特定行政書士は、行政書士法第1条の4により、許認可等に関する不服申立ての代理ができる行政書士です。なり方は試験ではなく研修の課程の修了。通常の行政書士との違いと、意味があるかを判断する3つの軸を、行政書士法の条文と日本行政書士会連合会の案内で整理します。
目次
結論:特定行政書士は、行政書士のうち、許認可等に関する審査請求などの不服申立ての手続の代理と、その手続の書類の作成を行える人です(行政書士法第1条の4第1項第2号・第2項)。なり方は「試験」ではなく、日本行政書士会連合会が実施する研修の課程の修了で、修了すると行政書士の登録に特定行政書士である旨が付記されます(第7条の3)。「意味があるか」は、不服申立ての代理を業務として受けるかどうかで決まります。
この記事の条文の出典は、e-Gov 法令検索の行政書士法です(2026-10-04 時点の現行条文。2026-05-21 施行の版)。令和8年(2026年)1月1日の改正で条番号が移り、特定行政書士の定めは旧第1条の3から第1条の4になっています。
通常の行政書士と特定行政書士の違い:早見表
| 業務 | 行政書士 | 特定行政書士 | 根拠(行政書士法) |
|---|---|---|---|
| 官公署に提出する書類・権利義務や事実証明に関する書類の作成 | できる | できる | 行政書士法第1条の3 |
| 官公署に提出する書類の提出手続の代理、聴聞・弁明の機会の付与の手続などでの代理(弁護士法第72条に規定する法律事件に関する法律事務に該当するものを除く) | できる | できる | 行政書士法第1条の4第1項第1号 |
| 契約その他に関する書類を代理人として作成すること | できる | できる | 行政書士法第1条の4第1項第3号 |
| 書類の作成についての相談 | できる | できる | 行政書士法第1条の4第1項第4号 |
| 許認可等に関する審査請求・再調査の請求・再審査請求などの不服申立ての手続の代理と、その手続の書類の作成 | できない | できる | 行政書士法第1条の4第1項第2号・第2項 |
どの業務も、他の法律でその業務を行うことが制限されている事項は行えません(行政書士法第1条の3第2項、第1条の4第1項ただし書)。
表の最後の行は、第1条の4第1項第2号と第2項の文言どおりです。日本行政書士会連合会の「行政書士の業務」のページも、この業務を、研修を修了した特定行政書士が行う「その他特定業務」の1つとして挙げています(出典:日本行政書士会連合会 行政書士の業務。同ページの条番号の表記は、令和8年1月1日の改正前の「第1条の3第2項」のままです)。
特定行政書士の定義:不服申立ての手続の代理・書類作成(行政書士法第1条の4第1項第2号)は、日本行政書士会連合会がその会則で定めるところにより実施する研修の課程を修了した行政書士(特定行政書士)に限り行える(同条第2項)。最終確認日:2026-10-04。出典:e-Gov法令検索 行政書士法・日本行政書士会連合会 特定行政書士について。
特定行政書士とは:行政書士法第1条の4の条文
第1条の4第1項第2号は、行政書士が、他人の依頼を受け報酬を得て、次の事務を業とすることができると定めています。
- 「前条の規定により行政書士が作成することができる官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立ての手続について代理し、及びその手続について官公署に提出する書類を作成すること」
第2項は、この業務を行えるのは、日本行政書士会連合会が会則で定めるところにより実施する研修の課程を修了した行政書士(これを「特定行政書士」という)に限ると定めています。
用語を整理します。
- 許認可等:行政手続法第2条第3号は、「申請」の定義の中で、行政庁の許可、認可、免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分を「許認可等」と呼んでいます(行政書士法第1条の4第1項第1号は、これに「当該書類の受理」を加えたものを許認可等としています)。
- 審査請求:行政庁の処分に不服がある者が行う不服申立てです。行政不服審査法第2条は「行政庁の処分に不服がある者は…審査請求をすることができる」と定めています。第3条は、申請から相当の期間が経過しても行政庁が何もしない(不作為の)場合の審査請求も定めています。
