期限の利益とは何か、民法135条〜137条の条文で整理します。期限は債務者の利益のために定めたものと推定されること(136条1項)、放棄できるが相手方の利益を害せないこと(同条2項)、期限の利益を主張できない3つの場合(137条)、契約書の「期限の利益喪失条項」との違い、破産法103条3項と保証人への通知(民法458条の3)まで、表にしました。
目次
結論:期限の利益とは、期限が来るまでは債務の履行を請求されないという、債務者の側の利益のことです(民法135条1項・136条、当サイトの言い換え)。民法は、期限は債務者の利益のために定めたものと推定し(136条1項)、この利益は放棄できるが相手方の利益を害することはできない(同条2項)と定めています。さらに137条は、次の3つの場合に、債務者は期限の利益を主張できないとしています。①債務者が破産手続開始の決定を受けたとき、②債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき、③債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき。契約書にある「期限の利益喪失条項」(滞納したら一括払い、など)は契約の内容であり、民法137条の条文ではありません。
この記事は、e-Govに掲載されている民法(135条・136条・137条・412条・458条の3・587条・587条の2・591条)と破産法(103条)の条文をもとに、期限の利益を整理したものです。条文は2026年10月9日時点のe-Govの内容です。引用した条(民法135条〜137条・412条・458条の3・587条・587条の2・591条、破産法103条)の文言は、令和8年度行政書士試験の法令基準日である令和8年4月1日時点でも同じです。行政書士試験の民法は、令和8年度の試験案内で「令和8年4月1日現在施行されている法令に関して出題します」とされています(出典:行政書士試験研究センター 令和8年度行政書士試験のご案内)。
契約書の読み方や借入れの整理など、個別の契約や債務についての相談には、この記事では答えません。条文の読み方と試験での整理だけを扱います。
期限の利益とは:135条と136条の言葉
「期限」は、法律行為の効力や履行の時を、将来必ず到来する事実にかからせる定めです(当サイトの言い換え)。民法135条が、期限の到来の効果を定めています。
| 条文 | 内容 | 条文の言葉 |
|---|---|---|
| 135条1項 | 始期を付した場合 | 法律行為に始期を付したときは、その法律行為の履行は、期限が到来するまで、これを請求することができない |
| 135条2項 | 終期を付した場合 | 法律行為に終期を付したときは、その法律行為の効力は、期限が到来した時に消滅する |
始期付きの法律行為では、期限が到来するまでは履行を請求できません(135条1項)。債務者から見ると、期限が到来するまでは履行を求められない立場にあります。この立場を、民法は136条の見出しで「期限の利益」と呼んでいます。民法(e-Gov)には「期限の利益」の意味を定義する条文はありません(2026-10-09 時点)。136条1項と2項がその扱い方を、137条が主張できなくなる場合を定めている、という構造です。
始期・終期と、条件(停止条件・解除条件)の違いは、宅建の売買契約の記事の停止条件の項に、民法127条と135条を並べた表があります。この記事では、135条の続きにある136条・137条に絞ります。
期限には確定期限と不確定期限がある
期限の利益が問題になるのは、債務の履行期(期限)が定まっている場面です。履行期と遅滞の責任の関係は、民法412条が定めています。
| 条文 | 場合 | 遅滞の責任を負い始める時 |
|---|---|---|
| 412条1項 | 確定期限があるとき | その期限の到来した時から |
| 412条2項 | 不確定期限があるとき | その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から |
| 412条3項 | 期限を定めなかったとき | 履行の請求を受けた時から |
412条は期限の利益そのものを定めた条文ではなく、期限の到来と遅滞の責任の関係を定めた条文です。期限の利益の話では、「期限が到来する前」と「到来した後」で債務者の立場が変わることを押さえておきます。
136条:誰の利益か(推定)と、放棄
136条は、期限の利益について2つのことを定めています。
| 条文 | 内容 | 条文の言葉 |
|---|---|---|
| 136条1項 | 誰の利益のために定めたか | 期限は、債務者の利益のために定めたものと推定する |
