問題
確定給付企業年金(DB)に関する次のア〜オの記述のうち、誤っているものはどれか。なお、令和8年度試験の法令基準日(2026年4月10日)時点の制度を前提とすること。
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答え合わせ
- ア
- イ
- ウ
- エ
- オ
自信の3択
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解説
正答はウ(誤っている記述)です。
ウの誤りは「規約の設定・変更について労働組合・労働者の過半数代表者の同意は不要」という点です。確定給付企業年金法第3条第1項では、規約の作成には厚生年金保険の被保険者の過半数で組織する労働組合(ないときは被保険者の過半数を代表する者)の同意が必要とされ、規約型の規約の変更の承認申請にも同じ同意が必要です(第6条第2項)。事業主が単独で規約を設定・変更することはできません。
確定給付企業年金(DB)の2類型は規約型(事業主が規約を作成し外部機関に委託)と基金型(独立法人の企業年金基金を設立)です。厚生年金基金からの代行返上(厚年相当部分を国に返還)は2014年改正で促進され、返上後のDBまたはDCへの移行は基金の選択に任されています。
確定給付企業年金(DB)の2類型(アの根拠):
| 類型 | 特徴 | 資産管理 |
|---|---|---|
| 規約型 | 事業主が労使合意の規約を作成し、生保・信託に委託 | 生命保険会社または信託銀行 |
| 基金型 | 独立法人「企業年金基金」を設立し、基金が運営 | 基金が自己管理または信託等に委託 |
基金の設立(厚生労働大臣の認可)には、常時300人以上の加入者となるべき厚生年金保険の被保険者を使用していること(共同設立は合算で300人以上)等の要件があります(第12条第1項第4号・第5号、施行令第6条)=イは正しい記述。
規約の設定・変更の要件(ウの誤りの核心):
確定給付企業年金法第3条第1項:
> 厚生年金適用事業所の事業主は、確定給付企業年金を実施しようとするときは、(中略) 厚生年金保険の被保険者の過半数で組織する労働組合があるときは当該労働組合、当該労働組合がないときは当該厚生年金保険の被保険者の過半数を代表する者の同意を得て、確定給付企業年金に係る規約を作成し、(規約の承認または基金の設立の認可の)手続を執らなければならない。
規約の設定だけでなく、規約型の規約の変更の承認申請にも同じ同意が必要です(第6条第2項)。「事業主単独で可能」というウの記述は誤りです。これは確定拠出年金(企業型DC)でも同様のルールが適用されます(労働者保護の観点から労使合意が必須)。
厚生年金基金の代行返上(エの根拠):
2014年(平成26年)の法改正(平成25年法律第63号)で、財政悪化した厚生年金基金の整理・解散が促進されました。代行返上とは、厚生年金基金が国に代わって支給していた「代行部分(老齢厚生年金の報酬比例部分の一部に相当する給付)」の支給義務を国に返し、その分の資産(最低責任準備金)を国に納付することです。
代行返上後の基金の選択肢:
- 確定給付企業年金(DB)への移行
- 確定拠出年金(企業型DC)への移行
- 解散(残余財産を加入者に分配)
多くの厚生年金基金は代行返上後にDBまたはDCに移行しました。
老齢給付金の給付形態(オの根拠):
確定給付企業年金の老齢給付金は、「年金として支給する」のが原則です(確定給付企業年金法第38条第1項)。年金の支給期間は規約で定めますが、終身または5年以上にわたり毎年1回以上定期的に支給するものでなければなりません(第33条)。終身年金が原則というわけではなく、5年以上の有期年金も認められます。規約の定めにより全部または一部を一時金で支給することもできます(第38条第2項)。支給開始要件は、60歳以上70歳以下の規約で定める年齢に達したとき、または50歳以上の政令で定める年齢以上でその年齢未満の規約で定める年齢に達した日以後に退職したとき(規約に定めがある場合)です(第36条第2項・第3項)。
【確定給付企業年金の財政運営と「積立基準」】
確定給付企業年金には、将来の給付の支払いに備えた「積立基準」が設けられています。毎事業年度の決算において積立金の額が最低積立基準額を下回っていないか計算し(確定給付企業年金法第61条)、下回っている場合には、事業主は下回った額を基準として厚生労働省令で定めるところにより算定した額を掛金として拠出しなければなりません(第63条)。また、掛金の額は少なくとも5年ごとに再計算します(第58条第1項)。
年金数理計算の主要な要素:
- 予定利率: 将来の運用益の仮定(規約ごとに定められる)
- 死亡率: 標準生命表に基づく
- 退職率: 事業主のデータに基づく独自設定
- 昇給率: 将来の給付水準に影響
数理計算の結果が積立不足を示すと、事業主の財務負担(追加掛金)が生じます。特に低金利環境では予定利率と実際の運用利回りの乖離が拡大し、積立不足が発生しやすくなります。これは、運用環境の悪化の中で多くの厚生年金基金が解散・DBへの移行を選んだ背景の一つです。
