内容 | 療養補償給付への影響 |

|---|---|---|

| 故意による傷病等 | 全部または一部を支給しない(原則全部不支給) | 対象(全部不支給となりうる) |

| 重大な過失による傷病等 | 給付の30%相当を支給しない(一部不支給) | 対象外(療養給付は全額支給) |

| 正当な理由のない療養指示違反 | 全部または一部を支給しない | 対象 |

第三者行為災害と代位取得(第12条の4):

  • 政府が先に給付→ 政府は当該給付額の範囲内で「労働者が第三者(加害者)に対して有する損害賠償請求権」を代位取得(求償権行使が可能)
  • 「代位取得することもない」(オ)は明白な誤り

各選択肢の整理:

  • ア(誤): 故意の場合の制限は「一部」ではなく原則「全部」不支給。「民事上の不法行為と同一水準」という説明も誤り(別の判断基準)。
  • イ(正): 重大な過失→給付基礎日額の30%相当を支給しない・療養補償給付は支給制限の対象外(常に全額支給)。これが労災保険の支給制限の重要な区別点。
  • ウ(誤): 第12条の2の2第3項は「正当な理由なく療養に関する指示に従わないことにより、負傷・疾病・障害の程度を増進させ、または回復を妨げたとき」に支給制限を認める。「程度の増進または回復妨害」という結果要件が必要であり、設問ウのように「指示に従わないだけで全部または一部不支給」とするのは要件を欠く不正確な記述。
  • エ(誤): 重大な過失による支給制限(第12条の2の2第2項)は給付の種類を限定していないため、遺族補償給付についても「被災労働者の重大な過失」が支給制限の判断対象になり得る(遺族の固有の権利は独立だが、被災事由側の支給制限事由は給付全般に影響しうる)。「対象とならない」と断言する記述は誤り。
  • オ(誤): 第三者行為災害では政府の代位取得(求償)が可能(第12条の4)。「代位取得することもない」は誤り。

「重大な過失」の認定基準:

単なる「うっかりミス(軽過失)」は重大な過失に当たらない。「著しく注意義務を怠った場合(ほぼ故意に近い状態での規則違反等)」が重大な過失とされる。例:安全装置を故意に外して作業した場合等。

上級誤答論破・根拠条文・通達まで深掘り

【支給制限制度の立法趣旨:モラルハザードの防止と被災者保護のバランス】

労災保険の支給制限制度は「保険給付の濫用防止(モラルハザードの防止)」と「真に被災した労働者の保護」のバランスをとるための制度です。

労災保険制度は「業務上の傷病に対する公的補償」ですが、「故意に自傷して労災給付を受ける」「正当な理由なく治療をサボって回復を遅らせ休業補償を長引かせる」という行為を無制限に補償することは、制度の財政を圧迫し、誠実に働く他の労働者・事業主への不公平を生じさせます。

一方、「業務上の傷病」である以上、たとえ労働者に一定の不注意があっても、その傷病の業務起因性を否定して全く保護しないことは過酷です。特に現場での作業では「ある程度の不注意・ミス」は避けられず、それを理由に給付を全部拒否することは労働者の生活保護に反します。

このため:

  • 故意: 保護の必要性が最も低い→原則全部不支給
  • 重大な過失: 一定の不注意はあるが完全な故意ではない→一部(30%)不支給という中間的な対応
  • 軽過失・通常の過失: 不支給事由にならない→全額支給(業務上の傷病として通常通りの補償)

【「療養補償給付が支給制限の対象外」とされる理由】

「重大な過失」による支給制限において、なぜ療養補償給付(医療費)だけが例外とされているのでしょうか。

第1の理由:緊急性・人道的考慮。傷病を受けた労働者が適切な治療を受けることは、回復・社会復帰のために不可欠です。「重大な過失があるから医療費も支給しない」とすると、治療を受けられない労働者が重篤化・後遺障害が残るリスクがあり、最終的に社会的コスト(生活保護等)が増大します。

第2の理由:実費補填の性格。療養補償給付は「実際の医療費を実費で補填する」もの(または現物給付)であり、「日額ベースの給付(休業補償等)」とは性格が異なります。30%の一部不支給という「比例的な制限」になじみにくい性格を持ちます。

【第三者行為災害と代位取得の仕組み(第12条の4)】

第三者行為災害とは「業務上の傷病の発生に第三者(使用者以外の者)の行為が介在した場合」を指します。

典型例:

  • 通勤途中に第三者の運転する自動車に追突されて負傷(交通事故)
  • 取引先の会社の工場で作業中に、取引先の過失により負傷
  • 業務中に通り魔等の犯罪行為により負傷

この場合、「政府(労災保険)」と「第三者(加害者)」の両方が損害補填の責任を負う可能性があります。二重に補填されると被災者が「棚ぼた的に利益を得る」ことになり不当です。

そこで第12条の4が設ける仕組みが「代位取得(求償)」です:

A. 政府が先に給付する場合(第12条の4第1項):

政府が先に労災保険給付を行った場合、政府はその給付額の範囲内で「被災労働者が第三者に対して有する損害賠償請求権」を代位取得します。つまり政府が代わって第三者(加害者・加害者の保険会社等)に損害賠償を請求できるようになります。

B. 被災者が先に第三者から賠償を受ける場合(第12条の4第2項):

被災者が先に第三者から損害賠償を受けた場合、政府はその賠償額と給付額の重複部分について保険給付を支給しません(支給調整)。

この仕組みにより「二重補填の防止」と「被災者への適切な補償の確保」の両立が図られています。

社労士の実務では、第三者行為災害(特に交通事故)の場合の「第三者行為災害届」の提出・「自賠責保険との調整(どちらを先に請求するか)」「損害賠償請求権の保全」等について、顧問先事業主・被災労働者(またはその家族)をサポートする役割があります。

根拠: 労働者災害補償保険法第12条の2の2(支給制限)・第12条の4(第三者行為災害の求償)。確認日2026-06-08。

出典・根拠について

本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(本試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 労働者災害補償保険法第12条の2の2(保険給付の支給制限)・第12条の4(第三者行為災害と求償) <!-- 監修確定 2026-06-08(legal-reviser): イのみ正しい→正答イ。ア誤り=故意は原則「全部不支給」(「一部」ではない)・民事不法行為と同一水準という説明も不正確。イ正=重大な過失→給付基礎日額の30%相当を不支給(第12条の2の2第2項)・療養補償給付は支給制限の対象外(全額支給)。ウ誤り=第12条の2の2第3項の要件は「指示違反 + 程度の増進または回復妨害」であり、結果要件が必要。設問ウは結果要件を欠く不正確な記述。エ誤り=重大な過失による支給制限は給付の種類を限定しておらず、遺族補償給付にも被災事由側の支給制限が及び得る。オ誤り=第三者行為災害では政府の代位取得が可能(第12条の4)。正答イ確定。 --> 各根拠条文は厚生労働省「e-Gov法令検索」(https://elaws.e-gov.go.jp/)で原文を確認できます。令和8年度(2026年度)試験基準日時点で施行されている法令の数値を反映(数値確認日 2026-06-08-wave4-legal-revision)。

本問・解説は試験対策のための学習コンテンツです。法令・通達は改正されることがあるため、最新の内容は厚生労働省・全国社会保険労務士会連合会の公式情報をご確認ください。

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