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損失補償とは?憲法29条3項と土地収用法の補償・判例行政書士

更新 ・書いた人 合格ナビ 編集長(運営者)

この記事でわかること

損失補償を、憲法29条3項と土地収用法の条文で整理します。事業の認定から権利取得裁決までの流れ、補償金の額(71条)と通常受ける損失(88条)、補償に不服があるときの訴え(133条・94条9項)、最三小判平成14年6月11日(71条は憲法29条3項に違反しない)と最一小判昭和63年1月21日(輪中堤の文化財的価値)を表にしました。

目次
  1. 損失補償とは:憲法29条3項と土地収用法
  2. 土地収用法の流れ:事業の認定から補償金の払渡しまで
  3. 補償の種類と額の決め方
  4. 判例:土地収用法71条と憲法29条3項(最三小判平成14年6月11日)
  5. 判例:「通常受ける損失」と輪中堤(最一小判昭和63年1月21日)
  6. 補償に不服があるとき:協議・裁決・訴え
  7. 試験での問われ方と、間違えやすいポイント
  8. まとめ
  9. 参照した一次ソース
結論:損失補償とは、一般に、適法な公権力の行使によって私有財産に生じた損失を補てんする制度で、憲法29条3項が「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。」と定めています。土地収用法では、起業者が収用によって土地所有者・関係人が受ける損失を補償します(68条)。土地等の補償金の額は、事業の認定の告示の時における相当な価格に、権利取得裁決の時までの物価の変動に応ずる修正率を乗じて得た額です(71条)。これに加えて、離作料・営業上の損失などの通常受ける損失も補償の対象です(88条)。最高裁判所は、71条は憲法29条3項に違反しないと述べ(最三小判平成14年6月11日)、輪中堤の文化財的価値は、その敷地の不動産としての市場価格の形成に影響を与えないものとして、昭和42年改正前の88条による損失補償の対象となり得ないと述べました(最一小判昭和63年1月21日)。
行政書士 令和8年度の試験日と法令の基準日:試験日 令和8年11月8日(日)、試験時間は午後1時から午後4時まで。法令については、令和8年4月1日現在施行されている法令に関して出題。最終確認日:2026-10-09。出典:行政書士試験研究センター 令和8年度行政書士試験のご案内。

この記事の条文は、e-Gov法令検索の現行の土地収用法・同法の政令・憲法・行政事件訴訟法・国家賠償法(2026-10-09 時点。法令基準日の2026-04-01 時点の条文も、引用した条は同じ内容です)を読んで書いています。判例は、裁判所の裁判例検索の個別ページ(事件番号・裁判年月日・判例集の巻号頁・判示事項・裁判要旨)と、そこから開ける判決全文のPDFにもとづいています。裁判要旨は判決そのものではなく、結論と要点を短くまとめた欄です。個別の土地や補償額についての助言はしません。

憲法29条3項の全体と、河川附近地制限令の判決(昭和43年11月27日)は憲法の財産権・経済的自由の記事に、憲法判例の早見表は行政書士の憲法判例にあります。この記事は、土地収用法の補償の仕組みと、その補償に関する2つの判決を中心に整理します。

損失補償とは:憲法29条3項と土地収用法

損失補償に関わる条文の言葉は、次のとおりです(e-Gov法令検索の表記)。

条文条文の言葉
憲法29条1項「財産権は、これを侵してはならない。」
憲法29条2項「財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。」
憲法29条3項「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。」
土地収用法1条「公共の利益の増進と私有財産との調整を図り」、国土の適正かつ合理的な利用に寄与することを目的とする
土地収用法68条「土地を収用し、又は使用することに因つて土地所有者及び関係人が受ける損失は、起業者が補償しなければならない。」

国家賠償との違いは、条文の言葉に出ています。国家賠償法1条1項は、公務員が「故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたとき」に賠償する責任を定めます。憲法29条3項は、私有財産を公共のために用いること自体を認めたうえで、補償を求めています。

