行政代執行を、行政書士試験向けに行政代執行法の全6か条で整理します。2条の要件(代替性・他の手段の困難・著しく公益に反する)、戒告から代執行令書までの手続、緊急時の例外、費用の徴収と先取特権、1条が定める履行確保の位置づけを表で確認できます。
目次
結論:行政代執行は、法律などで命じられた、他人が代わってすることのできる行為(条文は「他人が代つてなすことのできる行為」)を義務者が履行しないときに、行政庁が自ら(または第三者に)その行為をして、費用を義務者から徴収する制度です。根拠は行政代執行法で、条文は1条〜6条の6か条だけです。押さえる柱は、①2条の要件(代替性・他の手段によることが困難・放置が著しく公益に反する)、②3条の手続(戒告→代執行令書→実施)と緊急時の例外、③費用の徴収(5条・6条)の3つです。
この記事は、e-Govに掲載されている行政代執行法の条文(2026-10-09 時点の現行の内容)と、1条の「別に法律で定めるもの」の例として砂防法の条文を使い、行政書士試験の行政法で押さえる行政代執行を整理したものです。行政上の強制執行の分類名(執行罰・直接強制など)は、条文の言葉ではなく学問上の呼び方なので、そのつど区別して書きます。行政処分の取消しを争う仕組みは行政事件訴訟法の準用の覚え方、審査請求は行政不服審査法をわかりやすくで扱っています。
行政代執行法の全体像:6か条の短い法律
行政代執行法は、昭和23年法律第43号の短い法律で、条文は1条から6条までです。
| 条 | 内容 |
|---|---|
| 1条 | 行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、この法律の定めるところによる |
| 2条 | 代執行の要件と効果 |
| 3条 | 戒告・代執行令書による通知と、緊急の場合の例外 |
| 4条 | 執行責任者の証票の携帯・呈示 |
| 5条 | 費用の納付命令(実際に要した費用の額と納期日を定め、文書で命ずる) |
| 6条 | 費用の徴収(国税滞納処分の例・先取特権・徴収金の帰属) |
どの条も短いので、要件や手続は条文の言葉のまま押さえられます。
行政代執行ができる要件:2条を4つに分けて読む
2条の条文は、次のとおりです(e-Govの表記のまま)。
「法律(法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む。以下同じ。)により直接に命ぜられ、又は法律に基き行政庁により命ぜられた行為(他人が代つてなすことのできる行為に限る。)について義務者がこれを履行しない場合、他の手段によつてその履行を確保することが困難であり、且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、当該行政庁は、自ら義務者のなすべき行為をなし、又は第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収することができる。」
| 要件 | 条文の言葉 | 読み方 |
|---|---|---|
| 義務の根拠 | 法律(法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む。以下同じ。)により直接に命ぜられ、又は法律に基き行政庁により命ぜられた行為 | 法律(条例などを含む)が直接義務を課す場合と、法律(同)に基づいて行政庁が命じた場合の両方 |
| 代替できる行為 | 他人が代つてなすことのできる行為に限る | 義務者本人にしかできない行為は、2条の対象にならない(学問上は、2条の対象になる義務を代替的作為義務と呼ぶ) |
| 他の手段の困難 | 他の手段によつてその履行を確保することが困難 | ほかの方法で履行させることが難しいこと |
| 放置が著しく公益に反する | その不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるとき | 単に公益に反するのでは足りず、「著しく」反する |
効果は、当該行政庁が、自ら義務者のなすべき行為をなすか、第三者にさせて、その費用を義務者から徴収できることです。条文は「することができる」と書いており、要件がそろった場合に代執行を義務づける書き方にはなっていません。
