社労士 社会保険一般常識 問23:社会保険に関する一般常識(社一)
(令和8年度(2026年度)試験対応・数値確認日 2026-06-08)
確定給付企業年金(DB)に関する次のア〜オの記述のうち、**誤っているもの**はどれか。なお、令和8年度試験の法令基準日(2026年4月10日)時点の制度を前提とすること。
- ア確定給付企業年金法(企業年金法)において、確定給付企業年金は「規約型」と「基金型」の2種類に区分される。規約型は事業主が労使合意した規約を作成し、生命保険会社・信託会社等の外部機関に資産管理・運用を委託する形態である。
- イ基金型の確定給付企業年金では、事業主から独立した法人格を持つ「企業年金基金」が設立される。企業年金基金は、厚生年金基金と異なり、設立に当たって従業員500人以上の要件が課されることはなく、単独型・連合型のいずれでも設立できる。
- ウ規約型確定給付企業年金の規約の設定・変更は、事業主が単独で行うことができる。規約の設定・変更について労働組合・労働者の過半数代表者の同意は不要である。正答
- エ厚生年金基金が2014年(平成26年)の法改正を受けて代行返上(厚生年金相当部分を国に返還すること)を行う場合、代行返上後の資産の扱いは基金の選択に委ねられており、確定給付企業年金に移行することも確定拠出年金(企業型DC)に移行することも可能である。
- オ確定給付企業年金の受給権の保全のため、積立不足が発生した場合、事業主は掛金を追加拠出する義務がある。また、確定給付企業年金の給付(老齢給付金)は終身年金を原則とするが、規約の定めにより有期年金または一時金で支給することもできる。
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正答はウ(誤っている記述)です。
ウの誤りは「規約の設定・変更について労働組合・労働者の過半数代表者の同意は不要」という点です。確定給付企業年金法第3条第1項では、規約の設定・変更には労働組合(組合員の過半数が加入)または従業員の過半数を代表する者の同意が必要とされています。事業主が単独で規約を設定・変更することはできません。
確定給付企業年金(DB)の2類型は規約型(事業主が規約を作成し外部機関に委託)と基金型(独立法人の企業年金基金を設立)です。厚生年金基金からの代行返上(厚年相当部分を国に返還)は2014年改正で促進され、返上後のDBまたはDCへの移行は基金の選択に任されています。
確定給付企業年金(DB)の2類型(アの根拠):
| 類型 | 特徴 | 資産管理 |
|---|---|---|
| 規約型 | 事業主が労使合意の規約を作成し、生保・信託に委託 | 生命保険会社または信託銀行 |
| 基金型 | 独立法人「企業年金基金」を設立し、基金が運営 | 基金が自己管理または信託等に委託 |
規約の設定・変更の要件(ウの誤りの核心):
確定給付企業年金法第3条第1項:
> 事業主は、(中略) 労働組合(組合員の過半数が当該事業主に使用される者である場合)または労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)の同意を得て、規約を作成しなければならない。
規約の設定だけでなく変更にも同意が必要です(第3条第2項)。「事業主単独で可能」というウの記述は誤りです。これは確定拠出年金(企業型DC)でも同様のルールが適用されます(労働者保護の観点から労使合意が必須)。
厚生年金基金の代行返上(エの根拠):
2014年(平成26年)の法改正(平成25年法律第63号)で、財政悪化した厚生年金基金の整理・解散が促進されました。代行返上とは、厚生年金基金が保険料を運用して上乗せ給付を行う「代行部分(厚生年金相当の給付)」を国(厚生労働大臣)に返還することです。
代行返上後の基金の選択肢:
- 確定給付企業年金(DB)への移行
- 確定拠出年金(企業型DC)への移行
- 解散(残余財産を加入者に分配)
多くの厚生年金基金は代行返上後にDBまたはDCに移行しました。
老齢給付金の給付形態(オの根拠):
確定給付企業年金の老齢給付金は、「年金として支給することが原則」です(確定給付企業年金法第36条)。年金の種類は終身年金・有期年金のいずれかを規約で定めます。規約の定めにより一時金での支給も認められています。支給開始年齢は原則として60歳以上65歳以下と定められています(法第36条第2項)。
【確定給付企業年金の財政運営と「積立基準」】
確定給付企業年金には、将来の給付の支払いに備えた「積立基準(最低積立基準)」が設けられています。事業主は毎事業年度、年金財政計算(数理計算)を行い、最低積立基準額を上回る資産を積み立てる義務があります。積立不足が生じた場合は5〜7年の「回復計画」を策定し、掛金を追加拠出しなければなりません。
年金数理計算の主要な要素:
- 予定利率: 将来の運用益の仮定(現行は0.5〜3%程度の保守的設定が多い)
- 死亡率: 標準生命表に基づく
- 退職率: 事業主のデータに基づく独自設定
- 昇給率: 将来の給付水準に影響