| 136条2項本文 | 放棄 | 期限の利益は、放棄することができる |
| 136条2項ただし書 | 放棄の限界 | これによって相手方の利益を害することはできない |
「推定する」の意味
136条1項は「推定する」と書いています。条文が「みなす」ではなく「推定する」と書いているので、反対の事情があれば覆ることがある、という読み方になります(当サイトの整理)。「期限の利益は常に債務者にある」と覚えると、条文の「推定する」を落とすことになります。
放棄には限界がある
136条2項は、期限の利益を放棄できるとしたうえで、ただし書で「これによって相手方の利益を害することはできない」としています。本文だけを覚えて「債務者はいつでも自由に放棄できる」と書くと、ただし書を落とします。
消費貸借は、民法587条が「当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる」と定める契約です(書面でする消費貸借は、587条の2が「前条の規定にかかわらず」別に定めています)。返還の時期は、民法591条が定めています。
| 条文 | 内容 |
|---|---|
| 591条1項 | 当事者が返還の時期を定めなかったときは、貸主は、相当の期間を定めて返還の催告をすることができる |
| 591条2項 | 借主は、返還の時期の定めの有無にかかわらず、いつでも返還をすることができる |
| 591条3項 | 当事者が返還の時期を定めた場合において、貸主は、借主がその時期の前に返還をしたことによって損害を受けたときは、借主に対し、その賠償を請求することができる |
591条2項は「返還の時期の定めの有無にかかわらず」と書いています。返還の時期を定めた場合も、借主はいつでも返還できます。ただし、時期の前に返還されたことで貸主が損害を受けたときは、3項で賠償を請求できます。これは消費貸借の規定で、期限の利益一般の規定ではありません。
137条:期限の利益を主張できない3つの場合
民法137条の見出しは「期限の利益の喪失」です。条文は、次の3つの場合に債務者が期限の利益を主張できないとしています。
| 号 | 場合 | 条文の言葉 |
|---|---|---|
| 1号 | 破産 | 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき |
| 2号 | 担保の滅失・損傷・減少 | 債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき |
| 3号 | 担保を供しない | 債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき |
読むときの注意点が3つあります。
- 柱書は「債務者は、期限の利益を主張することができない」です。「期限が到来したものとみなす」とは書かれていません。条文の言葉に沿うと、期限がまだ来ていないことを債務者が主張できなくなる、という形です
- 1号は「債務者が」破産手続開始の決定を受けたときです。債権者が破産手続開始の決定を受けた場合は、1号の文言には当たりません
- 2号の行為者は「債務者」です。担保を滅失させ、損傷させ、減少させた行為が、債務者のものである場合の規定です。3号は「担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき」で、担保を供する義務があることが前提になります
137条の3つの号に、返済の遅れは挙げられていない
民法137条(e-Gov、2026-10-09 時点)の1号〜3号には、返済の遅れや分割払いの滞納を事由とする定めはありません。「滞納したら残りを一括で払う」という約束は、契約書に条項として書かれて初めて問題になる内容で、民法137条の3つの場合とは別の話です。契約でこのような条項が置かれた場合に、どこまで有効か、どの場面で使えるかは、個別の契約と法律の規制によって判断が分かれます。この記事では扱わず、行政書士試験の民法では、まず137条の3つの号を条文どおりに押さえます。
喪失・放棄・契約の条項:3つを分けて読む
似た言葉を整理します。
| 項目 | 期限の利益の放棄 | 期限の利益の喪失(137条) | 契約書の「期限の利益喪失条項」 |
|---|---|---|---|
| 根拠 | 民法136条2項 | 民法137条 | 当事者の合意(契約書の条項) |
| 主体の意思 | 債務者の意思表示による | 一定の事由が生じたことによる | 契約で定めた事由が生じたことによる |