4つの要件は、1つでも欠けると2条の代執行はできない、という並びになっています。「且つ」の位置に注目してください。「他の手段によつてその履行を確保することが困難であり、且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるとき」と、後ろの2つが「且つ」でつながっています。
戒告から代執行令書、実施までの手続:3条・4条
3条は、代執行の手続を順番に定めています。
| 段階 | 条文 | 内容 |
|---|---|---|
| ① 履行期限と戒告 | 3条1項 | 代執行をするには、相当の履行期限を定め、その期限までに履行がなされないときは代執行をなすべき旨を、あらかじめ文書で戒告しなければならない |
| ② 代執行令書 | 3条2項 | 義務者が戒告を受けて、指定の期限までに義務を履行しないときは、当該行政庁は、代執行令書をもって、代執行をなすべき時期、代執行のために派遣する執行責任者の氏名、代執行に要する費用の概算による見積額を義務者に通知する |
| ③ 実施 | 4条 | 現場に派遣される執行責任者は、本人であることを示す証票を携帯し、要求があるときはいつでも呈示しなければならない |
| 例外 | 3条3項 | 非常の場合または危険切迫の場合で、行為の急速な実施について緊急の必要があり、1項・2項の手続をとる暇がないときは、その手続を経ないで代執行をすることができる |
3条1項のかっこ書きは、2条の代執行を「前条の規定による処分(代執行)」と書いています。条文は、代執行を「処分」と呼んでいます。
手続の内容で、取り違えやすいのが次の点です。
- 戒告は「予め文書で」します(3条1項)。口頭の戒告は条文の言葉と合いません
- 戒告の前に、「相当の履行期限」を定める必要があります
- 代執行令書に書く事項は、時期、執行責任者の氏名、費用の概算による見積額の3つです(3条2項)。実際に要した費用の額ではなく、「概算による見積額」です。実際に要した費用の額が出てくるのは、5条の納付命令です
- 緊急の例外(3条3項)は、非常の場合または危険切迫の場合に限られ、「手続をとる暇がないとき」という条件が付いています。4条の証票の呈示は、この例外の対象として書かれていません
費用の徴収:5条・6条
代執行にかかった費用の扱いは、2条(義務者から徴収できる)に加えて、5条と6条が定めています。
| 条 | 内容 |
|---|---|
| 5条 | 実際に要した費用の額と納期日を定め、義務者に対し、文書をもって納付を命じなければならない |
| 6条1項 | 代執行に要した費用は、国税滞納処分の例により、これを徴収することができる |
| 6条2項 | 代執行に要した費用について、行政庁は、国税および地方税に次ぐ順位の先取特権を有する |
| 6条3項 | 費用を徴収したときは、その徴収金は、事務費の所属に従い、国庫または地方公共団体の経済の収入となる |
3条2項の「概算による見積額」と、5条の「実際に要した費用の額」は、別の場面の別の金額です。順序は、令書で見積額を通知→実施→実際の費用の額を確定→納付命令、となります。
6条1項の「国税滞納処分の例により」は、費用の強制的な徴収を、別の仕組み(国税滞納処分)の例によらせる書き方です。砂防法38条1項も、費用と過料について「国税滞納処分ノ例ニ依リ」徴収できると書いています。
行政上の義務の履行確保の中での位置づけ:1条と他の手段
1条は、行政上の義務の履行確保に関して、別に法律で定めるものを除いては行政代執行法の定めるところによる、と書いています。ここから、行政上の義務が履行されないときの手段は、行政代執行法のほかにも、別の法律が定めるものがありうることが分かります。
学問上の整理(条文の言葉ではありません)では、義務の不履行に対する手段が、次のように分けて説明されます。
| 学問上の呼び方 | 内容の説明 | 条文で確かめられる例 |
|---|---|---|
| 代執行 | 他人が代わってなすことのできる義務を、行政庁が自らまたは第三者にさせて、費用を義務者から徴収する | 行政代執行法2条〜6条 |
