問題
労働者災害補償保険法における遺族補償年金に関する次のア〜オの記述のうち、誤っているものはどれか。
キーボード:1〜5で選択・Enterで次へ
答え合わせ
- ア
- イ
- ウ
- エ
- オ
自信の3択
えらぶと、この端末に記録します(登録はいりません)
解説
正答はア(誤っている記述)です。
アは「同順位の者が複数いる場合は全員が受給権者となる(ただし年金は筆頭受給権者に代表して支給される)」としていますが、正確には同順位の者が複数いる場合は全員が受給権者となり、年金は「均等に按分(人数で割る)」して支給されます(法第16条の3第2項)。「筆頭受給権者に代表して支給」は誤り(条文上「筆頭受給権者」という概念はなく、代表者選任は労災則第13条の請求手続上の便宜措置にとどまり、年金の額の決定は均等按分が原則)。
イは正しく、夫・父母・祖父母は本則では60歳以上または障害状態が必要で(第16条の2第1項)、当分の間55歳以上60歳未満の者も受給資格者となり、60歳まで若年停止があります。ウは正しく、転給とは次順位者への支給です(第16条の4第1項後段)。エは正しく、妻には年齢・障害の要件も若年停止もありません。オは正しく、死亡・婚姻(事実婚を含む)・離縁は失権事由です(第16条の4第1項)。
遺族補償年金の受給資格者の順位と要件(法第16条の2):
(いずれも労働者の死亡の当時、その収入によって生計を維持していたことが前提)
| 順位 | 受給資格者 | 年齢・障害要件(本則) |
|---|---|---|
| 1 | 妻 | 要件なし(年齢・障害問わず) |
| 1 | 夫 | 死亡時60歳以上または障害状態 |
| 2 | 子 | 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間、または障害状態 |
| 3 | 父母 | 60歳以上または障害状態 |
| 4 | 孫 | 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間、または障害状態 |
| 5 | 祖父母 | 60歳以上または障害状態 |
| 6 | 兄弟姉妹 | 18歳年度末まで・60歳以上・障害状態のいずれか |
| 7〜10 | 55歳以上60歳未満の夫→父母→祖父母→兄弟姉妹(当分の間の特例) | 死亡時55歳以上60歳未満(障害の状態にある者を除く)。60歳に達する月までの間は支給停止(若年停止) |
「若年停止」のポイント(昭和40年法律第130号附則第43条):
- 対象: 本則の年齢要件(60歳以上)を満たさず、当分の間の特例で受給資格者となった死亡時55歳以上60歳未満の夫・父母・祖父母・兄弟姉妹(障害の状態にある者を除く)(第1項)
- 順位: 本則の受給資格者(上表1〜6)全員の後。特例の者どうしは夫→父母→祖父母→兄弟姉妹の順(第2項)
- 停止期間: その者が60歳に達する月までの間(第3項)
同順位者が複数いる場合(法第16条の3第2項):
同順位の受給資格者が複数いる場合、全員が受給権者となり、年金額は人数で均等割り(按分)されます。「代表者に全額支給」ではありません(アの誤りポイント)。
失権事由(法第16条の4第1項):
- 死亡
- 婚姻(事実上の婚姻関係を含む)
- 直系血族・直系姻族以外の者の養子となったとき(事実上の養子縁組を含む)
- 離縁によって死亡した労働者との親族関係が終了したとき
- 子・孫・兄弟姉妹が18歳に達した日以後の最初の3月31日が終了したとき(死亡時から引き続き障害の状態にある場合を除く)
- 障害の状態にある者について、その事情がなくなったとき(一定の場合を除く)
※労働者の死亡後に生計維持関係がなくなったことは失権事由ではない。
各選択肢の解説:
- ア(誤・正答): 同順位受給権者が複数の場合、年金は均等割りで按分支給される。「代表者に全額」は誤り。
- イ(正): 本則60歳以上(第16条の2第1項第1号)と、当分の間の55歳以上60歳未満の特例・若年停止の組合せが正確。
- ウ(正): 転給は法第16条の4第1項後段に規定。同順位者がなく後順位者があるときは次順位者に支給。
- エ(正): 妻は年齢・障害要件なし。若年停止もなし。婚姻(再婚)は失権事由。
- オ(正): 死亡・婚姻(事実婚を含む)・離縁は第16条の4第1項の失権事由。
【遺族補償年金の受給資格者設計の背景:「扶養概念」の現代的変容】
遺族補償年金の受給資格者設計は、「労働者の稼得能力に依存して生活していた家族を保護する」という扶養概念を基礎としています。妻(女性配偶者)は年齢・障害要件なしで受給資格を持つのは、従来の「専業主婦モデル(夫の収入に依存する妻)」を前提とした設計の名残です。一方、夫(男性配偶者)については本則で60歳以上(または障害状態)が要件とされ、当分の間の特例で55歳以上60歳未満の夫も受給資格者となりますが、60歳まで若年停止が課されています。
