問題
商事留置権(商法第521条)に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
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答え合わせ
- ア
- イ
- ウ
- エ
- オ
自信の3択
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解説
商事留置権(商法521条)が問われています。オが誤り。商法521条は「商人間においてその双方のために商行為となる行為によって生じた債権」を要件とし、当事者双方が商人であることを要します。店舗等の設備を用いず自己の生産した農産物を販売するにすぎない農業者は、固有の商人(自己の名をもって商行為をすることを業とする者:商法4条1項)でも擬制商人(店舗等の設備による物品販売・鉱業:商法4条2項)でもなく、商人に当たりません。したがって、農業者(非商人)と商人との間では「商人間」要件を満たさず、商事留置権は成立しません。オは「商人でない農業者であっても商事留置権が成立する」としている点が521条の商人間要件に反し誤りです。アは正しい(牽連性不要)。イは正しい(牽連性不要の具体化)。ウは正しい(521条ただし書:別段の意思表示があれば成立しない)。エは正しい(占有喪失で消滅:民法302条)。
商事留置権(521条)の要件:①当事者双方が商人(「商人間において」)、②双方のために商行為となる行為(双方的商行為)から生じた債権、③相手方の所有に属する物・有価証券を占有していること、④牽連性不要(民法の留置権(295条)と異なる点:ア・イ正しい)。牽連性不要の意義:民法295条の留置権は「その物に関して生じた債権(牽連性)がある場合」に行使できます。商法521条にはこの「その物に関して」という要件がなく、債権と留置物との間に牽連性がなくても成立します(商取引の継続的関係への信用確保が目的)。別段の意思表示(521条ただし書):「ただし、当事者の別段の意思表示があるときは、この限りでない」。当事者の合意で商事留置権を排除できます(ウ正しい)。占有の喪失(民法302条):「留置権は、留置権者が留置物の占有を失うことによって、消滅する」。商法に定めがない事項は、商慣習がなければ民法による(商法1条2項)ので、商事留置権にも同じ扱いが及びます(エ正しい)。オが誤りの理由:商事留置権は「商人間(双方が商人)」要件があります(521条)。店舗等の設備を用いず自己の生産物を販売するにすぎない農業者は商法上の商人(4条1項・2項のいずれにも当たらない)ではないため、農業者(非商人)が当事者の一方である場合、商人間要件が満たされず商事留置権は成立しません。オは「商人でない農業者であっても商事留置権が成立する」としている点が521条の商人間要件に明確に反するため誤りです。
【理論的背景:商事留置権の法的性質と民法留置権との比較】
商事留置権(商法521条)は民法の留置権(295条)の商法上の特則として設けられています。民法上の留置権の要件①他人の物を占有すること、②その物に関して生じた債権があること(牽連性)、③債権が弁済期にあること。商事留置権はこのうち②の牽連性を不要としており、商人間で継続的な取引関係がある場合に取引全体を担保する機能を持ちます。その代わり、商事留置権には民法の留置権にない要件が加わります。当事者がいずれも商人であること(「商人間において」)、債権が「その双方のために商行為となる行為によって生じた」ものであること、留置物が「その債務者との間における商行為によって自己の占有に属した債務者の所有する物又は有価証券」であることです。民法の留置権は「他人の物」であれば足り、債務者の所有物であることを要しません(民法295条1項)。また521条ただし書により、当事者の別段の意思表示で商事留置権を排除できます。留置権の消滅(占有の喪失:民法302条)など商法に定めのない事項は、商法1条2項により、商慣習がなければ民法の定めによります。
【条文構造:521条の要件の精密な理解】
商法521条「商人間においてその双方のために商行為となる行為によって生じた債権が弁済期にあるときは、債権者は、その債権の弁済を受けるまで、その債務者との間における商行為によって自己の占有に属した債務者の所有する物又は有価証券を留置することができる。ただし、当事者の別段の意思表示があるときは、この限りでない」。条文上「商人間」と「その双方のために商行為となる行為」という二重の要件があります。当事者の一方のためにだけ商行為となる行為では足りません。商法3条1項は「当事者の一方のために商行為となる行為については、この法律をその双方に適用する」と定めますが、521条自体が「商人間」「その双方のために」と要件を定めているため、一方だけが商人の取引では521条の要件を満たしません。したがって農業者(非商人)との取引では商事留置権は成立せず、成立するとするオは誤りです。
【試験での位置づけ:行政書士試験における商事留置権の頻出論点】
行政書士試験での商事留置権の典型的な問われ方は①牽連性不要(民法留置権との最大の差異)、②双方が商人であることの要件(商人間要件:521条)、③民法の留置権との共通点・相違点(占有の喪失による消滅は共通、別段の意思表示による排除は521条ただし書)の3点が典型です。オのような「農業者=非商人→商事留置権不成立」は商人の定義(商法4条)と商事留置権の商人間要件(521条)を組み合わせた問題として重要です。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 正しい。521条の商事留置権は民法295条の牽連性要件を排除。商人間の商行為から生じた任意の債権を被担保債権として、占有している相手方所有の物を留置できる。
- イ: 正しい。牽連性不要の具体的説明。例えば「A(商人)がB(商人)に商品代金債権を持っていれば、その商品と無関係なBの所有物(Bに預けているA所有の別の商品等)を留置できる」。この広い留置が商事留置権の特徴。
- ウ: 正しい。521条ただし書「ただし、当事者の別段の意思表示があるときは、この限りでない」。商人間の契約で商事留置権を排除する特約を置けば、商事留置権は成立しない。
- エ: 正しい。民法302条本文「留置権は、留置権者が留置物の占有を失うことによって、消滅する」。商事留置権についても、商法に定めがない事項として、商慣習がなければ民法が適用される(商法1条2項)。例外は、債務者の承諾を得て留置物を賃貸し、または質権の目的とした場合である(民法302条ただし書・298条2項)。
- オ: 誤り。商法521条は「商人間においてその双方のために商行為となる行為によって生じた債権」を要件とし、当事者双方が商人であることを要する。店舗等の設備を用いず自己の生産した農産物を販売するにすぎない農業者は、固有の商人(4条1項)でも擬制商人(4条2項:店舗等による物品販売・鉱業)でもなく商人に当たらない。したがって農業者(非商人)が当事者の一方である場合は商人間要件を欠き商事留置権は成立しない。「商人でない農業者であっても商事留置権が成立する」とする本肢は521条に反し誤り。
【根拠条文】
商法 第4条第1項(固有の商人・自己の名をもって商行為をすることを業とする者)
商法 第4条第2項(擬制商人・店舗等による物品販売・鉱業/農産物の原始生産者は含まない)
商法 第521条(商人間の留置権・商人間要件・双方のために商行為となる行為・牽連性不要・別段の意思表示による排除)
商法 第1条第2項(商事に関し商法に定めがない事項は民法による)
民法 第295条(留置権・牽連性要件)との対比
民法 第302条(占有の喪失による留置権の消滅)
- 商法第521条・第4条・第1条・第3条e-Govで原文を読む
- 民法第302条・第295条e-Govで原文を読む
出典と作り方
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 商法第521条(商人間の留置権)、商法第4条(商人の定義)、民法第295条(留置権の内容)、民法第302条(占有の喪失による留置権の消滅) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。

