社労士 労働基準法 問29:労働基準法
(令和8年度(2026年度)試験対応・数値確認日 2026-06-08-wave4-legal-revision)
労働基準法第24条に規定する賃金の支払に関する次のア〜オの記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア賃金の全額払いの原則(第24条第1項)に基づき、使用者は労働者の同意なく賃金から一方的に控除することは原則として禁止されるが、法令に別段の定めがある場合(社会保険料・税金の源泉徴収等)はこの限りでない。
- イ使用者が労働組合費・社宅使用料・購買代金・社内融資の返済金等を賃金から控除するためには、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合(組合がない場合は過半数代表者)との書面による労使協定が必要である。
- ウ労使協定(賃金控除協定)に基づき社宅使用料を賃金から控除する場合、その社宅使用料の額は、労使協定に明記されていれば、仮に実費相当額を大幅に超える額であっても控除することができる。正答
- エ労使協定(賃金控除協定)は、労基署への届出義務は法律上定められていないが、締結された協定は事業場において適切に保存・管理されなければならない。
- オ過半数組合が存在する事業場においては、組合員でない労働者についても、当該過半数組合と使用者との間で締結された賃金控除に関する労使協定の効力が及ぶ。
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正答はウ(誤っている記述)です。
労使協定(賃金控除協定)に基づいて社宅使用料を賃金から控除する場合であっても、その控除額が実費相当額を大幅に超える不当に高額な場合は許されません。労基法第24条の「全額払いの原則」の趣旨から、恣意的に高額な控除を労使協定で合意したとしても、それは公序良俗違反・強行法規違反として無効となります。
賃金の全額払い原則には例外が2つあります。①法令に別段の定めがある場合(税金の源泉徴収・社会保険料控除等)と、②事業場の過半数組合または過半数代表者との書面による労使協定がある場合(社宅費・組合費・共済費等の控除)です。
賃金全額払い原則の例外(労基法第24条第1項・第2項):
| 種類 | 根拠 | 手続き |
|---|---|---|
| 法令控除 | 所得税源泉徴収・住民税特別徴収・社会保険料(健保・厚年・雇保) | 法令に基づき使用者が一方的に控除(労働者の同意・労使協定不要) |
| 協定控除 | 社宅使用料・食事代・組合費・共済費・社内預金・購買代金・社内融資返済等 | 事業場の過半数組合または過半数代表者との書面による労使協定が必要 |
各選択肢の整理:
- ア(正): 法令(税・社会保険料)の源泉徴収は全額払い原則の例外として明文で認められる(第24条第1項但書)。
- イ(正): 協定控除には過半数組合or代表者との書面協定が必要(第24条第2項)。口頭での合意では不足。
- ウ(誤): 社宅使用料が実費を大幅に超える不当高額な場合は、労使協定があっても控除は許されない。全額払い原則の趣旨は「名目的な協定で実質的な賃金のたれ流し」を防ぐことにある。適正な実費相当額(市場価格・当該施設のコスト等)の範囲内であることが必要。
- エ(正): 賃金控除協定は36協定と異なり労基署への届出義務はない。ただし書面による締結・保存は義務。
- オ(正): 過半数組合と締結した労使協定の効力は、当該事業場の全労働者(組合員・非組合員を問わず)に及ぶ(第24条第2項の過半数組合要件を満たす場合)。
賃金控除協定の届出義務と36協定の比較:
| 協定種類 | 届出義務 | 有効期間制限 |
|---|---|---|
| 36協定(時間外・休日労働) | あり(労基署届出必須) | あり(1年以内更新) |
| 賃金控除協定(第24条) | なし | なし(当事者間合意で更新) |
【全額払い原則の実質的趣旨:賃金の流用・ピンハネ防止】
労基法第24条の全額払い原則は、戦前の「中間搾取」(労働者の賃金から使用者・親方が恣意的に費用を天引きする慣行)を根絶するために設けられました。賃金は労働の対価として全額が確実に労働者に渡ることが原則であり、使用者が「社宅費」「食堂利用料」等の名目で過大な控除を行うことで実質賃金を引き下げることを防ぐ機能があります。
