登録販売者
法令の確認日 2026年9月13日e-Govと照合済み

登録販売者 第1章 医薬品に共通する特性と基本的な知識 問17|サリドマイド薬害・血管新生抑制・S体R体・催奇形性

問題

登録販売者 | 第1章 医薬品に共通する特性と基本的な知識 | (手引き令和8年4月版・令和8年5月施行改正反映)

サリドマイド薬害および関連する薬学・医学的知識に関する次のア〜オの記述のうち、誤っているものはどれか。

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答え合わせ

正解は ア
  • ア
  • イ
  • ウ
  • エ
  • オ

自信の3択

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解説

正答はアです。「催奇形性はR体にある」という部分が誤りです。

サリドマイドの催奇形性を示すのはS体(S-thalidomide)であり、R体(R-thalidomide)は主に鎮静・催眠作用を示します(催奇形性はほとんどありません)。選択肢アは「催奇形性はR体にあり、S体のみ投与すれば回避できる」としていますが、催奇形性はS体側であり、記述が逆になっています。さらに「S体のみを投与すれば催奇形性を回避できる」も誤りで、体内でS体とR体は相互に変換(キラル変換・ラセミ化)されるため、一方の光学異性体だけを投与しても催奇形性は避けられません。

他の選択肢は正しい記述です。イのフォコメリア(アザラシ肢症)、ウのサリドマイドの現在の多発性骨髄腫への応用、エのキラル変換の事実、オの日本での薬害と行政への影響はすべて重要な事実です。

サリドマイドの光学異性体と催奇形性:

光学異性体催奇形性鎮静作用
R体(R-thalidomide)なし(または弱い)あり(強い)
S体(S-thalidomide)あり(強い)あり
ラセミ体(R+S混合)あり(S体由来)あり

各選択肢の詳細解説:

  • イ(正): サリドマイドは1957年に西ドイツ(グリュネンタール社)で発売。1950〜60年代にかけてヨーロッパ・日本等で広く使用されました。妊娠初期(器官形成期:特に妊娠4〜8週)に使用した場合に四肢の発育不全(フォコメリア)等を引き起こしました。
  • ア(誤・正答): S体が催奇形性を示す光学異性体です(Rが誤り・Sが正しい)。さらに、仮にS体を投与しても体内でR体が生成(キラル変換)されるため、光学異性体の分離で催奇形性を回避することは不可能です。
  • ウ(正): サリドマイドはTNF-α産生抑制・血管新生抑制作用があり、多発性骨髄腫・らい性結節性紅斑等の治療に再利用されています。日本では2008年に多発性骨髄腫への適応で再承認(サレドカプセル。2009年発売。TERMS: Thalidomide Education and Risk Management Systemの管理下で使用)。
  • エ(正): サリドマイドは生理的pH・体温条件下でキラル変換(相互変換)が起こります。これがR体単独投与でも催奇形性を回避できない理由です。
  • オ(正): 日本でのサリドマイド被害は1963年に認定。製薬会社(大日本製薬)と国(厚生省)への提訴を経て1974年に和解。この薬害が日本の薬事法の大幅強化・副作用モニタリング制度の礎となりました。

【光学異性体(キラリティー)とサリドマイドの薬理・毒性の分離】

キラル分子とは、鏡像体(enantiomer)が重ね合わせられない(非超重合性)分子のことです。炭素原子に4つの異なる基が結合したとき、2種類の立体配置(R体・S体)が生じます。

サリドマイド(C₁₃H₁₀N₂O₄)の構造的特徴:

  • 不斉炭素(キラル中心)を1個持つ → R体とS体が存在
  • R体: 主に鎮静・催眠作用
  • S体: TNF-α産生抑制・血管新生阻害(抗がん活性の中心)・催奇形性

催奇形性の機序(現在の有力説):