| 執行罰 | 義務の不履行に対して過料を予告して履行を促す | 砂防法36条(私人が砂防法または同法に基づいて発する命令による義務を怠るときは、国土交通大臣もしくは都道府県知事は、一定の期限を示し、期限内に履行しないときまたは履行しても不十分なときは500円以内で指定した過料に処することを予告して、履行を命ずることができる) |
| 強制徴収 | 金銭債権を、国税滞納処分の例により徴収する | 行政代執行法6条1項、砂防法38条1項(費用および過料を、民事訴訟を許した場合を除き、国税滞納処分の例により徴収) |
| 直接強制 | 義務者の身体や財産に直接実力を加えて、義務の内容を実現する | 行政代執行法(e-Gov)の1条〜6条には、義務者の身体や財産に直接実力を加えることを定めた規定の記載がありません(2026-10-09 時点) |
行政代執行法に書かれているのは、このうち代執行と、その費用の徴収だけです。執行罰は、砂防法36条のように、行政代執行法とは別の法律が定める仕組みとして説明されます。行政代執行法の規定と、ほかの法律の規定は、分けて読みます。
また、代執行は、義務の履行を確保する手段です。2条は、義務者がなすべき行為を行政庁が代わって行い、その費用を義務者から徴収する、と書いています。違反した者に罰を科す規定ではありません。
条例との関係:2条の「法律」と、1条の「法律」
2条は、「法律(法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む。以下同じ。)」と書いています。かっこ書きの「以下同じ」は、この定義を置いた位置から後ろに出てくる「法律」に、同じ意味を及ぼす書き方です。
| 条 | 条文上の位置 | 「法律」について条文から言えること |
|---|---|---|
| 2条 | 定義が置かれている条 | 法律のほか、法律の委任に基く命令、規則、条例を含む。義務の根拠として、条例で直接命じられた義務や、条例に基づいて行政庁が命じた義務も入る |
| 1条 | 2条より前の条 | 1条の「別に法律で定めるもの」は、2条の定義より前に置かれている。1条の「法律」に条例が含まれるかどうかについて、行政代執行法の条文に定めの記載はありません(e-Gov、2026-10-09 時点) |
条文の言葉から確かめられるのは、2条に条例を含む定義があること、1条の「別に法律で定めるもの」はその定義より前にあること、の2点です。1条の「法律」をどう読むか、条例で代執行以外の強制手段を定められるかは、行政代執行法の条文には書かれていない論点で、条文だけでは答えが決まりません。
試験での問われ方(出題の型)
条文の整理から、次のような出題の型が考えられます。実際の問題文は引用せず、型として書きます。
- 型1:2条の要件の入れ替え。「他人が代つてなすことのできる行為に限る」を外した説明や、「著しく」を外した説明が正しいかを判断する
- 型2:手続の順序。履行期限の指定→戒告→令書による通知→実施→費用の納付命令の順が合っているか
- 型3:戒告と令書の方式。戒告は文書、令書に書く事項は3つ(時期・執行責任者の氏名・費用の概算による見積額)
- 型4:緊急の場合の例外。3条3項の条件(非常の場合または危険切迫の場合、緊急の必要、手続をとる暇がない)
- 型5:費用の徴収。5条の納付命令、6条の国税滞納処分の例、先取特権の順位(国税および地方税に次ぐ)
- 型6:行政代執行法と個別の法律の関係。1条の「別に法律で定めるもの」の読み方
- 型7:条文に書かれていない論点。戒告や代執行令書の通知が取消訴訟の対象になるかなどは、行政代執行法の条文には書かれておらず、条文だけでは答えが決まらない論点です
間違えやすいポイント
- 代執行の対象は「他人が代つてなすことのできる行為」。義務者本人にしかできない行為は、2条の対象にならない
- 2条は「することができる」と書いており、要件がそろった場合に代執行を義務づける書き方ではない
- 戒告は「予め文書で」する。戒告の前に相当の履行期限を定める
- 令書には費用の「概算による見積額」を書く。実際に要した費用の額を決めるのは5条の納付命令
- 緊急の例外(3条3項)は、戒告・令書の手続(1項・2項)を省略できるという規定。4条の証票の携帯・呈示は、この例外の対象として書かれていない
- 費用の先取特権の順位は、「国税及び地方税に次ぐ」(6条2項)
- 費用の徴収金は、事務費の所属に従って、国庫または地方公共団体の経済の収入となる(6条3項)