協定控除が認められる場合であっても、その控除額が「実費を大幅に超える」場合は違法となります。判例では、社宅の市場実勢賃料や施設の維持管理コストを著しく上回る「社宅費」を協定で控除することは、全額払い原則の脱法行為として無効と解されています。
【協定控除の対象となる「購買代金・社内融資返済」の限界】
社内の物品購買代金や社内融資(給与前払い・緊急貸付等)の返済を賃金から控除することは、賃金控除協定があれば認められます。ただし、以下の限界があります:
1. 最低賃金以上の手取り確保: 控除後の賃金が最低賃金(1,121円/時円/時・全国加重平均)を下回ってはならない(最低賃金法第4条)。
2. 強制購買の禁止: 使用者が「購買を強制した代金」を賃金から控除することは、労基法第9条(中間搾取の禁止)・第17条(前借金相殺の禁止)の趣旨に反する場合がある。
3. 不当に高い利息の禁止: 社内融資に過大な利息を設定して返済額を膨らませることは、利息制限法・貸金業法の問題にもなり得る。
【過半数組合協定の「非組合員への効力」の理論的根拠】
過半数組合(組合員数が事業場労働者の過半数を占める組合)が締結した賃金控除協定が非組合員にも及ぶ根拠は何でしょうか。
これは労基法第24条が「その事業場の過半数組合」という概念を用いていることから導かれます。「過半数組合」は、当該事業場の労働者の過半数を代表する機能を法的に与えられており、組合員・非組合員の区分なく「その事業場の労働者を代表する」という擬制が働きます。したがって、過半数組合と締結した賃金控除協定は事業場の全労働者に拘束力を持ちます。
ただし、組合費の天引きについては異なる扱いが必要です。非組合員の組合費を賃金から控除することは、当然に許されるわけではなく、非組合員本人の個別同意も必要と解する余地があります(特定の労働組合への強制加入・強制徴収は労組法の問題にも関わります)。
【社労士の実務:賃金控除協定の作成・管理】
社労士は就業規則の整備にあわせて「賃金控除に関する労使協定書」の作成・管理を支援します。特に注意すべき実務上のポイントは:
- 控除項目の明確な列挙: 「社宅使用料・購買代金・社内融資返済・互助会費・組合費」など控除対象を協定書に明記(「その他の費用」のような包括的記載は無効と解されるリスクあり)。
- 額の明確化または算定方法の明記: 「実費相当額として毎月通知する額」など変動する場合は算定方法を明記。
- 更新管理: 届出義務はないが、協定の有効期間・更新手続きを定めて協定の形骸化を防ぐ。
- 保存: 労使協定書は締結後3年間(賃金消滅時効の経過措置期間との連動を考慮)保存する(労基法第109条・経過措置3年)。
根拠: 労働基準法第17条・第24条第1項・第2項、最低賃金法第4条、労働基準法第109条。確認日2026-06-08。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(本試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 労働基準法第24条第1項・第2項(賃金の支払の5原則・但書規定) <!-- 監修確定 2026-06-08(legal-reviser): ウが誤り。社宅使用料の控除は労使協定で認められるが、実費相当額を「大幅に超える不当に高額な額」での控除は全額払い原則の趣旨(中間搾取防止)に反する脱法行為として違法・無効。ア(法令別段の定め=税・保険料源泉徴収)・イ(過半数組合or代表者との書面協定)・エ(届出不要・保存必要)・オ(過半数組合協定の効力は組合員外にも及ぶ)はいずれも正しい。正答=ウ。当初プランの正答位置「エ」だったが、法的正確性を優先して正答=ウとし、エは正しい記述(届出義務なし・保存必要)として整合。プラン§9の正答偏り補正は他問で調整。 --> 各根拠条文は厚生労働省「e-Gov法令検索」(https://elaws.e-gov.go.jp/)で原文を確認できます。令和8年度(2026年度)試験基準日時点で施行されている法令の数値を反映(数値確認日 2026-06-08-wave4-legal-revision)。
本問・解説は試験対策のための学習コンテンツです。法令・通達は改正されることがあるため、最新の内容は厚生労働省・全国社会保険労務士会連合会の公式情報をご確認ください。