- 不服申立て:審査請求のほか、再調査の請求・再審査請求があります(行政不服審査法)。手続の詳細は行政不服審査法の解説にまとめています。
日本行政書士会連合会は、特定行政書士の意味を「これにより、許認可などの申請から不服申立て手続まで一貫して行うことが可能となります。」と説明しています。同会のページには、不許可(開発許可・廃棄物処理業の許可申請が不許可とされた場合)、不利益処分(飲食店の営業停止処分など)、不作為(農地転用の許可申請に半年近く結果が出ない場合など)の例が載っています。
令和8年1月1日の改正で、代理できる範囲が広がった
令和7年法律第65号による改正(令和8年1月1日施行)で、第1条の4第1項第2号の対象が次のように変わりました。
| 時点 | 条文の文言(第2号の対象となる書類) |
|---|---|
| 令和8年1月1日の改正前(行政書士法の旧第1条の3第1項第2号) | 行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る許認可等に関する不服申立て |
| 令和8年1月1日の改正後(行政書士法の現行第1条の4第1項第2号) | 行政書士が作成することができる官公署に提出する書類に係る許認可等に関する不服申立て |
出典:e-Gov 法令検索の行政書士法の施行前の版(2025-10-01 施行)と現行版を比較。総務省の改正法要綱も、特定行政書士の業務範囲の拡大として同じ内容を示しています(行政書士法の一部を改正する法律要綱)。改正の全体像は行政書士法改正(2026年1月施行)の要点にまとめています。
特定行政書士になるには:試験ではなく、研修の課程の修了
「特定行政書士試験」という言葉で検索されることがありますが、行政書士法の条文に特定行政書士の試験を定めた規定はありません。条文が定めているのは、次の3段階です。
| 段階 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| ①行政書士として登録されている | 行政書士試験の合格などで資格を得て、行政書士名簿に登録を受ける | 行政書士法第2条・第6条 |
| ②研修の課程を修了する | 日本行政書士会連合会が会則で定めるところにより実施する研修 | 行政書士法第1条の4第2項 |
| ③登録に付記される | 修了すると、日本行政書士会連合会が遅滞なく、登録に特定行政書士である旨を付記し、書面で通知する | 行政書士法第7条の3 |
日本行政書士会連合会の公開ページで確認できたのは、次の範囲です。
- 研修は「特定行政書士法定研修」という名前で、同会の中央研修所が実施している。
- 事前学習のための「特定行政書士プレ研修(VOD研修)」と、特定行政書士になった後の「特定行政書士ブラッシュアップ研修」がある。
- 特定行政書士の証票は金色を基調とし(行政書士証票は銀色を基調とする)、徽章(バッジ)は行政書士徽章より直径が2mm大きく、厚さが1mm厚い。
出典:日本行政書士会連合会 特定行政書士について・中央研修所。
研修の中身、試験や考査の有無、日程、料金、受講の条件は、日本行政書士会連合会の「特定行政書士について」と「中央研修所」のページには載っていません(2026-10-04 時点)。インターネット上には「特定行政書士試験」の解説もありますが、公式の情報ではないため、この記事では扱いません。受講を考えるときは、所属の都道府県行政書士会か、日本行政書士会連合会の研修の案内で確認してください。
特定行政書士の研修:研修の名称は「特定行政書士法定研修」(日本行政書士会連合会 中央研修所が実施)。日程・料金・考査の有無は公開ページに記載なし。最終確認日:2026-10-04。出典:日本行政書士会連合会 中央研修所。
「意味ない」かどうかを判断する3つの軸
特定行政書士に「意味があるか」は、収入や需要といった数字ではなく、条文でできることが増えるかどうかで考えられます。公式資料に、特定行政書士の人数や収入に関する数字はないため、この記事では触れません。
- 軸①:不服申立ての代理を業務にするか。審査請求などの手続の代理と書類の作成は、特定行政書士にしかできません(行政書士法第1条の4第2項)。許認可の申請書類の作成だけで、不許可や処分への不服申立てを受けない業務なら、特定行政書士の業務は使いません。