数理計算の結果が積立不足を示すと、事業主の財務負担(追加掛金)が生じます。特に低金利環境では予定利率と実際の運用利回りの乖離が拡大し、積立不足が発生しやすくなります。これがリーマンショック後・コロナ禍に多くの厚生年金基金が解散・DBに移行した主な理由です。
【確定給付企業年金のガバナンス:規約設定から運営まで】
規約型DBの運営体制:
- 事業主: 規約の作成・変更(労使合意必須)・掛金拠出・制度運営全般の責任者
- 生命保険会社または信託銀行: 資産管理・運用・給付業務を受託
- 年金数理人(確定給付企業年金の数理計算担当): 財政検証・数理計算書の作成
基金型DBの運営体制(より複雑):
- 企業年金基金(法人格): 独立した法人として年金給付義務を負う
- 代議員会(議決機関): 規約変更・解散等の重要事項を決定
- 理事会(執行機関): 日常の業務執行
- 企業年金基金の連合会(DB連合会): 脱退一時金受給者の年金への転換機能等
【代行返上の「なぜ2014年が転換点だったか」】
厚生年金基金の代行返上促進は2014年改正で義務化に近い形で進みました。背景:
1. バブル崩壊・リーマンショックによる運用損失が積み重なり、代行部分の積立不足が深刻化
2. 代行部分の給付義務が果たせない場合、国(厚生年金保険)の給付が毀損する可能性
3. 2013年時点で積立不足の厚生年金基金が多数存在し、早期解散・代行返上を促す政策的判断
改正後、既存の厚生年金基金は2019年3月末までに代行返上・DBまたはDCへの移行・解散のいずれかを選択することが事実上義務付けられました。現在も僅かに存続している厚生年金基金は「特例的存続」として厳格な財政要件をクリアした基金のみです。
【DB・DCの使い分けと企業の設計戦略】
社労士が企業の年金設計を支援する際の基本的な考え方:
| 観点 | 確定給付企業年金(DB) | 確定拠出年金(企業型DC) |
|---|---|---|
| 給付の確定性 | 高い(給付額が規約で確定) | 低い(運用結果に依存) |
| 積立リスク | 事業主が負う | 加入者(従業員)が負う |
| 運用の責任 | 事業主(受託機関委任) | 加入者自身 |
| 中途退職時 | 脱退一時金(不利になりやすい) | ポータビリティ高い(iDeCoへ移換可) |
| 事務負担 | 大きい(年金数理人・規制対応) | やや小(掛金拠出・投資教育義務)|
近年は「転職増加・雇用流動化」に伴いDCへの移行が進んでいます。一方、長期雇用前提の製造業・インフラ系企業ではDBが残存している傾向があります。
【FP・中小企業診断士との連携と上位資格への接続】
FP1級では「DBの財政方式(加入年齢方式・予測単位積増方式等)」「DBとDCの比較・年金受給時の税務」が出題されます。中小企業診断士では「企業の退職給付会計(IFRSにおけるDB債務の認識)」が財務・会計科目で問われます。社労士は確定給付企業年金の規約変更手続き(厚生労働大臣への承認申請)を1号業務として代行できます。企業の年金設計は社労士・FP・税理士の3者が連携する複合的な業務領域であり、社労士は「手続き・労使合意の調整」を担う立場として中核的な役割を果たします。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(本試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 確定給付企業年金法第3条(規約の設定・変更要件)・第5条(基金型の設立)・第20条(掛金)・第36条(老齢給付金の給付形態) 規約設定・変更の要件: 確定給付企業年金法第3条第1項「労働組合等の同意を得て規約を作成」 代行返上: 厚生年金保険法等の一部を改正する法律(平成25年法律第63号・2014年施行) 一次ソース: e-Gov 確定給付企業年金法 https://laws.e-gov.go.jp/law/413AC0000000050 ・厚労省 確定給付企業年金制度の概要 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/kigyounenkin.html <!-- 監修確定 2026-06-08(legal-reviser): ア正しい(規約型=外部委託・2区分)。イ正しい(企業年金基金は500人要件不要・単独型・連合型あり)。ウ誤り(規約の設定・変更には労働組合または労働者の過半数を代表する者の同意が必要(確定給付企業年金法第3条第1項)→「事業主が単独で行える」は誤り)。エ正しい(代行返上後は確定給付企業年金・確定拠出年金・解散等の選択肢がある)。オ正しい(積立不足時の追加拠出義務・老齢給付金は終身/有期/一時金の選択可)。正答ウ確定。 --> 各根拠条文は厚生労働省「e-Gov法令検索」(https://elaws.e-gov.go.jp/)で原文を確認できます。令和8年度(2026年度)試験基準日時点で施行されている法令の数値を反映(数値確認日 2026-06-08)。
本問・解説は試験対策のための学習コンテンツです。法令・通達は改正されることがあるため、最新の内容は厚生労働省・全国社会保険労務士会連合会の公式情報をご確認ください。