行政書士試験の国家賠償法を、条文の言葉で整理します。1条(公権力の行使)と2条(営造物の設置・管理の瑕疵)の要件の違い、求償権が生じる場面、3条の費用負担者、4条・5条・6条(相互保証)の意味を、比較表で確認できます。
目次
結論:国家賠償法は全部で6か条の短い法律です。試験で問われるのは、①1条(公権力の行使に当たる公務員の違法な行為)と2条(公の営造物の設置又は管理の瑕疵)の要件の違い、②求償権が生じる場面(1条2項は故意又は重大な過失、2条2項は損害の原因について責任を負う他の者がいるとき)、③3条の費用負担者の責任、④4条(民法)・5条(他の法律の特別の定め)・6条(外国人は相互の保証があるとき)の読み方です。条文の言葉を1つずつ確認します。
この記事は、e-Govに掲載されている国家賠償法の条文と、日本国憲法の条文だけをもとに、行政書士試験で問われる国家賠償法を整理したものです。行政事件訴訟法との関係は行政事件訴訟法の準用の覚え方、行政不服審査法との関係は行政不服審査法の記事、行政法全体の学習順序は行政書士の行政法対策で扱っています。行政書士試験の行政法の出題範囲は、令和8年度の試験案内で「行政法の一般的な法理論、行政手続法、行政不服審査法、行政事件訴訟法、国家賠償法及び地方自治法を中心とする」と書かれており、国家賠償法はその一つに挙がっています(出典:行政書士試験研究センター 令和8年度行政書士試験のご案内)。なお、条文に書かれていない論点(公権力の行使の範囲、違法性の判断、瑕疵の判断の枠組みなど)は、判例の考え方によります。この記事は条文の整理にとどめ、判例の内容は取り上げません。
国家賠償法の全体像:憲法17条を受けた6か条
国家賠償法は、憲法17条を具体化した法律です。憲法17条は、「何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。」と書いています。その「法律の定め」にあたるのが国家賠償法です。
| 条 | 内容(条文の言葉) |
|---|---|
| 1条 | 公権力の行使に当たる公務員の違法な行為による損害を、国又は公共団体が賠償する。公務員に故意又は重大な過失があれば求償できる |
| 2条 | 公の営造物の設置又は管理の瑕疵による損害を、国又は公共団体が賠償する。損害の原因について責任を負う他の者に求償できる |
| 3条 | 公務員の選任・監督者や営造物の管理者と、費用負担者が異なるときは、費用負担者も賠償する。賠償した者は内部関係で責任ある者に求償できる |
| 4条 | 1条から3条のほか、民法の規定による |
| 5条 | 民法以外の他の法律に別段の定めがあれば、その定めによる |
| 6条 | 外国人が被害者のときは、相互の保証があるときに限り適用する |
どの条も短く、条文そのものが試験の根拠になります。
1条:公権力の行使に当たる公務員の違法な行為
1条1項の条文は、次のように書かれています。「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」
この文を、要件ごとに分けると次のようになります。
| 要件 | 条文の言葉 | 読み方 |
|---|---|---|
| 主体 | 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員 | 「公権力の行使に当る」という限定がある。公権力の行使の範囲は、条文には書かれていない論点 |
| 職務関連 | その職務を行うについて | 職務を行うことに関して、という限定 |
| 主観 | 故意又は過失によつて | 故意か過失のいずれかが要る |
| 違法 | 違法に | 行為が違法であること |
| 結果 | 他人に損害を加えた | 損害の発生 |
| 効果 | 国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる | 賠償責任を負うのは国又は公共団体 |
効果の部分で、賠償する責任を負うと書かれているのは「国又は公共団体」です。公務員個人が被害者に賠償する、という書き方にはなっていません。
1条2項:公務員への求償
1条2項は、「前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。」と書いています。
ここで注意するのは、求償権が書かれている場面が、公務員に「故意又は重大な過失」があったときである点です。1項の賠償責任は「故意又は過失」で足りますが、2項の求償は「故意又は重大な過失」です。過失の程度を比べると、2項のほうが条件が絞られています。軽い過失(重大でない過失)の場合に求償できる、とは条文に書かれていません。
2条:公の営造物の設置又は管理の瑕疵
2条1項の条文は、「道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。」です。
| 要件 | 条文の言葉 |
|---|---|