1. サリドマイド → セレブロン(CRBN: Cereblon)というタンパク質に結合

2. CRBNはCRL4型ユビキチンリガーゼ複合体の構成因子であり、結合により基質特異性が変化

3. 胚発生・四肢形成に関わる転写因子(SALL4等)の分解が促進されると考えられている

4. 四肢・耳等の発生・分化の阻害 → 奇形

サリドマイドの結合タンパク質としてセレブロン(CRBN)が同定されたのは2010年(Ito Tら, Science)で、サリドマイド発見から半世紀後の知見です。なお本機序は研究の進展により解釈が更新され得る領域であり、登録販売者試験では機序の暗記までは求められません(手引きで問われるのは「サリドマイド=催奇形性による四肢奇形の薬害」という事実関係です)。この知見はIMiDs(免疫調節薬:レナリドミド・ポマリドミド等)の開発にも活かされています。

キラル変換(Chiral inversion)の化学:

サリドマイドのキラル中心は「酸性水素」を隣に持ち、生理的pH(7.4)下では容易にエノール化→再プロトン化が起こります:

```

R-thalidomide ⇌ エノール中間体 ⇌ S-thalidomide

(水溶液中・pH7.4・37℃で速やかに平衡)

```

半減期(変換速度): 生理条件下でR体からS体への変換は数時間のオーダー。したがってR体のみを投与しても速やかにラセミ化(R:S=50:50相当)が起こります。

【サリドマイドの現代的用途と厳格管理(TERMS)】

日本でのTERMS(サリドマイド教育・リスク管理システム):

1. 処方医: 登録必須。テラトジェニシティ(催奇形性)リスク教育・患者への避妊指導義務

2. 調剤薬局: 登録必須。TERMS認定薬局のみ調剤可能

3. 患者(女性): 妊娠検査陰性の確認・二重避妊の実施

4. 患者(男性): コンドーム使用の義務(精液への移行があるため)

5. 在庫管理: 患者への投与数・残薬の厳密な管理

TERMSは米国FDA のiPLEDGE(イソトレチノイン管理)やTHALOMID REMS(米国のサリドマイド管理)に倣ったリスク管理プログラムです。

【サリドマイド薬害の日本における歴史的経緯】

年出来事
1958年大日本製薬が「イソミン」として販売開始
1961年西ドイツでW. Lenz博士が催奇形性を警告
1962年日本での販売中止(他国より1年遅れ)
1963年日本でも胎児への影響が認定
1965年被害者の会「全国サリドマイド訴訟連合会」設立
1974年大日本製薬・国(厚生省)と和解成立
2008年サリドマイドが多発性骨髄腫治療薬として再承認(2009年発売・TERMS管理)
2010年サリドマイドの結合タンパク質セレブロン(CRBN)が同定される

日本での発売中止が西ドイツより遅れた理由:

  • 各国の市販後の副作用情報が国際的に共有されていなかった
  • 製薬会社が情報を過小評価または隠蔽した疑い
  • 規制当局(厚生省)の情報収集・評価体制の未整備

この反省から、副作用情報の国際共有(WHO安全性情報プログラム・ICH ガイドライン等)や市販後調査制度(GVP・GPSP)の整備が急がれました。

【催奇形性と器官形成期の重要性】

サリドマイドの催奇形性が最も強い時期: 妊娠4〜8週(器官形成期)

  • 妊娠4週: 心臓・神経管の形成開始
  • 妊娠5〜6週: 四肢芽(肢芽)の発生 → ここでサリドマイドが血管新生を阻害すると四肢の発育が止まる
  • 妊娠7〜8週: 耳・目の形成

多くの妊婦が「妊娠に気づく前」の時期であり、「つわり止め」として使用したことが被害拡大の原因でした。

登録販売者として:サリドマイド(現在はTERMS管理の処方薬のみ)は一般用医薬品には存在しませんが、「催奇形性の概念」「器官形成期の薬物リスク」「妊婦への医薬品投与の慎重さ」を理解することは、妊婦・授乳婦への適切な情報提供の基礎となります。

この問題の根拠根拠: 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(令和8年4月版)第1章Ⅳ-2)「医薬品による副作用等にかかる主な訴訟」
訂正の記録この問題の訂正はありません(サイト全体の記録)
出典と作り方

本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(各都道府県が公表する試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(令和8年4月版)第1章Ⅳ-2)「医薬品による副作用等にかかる主な訴訟」 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(2026版相当)に準拠し、章節を明記しています。

本問・解説は試験対策のための学習コンテンツです。出題範囲・法令・手引きは改正されることがあるため、最新の内容は各都道府県・厚生労働省の公式情報をご確認ください。