社労士 社会保険一般常識 問15:社会保険に関する一般常識(社一)
(令和8年度(2026年度)試験対応・数値確認日 2026-06-08-wave4-legal-revision)
健康保険組合に関する次のア〜オの記述のうち、**正しいもの**はどれか。なお、令和8年度試験の法令基準日(2026年4月10日)時点の制度を前提とすること。
- ア1つの適用事業所の事業主が健康保険組合を設立するためには、単独で常時300人以上の被保険者を使用していることが要件である。同一業種の複数の事業主が共同して設立する場合は、合算で常時1,000人以上の被保険者を使用していることが必要である。
- イ健康保険組合の組合員は、健康保険組合が管掌する適用事業所に使用される被保険者に限られ、被保険者が退職して任意継続被保険者となった場合は、当該健康保険組合の組合員資格を当然に失う。
- ウ健康保険組合の規約を変更するには、組合会において組合会議員の定数の過半数によって議決し、厚生労働大臣の認可を受けなければならない。
- エ健康保険組合は、法定給付(療養の給付・傷病手当金等)のほかに、規約で定めることにより法定給付を上回る「付加給付」を行うことができる。付加給付の財源は組合の保険料で賄われるため、付加給付について国庫補助の対象とはならない。正答
- オ健康保険組合が解散する場合は、組合会議員の定数の4分の3以上の多数によって解散を決議し、厚生労働大臣の認可を受けなければならない。解散後の残余財産は、解散時の組合員であった者に均等に分配される。
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正答はエ(正しい記述)です。
健康保険組合は法定給付(療養の給付・傷病手当金等)に加え、規約で定めることにより付加給付(上乗せ給付)を行うことができます(健保法第53条)。例えば傷病手当金の日額をさらに上乗せする、あるいは法定外の給付(人間ドック費用補助等)を行うケースがあります。付加給付の費用は組合保険料で賄われ、国庫補助の対象とはなりません。
ア(設立人数)は単独700人・共同3,000人が正で誤り、イ(任意継続)は組合管掌の任意継続なら組合員資格が継続するため誤り、ウ(規約変更)は議員定数の2/3以上が必要で「過半数」は誤り、オ(残余財産)は協会けんぽが権利義務を承継するため「組合員に均等分配」は誤りです。
健康保険組合の設立要件(アの誤り):
| 設立形態 | 被保険者数要件 | 根拠 |
|---|---|---|
| 単独設立(1事業所または同一事業主の複数事業所) | 常時700人以上 | 健保法第11条第1項 |
| 共同設立(同種事業の複数事業主が共同) | 合算で常時3,000人以上 | 健保法第11条第2項 |
ア「単独300人以上・共同1,000人以上」は数値が誤り。設立・合併・解散の認可は厚生労働大臣が行います。
規約変更の要件(ウの誤り):
健康保険組合の規約変更は、組合会議員の定数の3分の2以上の多数による議決と厚生労働大臣の認可が必要です(健保法第18条・第16条)。ウの「過半数」は誤り。なお、合併・分割・解散は4分の3以上(第26条)と段階的に重い要件が課されます。
解散と残余財産(オの誤り):
健康保険組合が解散した場合の決議要件は「議員定数の4分の3以上」で正しい記載ですが、解散後の残余財産は全国健康保険協会(協会けんぽ)が解散組合の権利義務を承継します(健保法第26条第4項)。「組合員に均等に分配」という規定はなく、この点でオは誤りです。
任意継続被保険者と組合員資格(イの誤り):
健保組合管掌の被保険者が退職して当該組合の任意継続被保険者となる場合、引き続きその健康保険組合の被保険者として最長2年間継続し、組合員資格を保持します(健保法第3条第4項・第38条)。イ「当然に失う」は誤り。
付加給付の内容(エの根拠・正解):
主な付加給付の事例:
- 傷病手当金の付加(標準報酬日額の2/3に上乗せ)
- 高額療養費の付加(自己負担限度額をさらに下げる)
- 出産育児一時金の付加(法定50万円超の支給)
- 健康診断・人間ドック費用の補助
- 保養所・健康増進施設の提供
付加給付は健保組合の財政力に依存するため、財政状況が良好な大企業の健保組合では手厚い付加給付を実施している一方、財政困難な組合では付加給付を縮小・廃止するケースも増えています。国庫補助の対象は法定給付等であり、付加給付分は組合保険料で賄います。
【健康保険組合の財政危機と「解散→協会けんぽ移行」問題】
健康保険組合(健保組合)は大企業の被保険者を中心として1,400組合以上が存在します(2024年度時点)が、近年は高齢化・医療費増大・後期高齢者支援金の負担増により財政が急速に悪化しています。
特に問題となっているのは「後期高齢者支援金の総報酬割」(2015年全面移行)の影響です。総報酬割により、高報酬の被保険者を多く抱える大企業健保組合は支援金負担が増大しました。その結果、本来は余裕があるはずの健保組合が「収支赤字→積立金取崩し→解散」というプロセスを辿るケースが相次いでいます。