- 軸②:申請から不服申立てまで、同じ依頼者の案件を続けたいか。日本行政書士会連合会は「許認可などの申請から不服申立て手続まで一貫して行うことが可能」と説明しています。
- 軸③:研修の受講に必要な時間と費用を、自分の事務所で確保できるか。日程と料金は公開ページにないため、所属の行政書士会の案内を確認してください。
本人が自分で審査請求をすることは、特定行政書士でなくてもできます(行政不服審査法第2条)。つまり、特定行政書士かどうかの違いは、「審査請求ができるかどうか」ではなく、「依頼を受けて代理できるかどうか」にあります。
審査請求には期限があります。処分についての審査請求は、原則として、処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月を経過するとできなくなります(正当な理由があるときを除く。行政不服審査法第18条第1項。個別の法律に特別の定めがある場合を除く)。依頼を受ける側は、この期限を踏まえて動くことになります。
行政機関での活躍
日本行政書士会連合会は、特定行政書士が、地方公共団体に置かれる行政不服審査会の委員や審理員として活躍していると紹介しています。審理員と行政不服審査会は、行政不服審査法の解説で仕組みを整理しています。
試験勉強との関係:行政不服審査法は行政書士試験の出題範囲
特定行政書士の業務の土台になる行政不服審査法は、行政書士試験の「行政法」の出題範囲でもあります。合格ナビの行政書士の論点別問題493問のうち、行政不服審査法・審査請求・再調査・審理員・教示を扱う行政法の問題は18問です(2026-10-04 時点の当サイト集計。自作問題の数で、本試験の出題数ではありません)。
まとめ
- 特定行政書士は、研修の課程を修了した行政書士で、許認可等に関する不服申立ての手続の代理と書類の作成を行えます(行政書士法第1条の4第1項第2号・第2項)。令和8年1月1日の改正で、対象は「作成した」書類から「作成することができる」書類に広がりました。
- なり方は試験ではなく研修の課程の修了で、修了すると登録に付記されます(第7条の3)。研修の日程・料金・考査の有無は、日本行政書士会連合会の「特定行政書士について」「中央研修所」のページには載っていません(2026-10-04 時点)。
- 意味があるかは、不服申立ての代理を業務として受けるかで判断できます。本人が審査請求をすることは誰でもできるため、特定行政書士の違いは「代理できる」点にあります。
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よくある質問
Q特定行政書士になるための「試験」はありますか?
行政書士法が定めているのは、試験ではなく「研修の課程の修了」です。第1条の4第2項は、不服申立ての代理などの業務は、日本行政書士会連合会がその会則で定めるところにより実施する研修の課程を修了した行政書士に限って行えると定めています。日本行政書士会連合会の公開ページには、その研修が「特定行政書士法定研修」として紹介されていますが、試験や考査の有無、日程、料金は載っていません。受講を考える場合は、所属の行政書士会に確認してください(出典:日本行政書士会連合会 特定行政書士について)。
Q特定行政書士の資格は、行政書士の登録とは別に必要な登録ですか?
別の登録は必要ありません。第7条の3は、行政書士が第1条の4第2項に規定する研修の課程を修了したときは、日本行政書士会連合会が遅滞なく、その行政書士の登録に「特定行政書士である旨の付記」をしなければならないと定めています。行政書士として登録されていることが前提で、付記されたときは、その旨が書面で本人に通知されます。
Q特定行政書士でない行政書士は、審査請求の代理ができませんか?
許認可等に関する審査請求などの不服申立ての手続の代理と、その手続の書類の作成は、特定行政書士に限って行えます(行政書士法第1条の4第1項第2号・第2項)。特定行政書士でない行政書士は、官公署への書類の作成や、提出の手続の代理など、行政書士法第1条の3・第1条の4第1項の他の業務を行えます。なお、審査請求そのものは、処分に不服がある本人も行えます(行政不服審査法第2条)。
法令や試験の数字は、改正や年度で変わります。この記事の最終確認日は2026年10月4日です。申込みや合格基準は、必ず試験団体の公式情報で確かめてください。

