問題
酸素欠乏症等防止規則(酸欠則)における硫化水素(H₂S)の管理に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
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答え合わせ
- ア
- イ
- ウ
- エ
- オ
自信の3択
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解説
誤りはエです。「換気が困難な場合であっても中止しなければならない」という記述が誤りです。酸欠則第5条では、換気が困難な場合(爆発・酸化等のおそれがある場合等)は換気の代わりに空気呼吸器または送気マスク等の保護具を労働者に使用させることで作業を継続できます。「換気困難なら必ず中止」とは規定されていません。
硫化水素10ppm超の場合: まず換気による10ppm以下への低下を試みる→換気が困難な場合は空気呼吸器・送気マスク等の使用という優先順位があります。
ア(10ppm超が危険)・イ(第2種作業では酸素+硫化水素の両方を測定)・ウ(嗅覚麻痺の危険性)・オ(作業主任者の測定職務)はすべて正しいです。
硫化水素の濃度と生体影響(酸欠則・職業医学的知識):
| 濃度(ppm) | 生体への影響 |
|---|---|
| 0.5〜1 | 臭気を感知(腐った卵の臭い) |
| 10 | 粘膜刺激・目・鼻・喉の症状 ←酸欠則の危険基準 |
| 50 | 急激な頭痛・眼結膜炎 |
| 100 | 嗅覚麻痺(臭いがわからなくなる) |
| 200〜300 | 意識を失う(急性中毒) |
| 700〜1,000 | 即死(化学的窒息) |
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 酸欠則第2条第2号の通り、空気中の硫化水素濃度が10ppmを超えると硫化水素中毒の危険が生じるとされています。
- イ(正): 第2種酸素欠乏危険作業(酸欠+硫化水素のリスク)の作業前測定は、酸素濃度と硫化水素濃度の両方を測定する義務があります(酸欠則第3条)。
- ウ(正): 硫化水素は低濃度では臭気で察知できますが、100ppm以上では嗅覚が麻痺します。「臭いがしなければ安全」という判断は危険です。これは実際の事故(「臭いがしなかったから大丈夫と思った」という被災者の証言)に反映される重要な知識です。
- エ(誤): 換気が困難な場合は中止ではなく「空気呼吸器・送気マスク等の保護具使用」で対応します(酸欠則第5条の2)。換気が第一手段だが、困難な場合は保護具で代替できます。
- オ(正): 第2種酸素欠乏危険作業主任者の職務に、「当該作業場所の酸素濃度および硫化水素濃度の測定」が含まれています(酸欠則第11条)。
【理論的背景】
硫化水素(H₂S)は無色の気体で、低濃度では腐った卵・ゆで卵のような特徴的な臭気(主観的閾値は約0.5ppm)があります。しかし、100ppm以上の高濃度では「嗅覚麻痺(嗅神経の過剰刺激による機能停止)」が起きて臭いを感知できなくなります。これが「硫化水素中毒の特に危険な性質」の一つです。被災者は「最初は臭いがしたが突然感じなくなり、そのまま意識を失った」と証言することがあります。
硫化水素の毒性機序:
硫化水素は細胞のミトコンドリアにあるシトクロム酸化酵素(チトクロムc酸化酵素)を不可逆的に阻害します。これはシアン化物(青酸)と同じ作用機序です。細胞が酸素を利用できなくなり(化学的窒息)、高濃度では心停止・呼吸停止が急速に進行します。一酸化炭素中毒(酸素の運搬を阻害)とは毒性の機序が異なりますが、どちらも「細胞の酸素利用」を阻害する点で類似しています。
換気と保護具の優先関係(酸欠則第5条・第5条の2):
酸欠則は「換気による安全濃度の確保が第一選択」と「換気が不可能な場合は保護具(空気呼吸器・送気マスク等)で代替」という優先関係を設けています。硫化水素の場合、「10ppm以下に換気できない場合=作業中止」ではなく「換気の代わりに空気呼吸器等を使用して作業を継続できる」という柔軟な規定です。これは、密閉タンクの清掃等で換気が構造上困難な場合でも、保護具を適切に使用すれば安全に作業できるという考え方に基づきます。
【実務・条文構造】
硫化水素中毒対策の法令上の要求事項:
測定(酸欠則第3条):
- 第2種危険作業: 作業開始前に酸素濃度+硫化水素濃度の両方を測定