| 限界・内容 | 相手方の利益を害することはできない(ただし書) | 破産手続開始の決定・担保の滅失等・担保を供しない、の3つの場合 | 契約の内容による(この記事では個別の条項を扱わない) |
上の表の「主体の意思」の欄は、条文の言葉ではなく当サイトの整理です。試験で混同しやすいのは、①放棄(債務者が自分で手放す)と喪失(一定の事由で主張できなくなる)、②民法の規定(137条)と、契約で別に定める条項、の2点です。「条文に書かれているか」「契約で定めた内容か」を分けて読みます。
関連する条文:破産法103条3項と、保証人への通知
期限の利益の喪失に関係する条文のうち、民法の外と、民法の別の場所にあるものを1つずつ挙げます。
破産法103条3項:破産手続の中での期限付債権
破産法103条3項は、破産債権が期限付債権でその期限が破産手続開始後に到来すべきものであるときは、その破産債権は、破産手続開始の時において「弁済期が到来したものとみなす」としています。破産手続の中での破産債権の扱いを定めた規定です。民法137条1号は債務者が期限の利益を主張できない場合として破産手続開始の決定を挙げ、破産法103条3項は破産手続の中の破産債権の弁済期を定めています。別々の法律の別々の規定なので、問題文がどちらの条文を前提にしているかを分けて読みます。
民法458条の3:保証人への通知
主たる債務者が期限の利益を失った場合の、債権者から保証人への通知は、民法458条の3が定めています。
| 条文 | 内容 |
|---|---|
| 458条の3第1項 | 主たる債務者が期限の利益を有する場合において、その利益を喪失したときは、債権者は、保証人に対し、その利益の喪失を知った時から二箇月以内に、その旨を通知しなければならない |
| 458条の3第2項 | 1項の期間内に通知をしなかったときは、債権者は、保証人に対し、主たる債務者が期限の利益を喪失した時から通知を現にするまでに生じた遅延損害金(期限の利益を喪失しなかったとしても生ずべきものを除く)に係る保証債務の履行を請求することができない |
| 458条の3第3項 | 前二項の規定は、保証人が法人である場合には、適用しない |
保証契約の施行日前後の取扱いは、平成29年法律第44号附則21条1項が定めています。施行日(2020年4月1日)前に締結された保証契約に係る保証債務は、なお従前の例によります。保証人への通知の義務は、保証全体の中の一部分なので、連帯保証など保証の全体像は連帯保証の記事で扱っています。
試験での問われ方(出題の型)
実際の問題文は引用せず、条文を読むときに確かめる型として整理します。
- 型1:136条1項。期限は誰の利益のために定めたものと「推定」されるか。債権者の利益のためにも定められている場合を、どの言葉で表すか
- 型2:136条2項。放棄の可否と、ただし書の「相手方の利益を害することはできない」の有無
- 型3:137条。3つの号のうち、どの場合に期限の利益を主張できなくなるか。号に挙げられていない事由(返済の遅れなど)を、民法137条の事由として扱っていないか
- 型4:債務者と債権者の取り違え。1号の破産手続開始の決定を受けるのは「債務者」
- 型5:民法の規定と、契約の条項の区別。契約で定めた喪失条項を、民法137条の内容として述べていないか
- 型6:保証との組合せ。主たる債務者が期限の利益を失ったときの、債権者から保証人への通知(458条の3)の期間と効果
間違えやすいポイント
- 136条1項は「推定する」。期限の利益が常に債務者にあると断定する書き方は、条文より強い
- 136条2項のただし書「これによって相手方の利益を害することはできない」を落とすと、放棄が無制限に見える
- 137条は「期限の利益を主張することができない」。「期限が到来したものとみなす」とは書かれていない
- 137条1号の主語は債務者。債権者の破産は、1号の文言に当たらない
- 137条の3つの号に、返済の遅れや滞納は挙げられていない(e-Gov、2026-10-09 時点)。契約書の喪失条項は民法137条ではない
- 458条の3の通知の義務を負うのは債権者で、期間は債権者が「その利益の喪失を知った時から二箇月以内」(1項)。3項は「前二項の規定は、保証人が法人である場合には、適用しない」と書いている。施行日(2020年4月1日)前に締結された保証契約に係る保証債務は、なお従前の例による(平成29年法律第44号附則21条1項)
この論点の問題を解く
まとめ
- 期限の利益は、期限が到来するまで履行を請求されない債務者の立場(135条1項・136条)。民法は、期限は債務者の利益のために定めたものと推定する(136条1項)