| 対象 | 道路、河川その他の公の営造物 |
| 欠陥 | 設置又は管理に瑕疵があつた |
| 結果 | そのために他人に損害を生じた |
| 効果 | 国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる |
1条1項と見比べると、2条1項には「故意又は過失」という文言も「違法に」という文言もありません。「公の営造物」の範囲と、「瑕疵」があるかどうかの判断の仕方は、条文に書かれていない論点で、判例の考え方によります。
2条2項:他に責任を負う者への求償
2条2項は、「前項の場合において、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償権を有する。」と書いています。求償の相手は、「他に損害の原因について責に任ずべき者」です。1条2項のように、故意又は重大な過失という条件は書かれていません。
1条と2条の比較表
| 比べる点 | 1条 | 2条 |
|---|---|---|
| 問題となる原因 | 公権力の行使に当たる公務員の行為 | 公の営造物の設置又は管理の瑕疵 |
| 条文上の「故意又は過失」 | 書かれている(1項) | 書かれていない(1項) |
| 条文上の「違法」 | 「違法に」と書かれている | 書かれていない |
| 賠償責任を負う者 | 国又は公共団体 | 国又は公共団体 |
| 求償の相手 | 公務員(2項) | 損害の原因について責任を負う他の者(2項) |
| 求償の条件 | 公務員に故意又は重大な過失があったとき | 他に損害の原因について責任を負う者があるとき |
この論点の問題を解く
3条:費用負担者の責任と内部の求償
3条1項は、1条と2条の規定によって国又は公共団体が賠償する責任を負う場合を前提にしています。そのうえで、次の2つの者が異なるときの規定です。
- ①公務員の選任若しくは監督、又は公の営造物の設置若しくは管理に当たる者
- ②公務員の俸給、給与その他の費用、又は公の営造物の設置若しくは管理の費用を負担する者
①と②が異なるときは、費用を負担する者(②)も、その損害を賠償する責任を負います。3条2項は、損害を賠償した者は、内部関係でその損害を賠償する責任ある者に対して、求償権を有すると書いています。
試験では、3条の登場人物を整理する問題が考えられます。「選任・監督、設置・管理をする側」と「費用を負担する側」の2つを分けて読むのが基本です。被害者から見ると、賠償を求める相手が増える規定である、という点も確認しておきます。
4条・5条・6条:民法・他の法律・外国人
4条:民法の適用
4条は、「国又は公共団体の損害賠償の責任については、前三条の規定によるの外、民法の規定による。」と書いています。1条から3条に書かれていない事項は、民法の規定によります。
5条:他の法律の特別の定め
5条は、「国又は公共団体の損害賠償の責任について民法以外の他の法律に別段の定があるときは、その定めるところによる。」と書いています。民法以外の他の法律に別段の定めがあれば、そちらを適用します。
4条と5条を合わせると、民法以外の他の法律に別段の定めがあればその定めにより、そうでなければ1条〜3条と、それ以外の部分は民法による、という関係になります。この関係を読めるかどうかを問う出題が考えられます。ここで注意するのは、5条は「民法以外の他の法律」の定めを指していて、民法そのものを指していない点です。
6条:外国人が被害者のとき
6条は、「この法律は、外国人が被害者である場合には、相互の保証があるときに限り、これを適用する。」と書いています。
| 被害者 | この法律の適用 |
|---|---|
| 日本人 | 6条の限定は書かれていない |
| 外国人 | 相互の保証があるときに限り適用する |
「外国人には適用されない」ではなく、「相互の保証があるときに限り適用する」という条件つきの規定です。
似た制度との違い:国家賠償・取消訴訟・損失補償
国家賠償法は、違法な行為や営造物の瑕疵による損害の賠償を扱います。行政に対する他の救済手段と、何を求めるのかが異なります。
| 制度 | 求めるもの | 根拠となる条文 |
|---|---|---|
| 国家賠償 | 損害の賠償(金銭による賠償) | 憲法17条、国家賠償法1条・2条 |
| 処分の取消しの訴え | 行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為の取消し | 行政事件訴訟法3条2項 |
| 損失補償 | 私有財産を公共のために用いることへの正当な補償 | 憲法29条3項 |
憲法29条3項は、「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。」と書いています。損失補償は、この規定に関わる制度です。土地収用法の補償の仕組みと判例は、損失補償の記事で整理しています。国家賠償法は、行政事件訴訟法の取消訴訟のように行為の効力を取り消すものではなく、損害の賠償を扱う法律です。