共働きが一般的になった現在の家族の姿とは合わない面もありますが、試験では現行の条文どおりに、「妻=年齢・障害の要件なし、夫=60歳以上または障害(当分の間55歳以上60歳未満も特例で受給資格者)」という非対称性を正確に覚えることが合格水準の知識です。
【若年停止の実務的機能と60歳到達後の扱い】
若年停止は、労働者災害補償保険法の一部を改正する法律(昭和40年法律第130号)の附則第43条による当分の間の特例です。55歳以上60歳未満の夫・父母・祖父母・兄弟姉妹(障害の状態にある者を除く)を受給資格者とする一方、その者が60歳に達する月までの間は年金の支給を停止します(同条第1項・第3項)。
若年停止の実務上の注意点:
1. 若年停止中は「支給停止」であり受給権自体は消滅しない(失権ではない)
2. 特例の受給資格者の順位は、本則の受給資格者(妻・60歳以上の夫・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹)全員の後で、特例の者どうしは夫→父母→祖父母→兄弟姉妹の順(同条第2項)。したがって本則の受給資格者が1人でもいる間は、特例の者に順番は回らない
3. 支給停止中でも、遺族補償年金前払一時金(労災法附則第60条)の請求は妨げられない(附則第43条第3項ただし書)
4. 若年停止期間中に受給権者が失権した場合(再婚等)は、停止が解除されることなく失権
【転給の発動条件と実務的な複雑性】
転給(法第16条の4)は、受給権者が失権した後に次順位の受給資格者がいる場合に発動します。ただし転給には重要な制限があります:
1. 一度失権した受給資格者は転給による受給権者にはなれない(同順位・上位者が失権してから下位者に転給するが、一度失権した者は復活しない)
2. 転給後の年金額の再計算: 転給後の受給権者数に合わせて年金額が計算される
3. 全員が失権して他に受給資格者がない場合: 既に支給された年金の合計額が給付基礎日額の1,000日分に満たないときは、その差額が遺族補償一時金として支給される(第16条の6第1項第2号)
実務上、遺族が複数いる場合の転給の連鎖・年金額の変動は非常に複雑であり、社労士が遺族補償申請のサポートを行う際に正確な計算と制度説明が求められます。
【遺族補償給付と損害賠償の調整(第三者行為災害)】
交通事故等で業務上死亡した場合、遺族は「労災保険の遺族補償給付(年金/一時金)」と「第三者(加害者・使用者)への民事損害賠償請求(逸失利益・慰謝料等)」の両方を受けられる場合があります。
調整のルール(法第12条の4・最高裁判例):
- 遺族補償年金(本体給付): 損害賠償から控除(損益相殺)の対象となる
- 遺族特別支給金(特別支給金300万円): 保険給付ではないため控除の対象にならないとされている
- 慰謝料: 労災保険は慰謝料を給付しないため、損害賠償で全額請求可能
社労士の実務では、業務上死亡事案で遺族から「労災申請と会社への損害賠償、どちらを先にすべきか」という相談を受けることがあります。実務上は「まず労災申請→給付状況を踏まえて損害賠償請求額を調整」というフローが一般的ですが、弁護士との役割分担(行政不服申立は社労士、民事訴訟は弁護士)も重要な実務知識です。
根拠: 労働者災害補償保険法第16条の2(受給資格者・順位)・第16条の3第2項(複数受給権者の按分)・第16条の4(失権・転給)・第16条の6(遺族補償一時金)・附則第60条(遺族補償年金前払一時金)、昭和40年法律第130号附則第43条(55歳以上60歳未満の特例・順位・若年停止)。e-Gov で確認 2026-09-30。
- 労働者災害補償保険法第16条の2e-Govで原文を読む
出典と作り方
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(本試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 労働者災害補償保険法第16条の2(受給資格者・順位)・第16条の3(年金額・2人以上の場合の按分)・第16条の4(失権・転給)・第16条の6(遺族補償一時金)、労働者災害補償保険法の一部を改正する法律(昭和40年法律第130号)附則第43条(55歳以上60歳未満の受給資格者・順位・若年停止) 数値根拠: 本則の年齢要件60歳は第16条の2第1項、55歳以上60歳未満と「60歳に達する月までの間」の支給停止は昭和40年法律第130号附則第43条第1項・第3項の条文値。 各根拠条文は厚生労働省「e-Gov法令検索」(https://elaws.e-gov.go.jp/)で原文を確認できます。令和9年度(2027年度)試験に向けて2026年10月1日時点の現行法令の数値を反映(令和9年4月の法改正で変わる箇所は試験前に更新・数値確認日 2026-10-01)。
本問・解説は試験対策のための学習コンテンツです。法令・通達は改正されることがあるため、最新の内容は厚生労働省・全国社会保険労務士会連合会の公式情報をご確認ください。