土地収用法の流れ:事業の認定から補償金の払渡しまで

土地収用法の手続は、条文の順にたどると次のとおりです。

段階条文条文の言葉(要点)
事業の認定を受ける16条起業者は、土地を収用し、または使用しようとするときは、事業の認定を受けなければならない
事業の認定の要件20条国土交通大臣または都道府県知事は、4号すべてに該当するときに事業の認定をすることができる(事業が3条各号のものであること・起業者に充分な意思と能力があること・事業計画が土地の適正かつ合理的な利用に寄与すること・公益上の必要があること)
事業の認定の告示26条告示をし、事業の認定は「告示があつた日から、その効力を生ずる」(4項)
収用の裁決の申請39条1項起業者は、告示があった日から「一年以内に限り」、収用委員会に裁決を申請することができる
権利取得裁決48条1項収用する土地の区域、土地等に対する損失の補償、権利を取得し、または消滅させる時期、などを裁決する
補償金の払渡し95条1項・2項起業者は、権利取得裁決で定められた権利取得の時期までに、補償金等の払渡しなどをしなければならない。受領の拒否など2項各号の場合は、権利取得の時期までに供託することができる

事業の認定の告示の後は、権利取得裁決の前でも、土地所有者や関係人(先取特権者・質権者・抵当権者・差押債権者・仮差押債権者である関係人を除く)は、起業者に、土地または土地に関する所有権以外の権利に対する補償金の支払を請求できます(46条の2第1項)。この請求は、起業者に収用の裁決の申請をするよう求める請求(39条2項)とあわせてしなければなりません(46条の2第2項本文。起業者がすでに裁決を申請しているとき、または他の土地所有者・関係人がすでに39条2項の請求をしているときは、ただし書でこの限りでない)。請求を受けた起業者は、「二月以内に自己の見積りによる補償金を支払わなければならない」(46条の4第1項本文)。ただし書は、裁決手続開始の登記がされていないときは、その登記がされた日から1週間以内に支払えば足りる、としています。

補償の種類と額の決め方

補償の中心になる条文は、次のとおりです。

条文補償の内容(条文の言葉)
71条収用する土地などの補償金の額は、事業の認定の告示の時における相当な価格に、権利取得裁決の時までの物価の変動に応ずる修正率を乗じた額
74条1項一団の土地の一部を収用することによって、「残地の価格が減じ、その他残地に関して損失が生ずるとき」は、その損失を補償しなければならない
77条収用する土地に物件があるときは、「その物件の移転料を補償して、これを移転させなければならない」
80条78条・79条の規定によって物件を収用する場合に、収用する物件に対しては、近傍同種の物件の取引価格等を考慮して、相当な価格をもって補償しなければならない
88条71条・72条・74条・75条・77条・80条・80条の2の補償のほか、離作料、営業上の損失、建物の移転による賃貸料の損失その他、土地所有者または関係人が「通常受ける損失」は、補償しなければならない
89条1項事業の認定の告示の後に、土地の形質を変更し、工作物を新築するなどしたときは、あらかじめ都道府県知事の承認を得た場合を除き、これに関する損失の補償を請求できない
90条一団の土地の一部を収用する場合に、残地の価格が増加するなどの利益が生じても、その利益を収用によって生ずる損失と相殺してはならない

88条の補償の細目などは、88条の2に基づく政令(土地収用法第八十八条の二の細目等を定める政令)が定めています。たとえば政令1条1項は、収用する土地の相当な価格について、近傍類地の取引事例が収集できるときは、「当該取引事例における取引価格に取引が行われた事情、時期等に応じて適正な補正を加えた価格を基準とし」と定めています。同政令6条は、占有権についての相当な価格を、「零とする」と定めています。条文の本文だけでなく、政令まで読んで初めて分かる点がある、という例です。

判例:土地収用法71条と憲法29条3項(最三小判平成14年6月11日)

項目内容
判決最高裁判所第三小法廷・平成14年6月11日判決(平成10(行ツ)158、土地収用補償金請求事件)、民集56巻5号958頁
判示事項土地収用法71条と憲法29条3項
裁判要旨「土地収用法71条は,憲法29条3項に違反しない。」

平成14年判決の判決文は、憲法29条3項の「正当な補償」について、次のように述べ、これは最高裁判所大法廷昭和28年12月23日判決(昭和25年(オ)第98号、民集7巻13号1523頁)の判例とするところだ、としています。「その当時の経済状態において成立すると考えられる価格に基づき合理的に算出された相当な額をいうのであって,必ずしも常に上記の価格と完全に一致することを要するものではない」。この「」内は平成14年判決の判決文の言葉で、昭和28年判決の判決文から直接引いたものではありません。