【確定給付企業年金のガバナンス:規約設定から運営まで】
規約型DBの運営体制:
- 事業主: 規約の作成・変更(労使合意必須)・掛金拠出・制度運営全般の責任者
- 生命保険会社または信託銀行: 資産管理・運用・給付業務を受託
- 年金数理人(確定給付企業年金の数理計算担当): 財政検証・数理計算書の作成
基金型DBの運営体制(より複雑):
- 企業年金基金(法人格): 独立した法人として年金給付義務を負う
- 代議員会(議決機関): 規約変更・解散等の重要事項を決定
- 理事会(執行機関): 日常の業務執行
- 企業年金連合会(基金の外部の組織): 中途脱退者の脱退一時金相当額の移換を受け、通算企業年金として支給する等
【代行返上の「なぜ2014年が転換点だったか」】
2014年施行の改正(平成25年法律第63号)は、厚生年金基金の新設を認めず、既存の基金の解散・他制度への移行を促すものでした。背景:
1. バブル崩壊・リーマンショックによる運用損失が積み重なり、代行部分の積立不足が深刻化
2. 代行部分の給付義務が果たせない場合、国(厚生年金保険)の給付が毀損する可能性
3. 2013年時点で積立不足の厚生年金基金が多数存在し、早期解散・代行返上を促す政策的判断
改正後、既存の基金は「存続厚生年金基金」として経過的に存続できるものの、施行から5年経過後は財政状況の基準を満たさない基金に解散命令が出せる仕組みとされ、多くの基金が解散または他制度へ移行しました。現在も存続している基金は少数です(最新の数は厚生労働省の公表で確認)。
【DB・DCの使い分けと企業の設計戦略】
社労士が企業の年金設計を支援する際の基本的な考え方:
| 観点 | 確定給付企業年金(DB) | 確定拠出年金(企業型DC) |
|---|---|---|
| 給付の確定性 | 高い(給付額が規約で確定) | 低い(運用結果に依存) |
| 積立リスク | 事業主が負う | 加入者(従業員)が負う |
| 運用の責任 | 事業主(受託機関委任) | 加入者自身 |
| 中途退職時 | 脱退一時金、または脱退一時金相当額を他のDB・企業型DC・iDeCo・企業年金連合会へ移換 | 個人別管理資産を転職先の企業型DC・iDeCo等へ移換 |
| 事務負担 | 大きい(年金数理人・規制対応) | やや小(掛金拠出・投資教育義務) |
近年は「転職増加・雇用流動化」に伴いDCへの移行が進んでいます。一方、長期雇用前提の製造業・インフラ系企業ではDBが残存している傾向があります。
【FP・中小企業診断士との連携と上位資格への接続】
FP1級では「DBとDCの比較・年金受給時の税務」などが関連テーマとなり、企業の財務面では退職給付会計(DBの退職給付債務の認識)も関わります。社労士は確定給付企業年金の規約変更手続き(厚生労働大臣への承認申請)を1号業務として代行できます。
企業の年金設計は社労士・FP・税理士の3者が連携する複合的な業務領域であり、社労士は「手続き・労使合意の調整」を担う立場として中核的な役割を果たします。
- 確定給付企業年金法第3条・第38条・第61条e-Govで原文を読む
出典と作り方
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(本試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 確定給付企業年金法第3条第1項(規約の作成・労働組合等の同意)・第6条(規約型の規約の変更・承認申請に労働組合等の同意)・第12条第1項第4号・第5号と同法施行令第6条(基金の設立認可・加入者となるべき被保険者300人以上)・第33条(年金給付の支給期間=終身又は5年以上)・第36条(老齢給付金の支給要件)・第38条(老齢給付金の支給方法=年金が原則・規約で一時金)・第63条(積立不足に伴う掛金の拠出) 規約設定・変更の要件: 確定給付企業年金法第3条第1項「労働組合等の同意を得て規約を作成」・第6条第2項(変更の承認申請も同意を得て行う) 代行返上: 厚生年金保険法等の一部を改正する法律(平成25年法律第63号・2014年施行) 一次ソース: e-Gov 確定給付企業年金法 https://laws.e-gov.go.jp/law/413AC0000000050 ・厚労省 確定給付企業年金制度の概要 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/kigyounenkin.html 各根拠条文は厚生労働省「e-Gov法令検索」(https://elaws.e-gov.go.jp/)で原文を確認できます。令和9年度(2027年度)試験に向けて2026年10月1日時点の現行法令の数値を反映(令和9年4月の法改正で変わる箇所は試験前に更新・数値確認日 2026-10-01)。
本問・解説は試験対策のための学習コンテンツです。法令・通達は改正されることがあるため、最新の内容は厚生労働省・全国社会保険労務士会連合会の公式情報をご確認ください。