まとめ
- 行政代執行法は、1条から6条までの短い法律。1条は、別に法律で定めるものを除いては、この法律による、と書く
- 2条の要件は、①法律(命令・規則・条例を含む)により命ぜられた行為、②他人が代わってなすことのできる行為に限る、③他の手段によってその履行を確保することが困難、④不履行を放置することが著しく公益に反する、の4つ
- 手続は、相当の履行期限を定めた文書による戒告(3条1項)→戒告を受けても履行しないときの代執行令書による通知(3条2項)→執行責任者の証票を呈示して実施(4条)
- 緊急の場合は、戒告・令書の手続を経ないで代執行できる(3条3項)
- 費用は、実際に要した費用の額と納期日を定めた文書で納付を命じ(5条)、国税滞納処分の例により徴収できる。先取特権は国税および地方税に次ぐ順位(6条)
- 執行罰の例の砂防法36条のように、代執行以外の手段は、行政代執行法とは別の法律が定める(1条の「別に法律で定めるもの」)
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よくある質問
Q行政代執行ができるのは、どんな義務を履行しない場合ですか?
2条は、法律により直接に命ぜられ、または法律に基づき行政庁により命ぜられた行為について、かっこ書きで「他人が代つてなすことのできる行為に限る。」と書いています。そのうえで、義務者が履行しない場合に、他の手段によってその履行を確保することが困難で、かつ、不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときに、行政庁が代執行できるとしています。他人が代わってできない行為は、2条の対象になりません。
Q行政代執行の前に、戒告と代執行令書の手続は必ず必要ですか?
原則として必要です。3条1項は、相当の履行期限を定め、その期限までに履行がなされないときは代執行をなすべき旨を、あらかじめ文書で戒告しなければならないと書いています。2項は、戒告を受けても指定の期限までに履行しない場合に、代執行令書で通知すると書いています。例外が3項で、非常の場合または危険切迫の場合で、急速な実施について緊急の必要があり、1項・2項の手続をとる暇がないときは、その手続を経ないで代執行できます。
Q代執行の費用は誰が負担しますか? 払われなかったらどうなりますか?
2条は、行政庁が義務者のなすべき行為をなし、または第三者にこれをさせて、その費用を義務者から徴収できると書いています。5条は、実際に要した費用の額と納期日を定め、文書で納付を命じなければならないと書いています。6条1項は、その費用を国税滞納処分の例により徴収できる、2項は、行政庁は国税および地方税に次ぐ順位の先取特権を有する、と書いています。
Q条例で定められた義務も、行政代執行法の代執行の対象になりますか?
2条は、「法律(法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む。以下同じ。)」と書いています。この定義は2条の書き出しの「法律」に付いていて、続く「又は法律に基き行政庁により命ぜられた行為」の「法律」にも「以下同じ」としてかかります。そのため、条例で直接命じられた義務や、条例に基づいて行政庁が命じた義務も、2条の義務の根拠に入ります。ただし、代執行ができるのは、他人が代わってすることのできる行為であることなど、2条のほかの要件もそろったときです。
Q行政代執行法は、代執行以外の強制手段も定めていますか?
行政代執行法の条文は、1条から6条までです。1条は、行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、この法律の定めるところによると書いています。2条から6条が定めているのは、代執行の要件、手続、費用の徴収です。代執行以外の手段を定める個別の法律がありうることは、1条の「別に法律で定めるもの」という書き方から分かります。たとえば砂防法36条は、この法律やこの法律に基づく命令による義務を私人が怠るときに、過料を予告して履行を命ずる仕組みを定めています。
法令や試験の数字は、改正や年度で変わります。この記事の最終確認日は2026年10月9日です。申込みや合格基準は、必ず試験団体の公式情報で確かめてください。