判決文は、補償金の額が権利取得裁決の時を基準に算定されるべきことを述べたうえで、事業の認定の告示から権利取得裁決までの間に近傍類地の取引価格に変動が生じても、71条の仕組みに「十分な合理性」があるとしています。その理由の一つとして、事業の認定の告示の後は権利取得裁決の前でも補償金の支払を請求でき(46条の2・46条の4)、この制度を利用して、所有者が近傍で代替地を取得することは可能である、と述べています。

判例:「通常受ける損失」と輪中堤(最一小判昭和63年1月21日)

項目内容
判決最高裁判所第一小法廷・昭和63年1月21日判決(昭和58(行ツ)91、補償金増額請求事件)、集民153号101頁
判示事項輪中堤(堤防)の敷地が収用された場合に、輪中堤の文化財的価値が土地収用法88条による損失補償の対象となり得ないとされた事例
裁判要旨輪中堤の文化財的価値は、その敷地の不動産としての市場価格の形成に影響を与えないものとして、土地収用法(昭和42年法律第74号による改正前のもの)88条による損失補償の対象となり得ない
結果破棄自判

判決文は、88条の「通常受ける損失」を、「客観的社会的にみて収用に基づき被収用者が当然に受けるであろうと考えられる経済的・財産的な損失」と述べています。そして、経済的価値でない特殊な価値までを補償の対象にする趣旨ではない、としています。他方、由緒ある書画・刀剣・工芸品などのように、文化財的価値が取引価格に反映し、市場価格を形成する一要素となる場合は、その市場価格が補償されるべき相当な価格になる、と区別しています。貝塚・古戦場・関跡のように、歴史を理解し生活・文化を知り得るという意味での歴史的・学術的な価値は、特段の事情のない限り、不動産としての経済的・財産的価値を高めるものではない、という説明です。

この判決が適用したのは、昭和42年法律第74号による改正前の88条です。現行の88条にも「通常受ける損失」の語があります(e-Gov、2026-10-09 時点)。

補償に不服があるとき:協議・裁決・訴え

補償の争い方は、条文によって二つに分かれます。

場面手続の流れ(条文の言葉)訴えの期間
権利取得裁決の損失補償(48条1項2号)収用委員会の裁決のうち損失の補償に関する訴え133条2項:「裁決書の正本の送達を受けた日から六月以内」
91条〜93条の損失の補償94条1項:起業者と損失を受けた者が協議して定める。2項:協議が成立しないときは、収用委員会の裁決を申請できる94条9項:133条2項にかかわらず、「六十日以内」

なお、収用委員会の裁決に関する訴えのうち、損失の補償に関する訴え以外のものは、133条1項により、裁決書の正本の送達を受けた日から3月の不変期間内に提起しなければなりません。

133条3項は、訴えを起こした者が起業者であるときは土地所有者または関係人を、土地所有者または関係人であるときは起業者を被告とする、と定めています。つまり、補償の額を争う訴えの被告は、収用委員会ではなく、利害が対立する相手方です。行政事件訴訟法4条は、「当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの」を当事者訴訟と定めており、当サイトでは、この133条2項・3項の訴えを、この4条の言葉に対応づけて整理しています(「形式的当事者訴訟」の語は、行政事件訴訟法(e-Gov)には記載がありません(2026-10-09 時点))。

また、133条2項・3項の訴えの提起は、事業の進行と土地の収用または使用を停止しません(134条)。

試験での問われ方と、間違えやすいポイント

行政書士試験の公式の問題PDFでは、令和6年度の問題42(多肢選択式)が、土地収用法88条と、輪中堤の文化財的価値をめぐる昭和63年1月21日の最高裁判決を題材にしています(題材だけを示します。問題文・語句は引用しません)。この記事で扱った判決と重なる題材です。

間違えやすい点は、次の表のとおりです。

読み違えの例条文・判例の言葉
補償金の額は、収用の裁決時の価格だけで決まると読む71条は、事業の認定の告示の時における相当な価格に、権利取得裁決の時までの修正率を乗じる二段の構造
71条は憲法29条3項に違反するかどうか争いがあると読む平成14年判決の裁判要旨は「土地収用法71条は,憲法29条3項に違反しない。」
歴史的・学術的な価値は、一律に補償されると読む昭和63年判決は、市場価格を形成する一要素となる文化財的価値と、そうでない歴史的・学術的な価値を区別している
補償の訴えの期間は、いつも6か月と読む133条2項は6か月、91条〜93条の裁決(94条)は60日(94条9項)
補償の訴えの被告は収用委員会と読む133条3項は、起業者と土地所有者・関係人の相手方