- 期限の利益は放棄できるが、これによって相手方の利益を害することはできない(136条2項)。消費貸借では、借主は返還の時期の定めの有無にかかわらずいつでも返還でき(591条2項)、返還の時期を定めた場合に貸主が借主の期限前の返還によって損害を受けたときは、賠償を請求できる(同条3項)
- 期限の利益を主張できないのは、①債務者が破産手続開始の決定を受けたとき、②債務者が担保を滅失・損傷・減少させたとき、③担保を供する義務を負う債務者が供しないとき、の3つ(137条)
- 契約書の期限の利益喪失条項は契約の内容で、民法137条の条文ではない
- 主たる債務者が期限の利益を喪失したときは、債権者は、その喪失を知った時から2か月以内に保証人に通知しなければならない(458条の3第1項)。通知しなかったときは、喪失の時から通知を現にするまでに生じた遅延損害金(期限の利益を喪失しなかったとしても生ずべきものを除く)に係る保証債務の履行を請求できない(同条2項)。保証人が法人の場合は1項・2項は適用されない(同条3項)。施行日(2020年4月1日)前に締結された保証契約に係る保証債務は、なお従前の例による(平成29年法律第44号附則21条1項)
参照した一次ソース
- e-Gov法令検索 民法(135条〜137条・412条・458条の3・587条・587条の2・591条、平成29年法律第44号附則21条1項)
- e-Gov法令検索 破産法(103条)
- 行政書士試験研究センター 令和8年度行政書士試験のご案内
- 法テラス(日本司法支援センター)(個別の相談窓口)
本サイトは一般財団法人 行政書士試験研究センターとは関係ありません。掲載している問題は、過去の出題論点をもとに合格ナビが作成した論点別問題で、公式の試験問題ではありません。条文は、必ず e-Gov 法令検索の最新の内容で確認してください。
よくある質問
Q期限の利益を喪失すると、民法上は何が変わりますか?
民法137条は、同条の各号に掲げる場合には、債務者は「期限の利益を主張することができない」と定めています。民法135条1項は、始期を付した法律行為の履行は期限が到来するまで請求できないとしているので、期限の利益を主張できなくなるのは、期限がまだ来ていないことを理由に履行を拒む立場を取れなくなる、という意味に読めます(当サイトの整理)。一括で請求できる金額、遅延損害金、利息など個別の取扱いは、契約の内容と他の法律によって決まり、この記事では扱いません。
Q分割払いを滞納すると、民法上、期限の利益を失いますか?
民法137条(e-Gov、2026-10-09 時点)が挙げているのは、債務者が破産手続開始の決定を受けたとき、債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき、債務者が担保を供する義務を負う場合にこれを供しないとき、の3つです。この3つの号に、返済の遅れや滞納は挙げられていません。契約書に「期限の利益の喪失」といった見出しの条項がある場合は、その条項の内容が問題になります。自分の契約書をどう読むか、借入れをどう整理するかといった個別の相談は、法テラス(日本司法支援センター)など公的な相談窓口で受け付けています。
Q期限の利益は、債務者が自分から手放すことができますか?
できます。民法136条2項は、期限の利益は放棄することができるとしています。ただし書で、放棄によって相手方の利益を害することはできないとされているので、放棄が常に自由というわけではありません。借金の返済のような消費貸借については、591条2項が、借主は返還の時期の定めの有無にかかわらず、いつでも返還をすることができるとし、同条3項が、返還の時期を定めた場合に、貸主が借主の期限前の返還によって損害を受けたときは、借主に賠償を請求できると定めています。
Q主たる債務者が期限の利益を失ったとき、保証人には何か通知されますか?
民法458条の3第1項は、主たる債務者が期限の利益を有する場合にその利益を喪失したときは、債権者は、保証人に対し、その利益の喪失を知った時から2か月以内に、その旨を通知しなければならないと定めています。通知しなかったときは、同条2項により、期限の利益を喪失した時から通知を現にするまでに生じた遅延損害金(期限の利益を喪失しなかったとしても生ずべきものを除く)に係る保証債務の履行を請求できません。同条3項により、保証人が法人である場合には1項・2項は適用されません。また、平成29年法律第44号附則21条1項により、施行日(2020年4月1日)前に締結された保証契約に係る保証債務は、なお従前の例によります。
法令や試験の数字は、改正や年度で変わります。この記事の最終確認日は2026年10月10日です。申込みや合格基準は、必ず試験団体の公式情報で確かめてください。