試験での問われ方(出題の型)
条文の整理から、次のような出題の型が考えられます。実際の問題文は引用せず、型として書きます。
- 型1:1条と2条の要件を入れ替えた文が正しいかを判断する。「2条にも故意又は過失が要件として書かれている」といった入れ替えに注意する
- 型2:求償権の発生場面を問う。1条2項は故意又は重大な過失、2条2項は損害の原因について責任を負う他の者がいるとき、という違いを確認する
- 型3:3条の登場人物を問う。選任・監督、設置・管理をする者と、費用を負担する者の2者を分けて読む
- 型4:4条・5条・6条の読み方を問う。民法に戻る場面、他の法律の特別の定めを優先する場面、外国人と相互の保証を整理する
- 型5:判例の考え方による論点が出る。条文に書かれていない論点なので、条文だけで答えを決めつけないようにする
間違えやすいポイント
- 1条1項の賠償責任を負うのは「国又は公共団体」。公務員個人が賠償する、という書き方ではありません
- 1条2項の求償は「故意又は重大な過失」。1条1項の「故意又は過失」と程度が違います
- 2条1項には「故意又は過失」の文言がなく、「違法に」の文言もありません
- 2条2項の求償の相手は「他に損害の原因について責に任ずべき者」で、公務員とは書かれていません
- 3条は、費用負担者が、選任・監督、設置・管理をする者と異なるときの規定です
- 5条は「民法以外の他の法律」。4条の民法とは別です
- 6条は「相互の保証があるときに限り適用」。外国人に適用しない、とは書かれていません
まとめ
- 国家賠償法は6か条。憲法17条の「法律の定めるところにより」を受けた法律
- 1条1項は、公権力の行使に当たる公務員が、職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたとき、国又は公共団体が賠償する
- 1条2項の求償は、公務員に故意又は重大な過失があったとき
- 2条1項は、公の営造物の設置又は管理の瑕疵による損害を、国又は公共団体が賠償する。「故意又は過失」の文言は書かれていない
- 2条2項の求償は、他に損害の原因について責任を負う者があるとき
- 3条は費用負担者の責任と内部の求償、4条は民法、5条は民法以外の他の法律の特別の定め、6条は外国人と相互の保証
- 条文に書かれていない論点は、判例の考え方による
本サイトは一般財団法人 行政書士試験研究センターとは関係ありません。掲載している問題は、過去の出題論点をもとに合格ナビが作成した論点別問題で、公式の試験問題ではありません。条文は、必ず e-Gov 法令検索の最新の内容で確認してください。
よくある質問
Q国家賠償法1条で、公務員が個人として賠償するのは条文のどこに書かれていますか?
1条1項は、公務員が違法に他人に損害を加えたときに「国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる」と書いています。公務員個人が被害者に賠償する、という文言は1条にはありません。1条2項が書いているのは、公務員に故意又は重大な過失があったときに、国又は公共団体がその公務員に対して求償権を有する、ということです。公務員個人の責任を被害者に対して負うかどうかは、条文に書かれていない論点で、判例の考え方による部分です。
Q国家賠償法2条の責任に、故意や過失は要件として書かれていますか?
2条1項の条文には、「故意又は過失」という文言がありません。書かれているのは、道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたとき、国又は公共団体が賠償する責任を負う、という内容です。1条1項が「故意又は過失によつて違法に」と書いているのと、書き方が違う点を条文で確認しておきます。瑕疵の有無の判断の仕方は、条文に書かれていない論点で、判例の考え方によります。
Q外国人が被害者のときも、国家賠償法で請求できますか?
6条は、この法律は、外国人が被害者である場合には、相互の保証があるときに限り、これを適用すると書いています。外国人であるというだけで適用されない、とは書かれていません。相互の保証があるかどうかが適用の条件になっている、という点が条文の読み方です。
Q国家賠償法に書いていないことは、どの法律で決まりますか?
4条は、国又は公共団体の損害賠償の責任について、1条から3条の規定によるほか、民法の規定によると書いています。5条は、民法以外の他の法律に別段の定めがあるときは、その定めるところによると書いています。つまり、国家賠償法は、民法の特別法として、1条から3条を定め、そこに書かれていない部分は民法に戻り、他の法律に特別の定めがあればそちらを優先する、という構造です。
法令や試験の数字は、改正や年度で変わります。この記事の最終確認日は2026年10月7日です。申込みや合格基準は、必ず試験団体の公式情報で確かめてください。