行政事件訴訟法の訴訟類型は行政事件訴訟の記事にあります。

まとめ

  • 損失補償の根拠は憲法29条3項「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。」。土地収用法68条は、収用による損失を起業者が補償すると定める
  • 土地収用法の流れは、事業の認定(16条・20条)→告示(26条・効力は告示の日から)→裁決の申請(告示から1年以内・39条)→権利取得裁決(48条)→補償金の払渡し(95条)
  • 補償金の額(71条)は、事業の認定の告示の時における相当な価格に、権利取得裁決の時までの物価の変動に応ずる修正率を乗じた額。補償金の支払の請求があった土地は、90条の2が「権利取得裁決の時」を支払期限に読み替える
  • 88条は、離作料・営業上の損失などの「通常受ける損失」の補償。細目は88条の2の政令が定める
  • 最三小判平成14年6月11日(民集56巻5号958頁)の裁判要旨は、71条は憲法29条3項に違反しない
  • 最一小判昭和63年1月21日(集民153号101頁)の裁判要旨は、輪中堤の文化財的価値は、その敷地の不動産としての市場価格の形成に影響を与えないものとして、改正前の88条の損失補償の対象となり得ない
  • 収用委員会の裁決のうち損失の補償に関する訴えは、裁決書の正本の送達を受けた日から6か月以内(133条2項)。91条〜93条の補償についての裁決(94条8項)への訴えは、133条2項にかかわらず60日以内(94条9項)。補償以外の裁決に関する訴えは3か月の不変期間(133条1項)。133条2項の訴えの被告は相手方(133条3項)
  • 個別の土地や補償額の助言はしない。制度の概要は国土交通省 土地収用のページにある

参照した一次ソース

よくある質問

Q損失補償と国家賠償は、何が違いますか?

条文の言葉で比べると、国家賠償法1条1項は、公権力の行使に当たる公務員が、職務を行うについて、故意または過失によって「違法に他人に損害を加えたとき」に、国または公共団体が賠償する責任を負う、と定めています。これに対し、損失補償の根拠である憲法29条3項は、「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。」と書いており、公共のために私有財産を用いること自体は認めたうえで、補償を求める規定です。国家賠償の表は国家賠償法の記事にあります。

Q土地収用法で、補償金の額はいつの時点の価格で決まりますか?

土地収用法71条は、収用する土地などの補償金の額を、「近傍類地の取引価格等を考慮して算定した事業の認定の告示の時における相当な価格に、権利取得裁決の時までの物価の変動に応ずる修正率を乗じて得た額」と定めています(e-Gov、2026-10-09 時点)。事業の認定の告示の時点の価格に、権利取得裁決の時までの物価変動の修正率を掛ける、という二段の構造です。補償金の支払の請求があった土地については、90条の2が、71条の「権利取得裁決の時」を「第四十六条の四第一項の規定による支払期限」と読み替えます。

Q収用委員会の裁決で決まった補償金の額に不服があるときは、いつまでに訴えを起こしますか?

土地収用法133条2項は、収用委員会の裁決のうち損失の補償に関する訴えは、「裁決書の正本の送達を受けた日から六月以内」に提起すると定めています。3項は、訴えを提起した者が起業者であるときは土地所有者または関係人を、土地所有者または関係人であるときは起業者を、それぞれ被告とすると定めています。一方、91条〜93条の損失の補償について収用委員会が行う裁決(94条8項)に対する訴えは、94条9項が、133条2項にかかわらず「六十日以内」と定めています。同じ損失補償でも、どの条文の裁決かで期間が違います。

Q輪中堤のような、歴史的な価値のある土地が収用されたとき、その歴史的な価値は補償されますか?

最高裁判所第一小法廷・昭和63年1月21日判決(昭和58(行ツ)91)の裁判要旨は、輪中堤(堤防)の文化財的価値は、その敷地の不動産としての市場価格の形成に影響を与えないものとして、土地収用法(昭和42年法律第74号による改正前のもの)88条による損失補償の対象となり得ない、というものです。判決文は、市場価格を形成する一要素となる文化財的価値(書画・刀剣・工芸品など)は市場価格を通じて補償の対象になりうる、と区別しています。個別の土地が補償されるかどうかは、この記事では判断できません。制度の概要は国土交通省の土地収用のページにあります。

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