健保組合が解散すると、その被保険者は協会けんぽへ移行し、解散組合の権利義務は協会が承継します(健保法第26条第4項)。これにより「財政力のある健保組合が縮小し、相対的に財政困難な協会けんぽの負担が増す」という悪循環が生じます。この問題は社会保障審議会・医療保険部会で継続的に議論されており、健保組合の「合併促進」「財政安定化補助の拡充」等の対策が検討されています。
組合会の議決要件の段階構造(試験頻出):
健保組合の組合会の議決要件は事項の重要度に応じて段階化されています。
| 議決事項 | 議決要件 | 根拠 |
|---|---|---|
| 通常の議事(予算・決算等) | 出席議員の過半数(議員定数の1/3以上の出席が必要) | 健保法第18条 |
| 規約変更 | 議員定数の3分の2以上 | 第18条 |
| 合併・分割・解散 | 議員定数の4分の3以上 | 第23条・第26条 |
この「過半数→2/3→3/4」の段階構造は社労士試験頻出。
付加給付と「医療費抑制」のインセンティブ設計:
健保組合が付加給付を提供できる背景には、組合員の保険料率設定に一定の裁量があることがあります。健保組合は被保険者の保険料率を政令の範囲内で設定できるため(健保法第160条)、例えば保険料率を高めに設定して付加給付の財源を確保するという選択が可能です。
一方で、健保組合は「データヘルス計画」(被保険者の健康管理データを分析して予防・重症化防止の施策を実施)の作成・実行が義務付けられています(健保法第150条)。これは「付加給付の提供(支出増)」と「医療費の適正化(将来の支出削減)」を組み合わせたインセンティブ設計であり、社労士が健保組合の顧問業務を担う際の重要な知識です。
組合員資格と任意継続被保険者の扱い(イの詳細):
任意継続被保険者制度は、退職等で被保険者資格を喪失した者が、退職前に組合管掌健保(または協会けんぽ)に2か月以上加入していた場合、退職日から20日以内に申出をすることで最長2年間継続加入できる制度です(健保法第3条第4項・第37条・第38条)。退職前に健保組合管掌だった者が任意継続を選択した場合、当該健保組合の任意継続被保険者として組合員資格が継続します。したがってイの「当然に失う」は誤りです。
なお、2022年改正により任意継続被保険者の自主脱退(資格喪失申出)が可能になりました(健保法第38条第6号)。これによる保険料未納時の柔軟な脱退(協会けんぽや国保への切替)と組合員資格の喪失タイミングの実務処理は社労士の重要な助言業務領域です。
社労士と健保組合の実務関係:
社労士は健保組合の顧問として「資格取得・喪失届の提出補助」「給付請求手続きの代理」「産休・育休取得者の社会保険手続き」「定年再雇用後の同日得喪手続き」等を担います。また、健保組合の「合理化・再設計」のコンサルティング(付加給付の見直し・データヘルス計画の策定支援)も社労士の業務拡大分野として注目されています。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(本試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 健康保険法第11条(健康保険組合の設立要件・700人・3000人)・第16条(規約の変更・厚労大臣認可)・第18条(組合会の議決・規約変更は2/3以上)・第26条(解散・4分の3以上)・第53条(付加給付・規約による)・第26条第4項(解散時に協会けんぽが権利義務を承継) 一次ソース: e-Gov 健康保険法 https://laws.e-gov.go.jp/law/211AC0000000070 <!-- 監修確定 2026-06-08(legal-reviser): 一次ソース突合により以下を確定。①設立=単独700人・共同3000人(第11条)。②規約変更=議員定数の2/3以上+厚労大臣認可(第18条・第16条)。③解散=議員定数4分の3以上+厚労大臣認可(第26条)。④解散後の残余財産=協会けんぽが権利義務を承継(第26条第4項。「組合員に均等分配」は誤り)。⑤任意継続=退職前に組合管掌健保の被保険者だった者が任意継続する場合、当該組合の任意継続被保険者として組合員資格は継続するため、イ「当然に失う」は誤り。⑥付加給付=健保法第53条・規約で定める。国庫補助の対象は法定給付等であり付加給付は組合保険料で賄う=エが正答。 --> 各根拠条文は厚生労働省「e-Gov法令検索」(https://elaws.e-gov.go.jp/)で原文を確認できます。令和8年度(2026年度)試験基準日時点で施行されている法令の数値を反映(数値確認日 2026-06-08-wave4-legal-revision)。
本問・解説は試験対策のための学習コンテンツです。法令・通達は改正されることがあるため、最新の内容は厚生労働省・全国社会保険労務士会連合会の公式情報をご確認ください。