- 測定方法: 硫化水素検知管(比色式)・定置型ガス検知警報器・携帯型ガス検知器等
- 記録保存: 3年間
換気の義務(酸欠則第5条):
- 硫化水素10ppm以下に維持するための換気(自然換気・強制換気)
- 換気装置の選定: 硫化水素は空気より重い(比重1.19)ため、低位から排気する必要あり
- 爆発・酸化等のおそれにより換気できない場合の代替措置: 保護具の使用
保護具の使用(酸欠則第5条の2):
- 換気が困難な場合: 空気呼吸器または送気マスクを使用(防毒マスク・防じんマスクは酸欠・高濃度H₂S環境では使用不可)
- 空気呼吸器・送気マスクの特徴: 外部から清浄空気を供給するため、H₂S環境でも呼吸が維持できる
救出時の特別注意(連鎖死亡防止):
- 硫化水素中毒で倒れた者を救出する際は、必ず空気呼吸器・送気マスクを着用してから入場
- 防毒マスク(活性炭吸収缶)は高濃度H₂Sに対して保護能力が不十分な場合があるため使用不可
【試験での位置づけ】
硫化水素管理問題の頻出は「危険基準=10ppm超(酸欠則の定義)」「嗅覚麻痺(100ppm超で臭いがわからなくなる)」「換気が困難な場合は保護具(空気呼吸器等)で代替(中止義務はない)」「第2種作業では酸素と硫化水素の両方を測定」の4点です。エのような「換気困難なら必ず中止」という誤りは、酸欠則が「換気→保護具→作業継続可」という柔軟な選択を認めていることを正確に知っていないと引っかかる問題です。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 「10ppm」は酸欠則上の硫化水素中毒の判定基準です。学会等の許容濃度はこれより低い値が勧告されており、法令基準と許容濃度は別物であることを理解しておきましょう。
- イ: 第2種危険作業での測定機器選定では、「酸素濃度計」と「硫化水素検知管または電気化学式センサー」の両方が必要です。市販の複合ガス検知器(酸素・CO・H₂S・可燃性ガスを同時測定)が実務では広く使われています。検知器の校正(ゼロ点確認・スパン校正)を定期的に行い、精度を維持することも重要です。
- ウ: 嗅覚麻痺の危険性は「硫化水素の代名詞的な危険」として業界でよく知られています。実際の事故では「現場に入ったら臭いがしなかったので安全だと思って作業を続けたら中毒になった」というパターンが報告されています。「臭いがしない=安全」という直感的判断を訓練によって修正し、必ず測定器で確認する習慣を身に付けることが安全文化の基本です。
- エ: 換気が困難な状況の具体例として「地下密閉タンク(換気設備のない設計・換気ダクト設置困難)」「下水管清掃(換気扇設置が構造上困難)」「化学プロセス設備内部(爆発性ガスと混合するため換気困難)」等があります。これらの作業は保護具(空気呼吸器等)が必須であり、作業の中止ではなく適切な保護措置での実施が法令の想定です。
- オ: 第2種酸素欠乏危険作業主任者が「測定を自ら行う」職務を持つことは、作業主任者が「現場の状況を直接把握して指揮する」という制度の趣旨と一致しています。第三者(外部の測定機関等)への委託だけでは、現場の状況変化(作業中の濃度変動等)への即応が困難なため、作業主任者自身が測定技能を持ち、現場で判断することが求められます。
【根拠法令】酸素欠乏症等防止規則 第2条第2号(硫化水素中毒の危険濃度:10ppm超)・第3条(第2種作業では酸素+硫化水素両方の測定義務・記録3年保存)・第5条(換気:硫化水素10ppm以下に保つ)・第5条の2(換気困難な場合は空気呼吸器・送気マスク等の保護具で代替・作業中止ではない)・第11条(第2種作業主任者の職務:硫化水素濃度の測定を含む)
【補足】硫化水素の危険基準=10ppm超。嗅覚麻痺は100ppm超で発生(臭いで安全判断は禁物)。換気困難な場合は空気呼吸器等で対応(中止義務ではない)。第2種作業では酸素と硫化水素の両方を測定。
- 酸素欠乏症等防止規則第5条・第2条・第3条・第5条の2・第11条e-Govで原文を読む
出典と作り方
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 酸素欠乏症等防止規則(酸欠則)第2条第2号(硫化水素中毒の定義:10ppm超が危険)・第3条(測定義務)・第5条(換気または保護具の使用:換気困難な場合は空気呼吸器等を使用)・第11条(作業主任者の職務)。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。

