特定社会保険労務士(特定社労士)とは何かを社労士法の条文で解説。社労士との違い(あっせん・調停・ADRの代理)、研修63時間以上→紛争解決手続代理業務試験→付記の3段階、合格基準と第18〜21回の合格率、代理できない事件まで、厚生労働省と連合会の一次資料で整理します。
目次
結論:特定社会保険労務士(特定社労士)とは、紛争解決手続代理業務試験に合格し、社会保険労務士名簿にその旨の付記を受けた社労士のことです(社会保険労務士法第2条第2項)。社労士との違いは、労働局のあっせん・調停、都道府県労働委員会のあっせん、厚生労働大臣が指定する団体のADR(裁判外紛争解決手続)で、紛争の当事者の代理ができる点です。なるには、連合会の研修(63時間以上)を修了し、試験(第21回の合格率50.5%)に合格し、付記を受ける3段階が要ります。
「特定社会保険労務士」で上位に出るページは、個人の体験記や書籍の一覧が中心で、社労士法の条文や厚生労働省の発表に直接リンクして制度を説明したページはほとんどありません。この記事は、社労士法・同施行令・同施行規則(e-Gov 法令検索の 2026-10-02 時点の現行条文。2026年10月1日施行の改正を反映した版)、厚生労働省の試験結果、全国社会保険労務士会連合会の公表資料だけで書いています。収入の数字は、これらの資料に記載がないため(2026-10-02 時点)扱いません。
| 比べる点 | 社会保険労務士 | 特定社会保険労務士 |
|---|---|---|
| 根拠 | 社労士法3条・14条の2(試験合格等+実務2年以上等+登録) | 社労士法2条2項(社労士+試験合格+付記) |
| 書類の作成・提出代行・事務代理・帳簿の作成 | できる(1号〜1号の3・2号) | できる |
| 労務管理の相談・指導(3号) | できる | できる |
| 裁判所での補佐人(2条の2) | できる | できる |
| あっせん・調停・ADRで紛争の当事者を代理 | できない | できる(1号の4〜1号の6) |
| 証票 | 社会保険労務士証票 | 特定社会保険労務士証票(14条の11の3) |
合格ナビの社労士の論点別問題358問(すべて当サイトのオリジナル問題)のうち、社労士法を扱う問題は3問で、3問とも特定社労士・紛争解決手続代理業務の論点を含みます(2026-10-02 集計。本試験の出題数ではなく当サイトの問題数です)。紛争解決手続代理業務試験そのものの問題は、当サイトにはありません。
特定社会保険労務士とは(社労士法2条2項の定義)
特定社労士は、資格の名前ではなく、社労士の登録に「付記」が付いた状態を指します。社会保険労務士法第2条第2項の原文は次のとおりです(e-Gov 法令検索 社会保険労務士法)。
「前項第一号の四から第一号の六までに掲げる業務(以下「紛争解決手続代理業務」という。)は、紛争解決手続代理業務試験に合格し、かつ、第十四条の十一の三第一項の規定による付記を受けた社会保険労務士(以下「特定社会保険労務士」という。)に限り、行うことができる。」(社会保険労務士法第2条第2項)
読み取れる点は3つです。
- 前提は「社会保険労務士」であること。社労士として登録していない人は、特定社労士になれません
- 要件は「試験に合格」と「付記を受けた」の両方(「かつ」)。合格しただけでは特定社労士ではありません
- 紛争解決手続代理業務は、特定社労士「に限り」行えます。特定社労士でない社労士は、この業務を行えません
全国社会保険労務士会連合会の令和7年度事業報告書(別表「令和7年度紛争解決手続代理業務付記概況 R8.3.31 現在」)では、令和7年度末の特定社会保険労務士数は14,500人です。
特定社会保険労務士数:令和7年度末(令和8年3月31日現在)14,500人。最終確認日:2026-10-02。出典:全国社会保険労務士会連合会 令和7年度事業報告書(PDF)。
特定社労士の定義を問題で確認する(論点別問題):
社労士との違い:特定社労士だけが代理できる3つの手続
社労士との違いは、社労士法第2条第1項第1号の4〜第1号の6の3つの手続で、紛争の当事者を代理できるかどうかです。
| 号 | 手続 | 条件 |
|---|---|---|
| 1号の4 | 都道府県労働局の紛争調整委員会のあっせん(個別労働関係紛争解決促進法5条1項)と、障害者雇用促進法・労働施策総合推進法・男女雇用機会均等法・労働者派遣法・育児介護休業法・パートタイム有期雇用労働法に基づく調停 | — |
| 1号の5 | 都道府県労働委員会が行う個別労働関係紛争のあっせん(労働争議に当たる紛争や、募集・採用に関する紛争などは除く) | — |
| 1号の6 | 厚生労働大臣が指定する団体が行う民間紛争解決手続(ADR) | 紛争の目的の価額が120万円を超える場合は、弁護士が同じ依頼者から受任しているものに限る |
1号の6の条件は原文で「紛争の目的の価額が百二十万円を超える場合には、弁護士が同一の依頼者から受任しているものに限る。」です。連合会も、ADRで「単独で代理することができる紛争目的価額の上限は120万円」と説明しています(全国社会保険労務士会連合会「紛争解決手続代理業務」)。連合会のページによると、社労士会は「社労士会労働紛争解決センター」を設置しています(一部を除く)。
代理には、次の事務も含まれます(社労士法第2条第3項)。
- 手続について相談に応ずること(1号)
- 手続の開始から終了までの間に和解の交渉を行うこと(2号)
- 手続で成立した和解の合意を内容とする契約を締結すること(3号)
一方、裁判所で弁護士である代理人とともに補佐人として出頭し陳述すること(第2条の2)は、主語が「社会保険労務士は」なので、特定社労士に限られません。第2条に訴訟そのものの代理は挙げられていません。
なお、2026年10月1日施行の改正で、1号の4が引用する他の法律の条番号が変わりました(労働施策総合推進法は第30条の6第1項から第37条第1項へ、男女雇用機会均等法は第18条第1項から第24条第1項へ)。代理できる調停の根拠となる法律の種類は、改正の前後で同じです(e-Gov の 2025年10月1日施行版と現行版を比較して確認)。
代理できる手続を問題で確認する(論点別問題):
特定社労士になるには:研修→試験→付記の3段階
連合会は「社労士が特定社労士になるには、「厚生労働大臣が定める研修」を修了し、「紛争解決手続代理業務試験」に合格後に、その旨を連合会に備える社会保険労務士名簿に付記しなければなりません。」と案内しています(全国社会保険労務士会連合会「紛争解決手続代理業務」)。条文に沿って並べると次のとおりです。
| 段階 | 中身 | 根拠 |
|---|---|---|
| 0 社労士になる | 社労士試験の合格などに加え、実務2年以上(または同等以上と認められた経験)で資格を得て、名簿に登録 | 社労士法3条1項・14条の2第1項 |
| 1 研修を修了する | 連合会が行う研修。講義と演習で総時間63時間以上。修了者に研修修了証 | 社労士法13条の3第1項・施行規則9条の3・9条の4 |
| 2 試験に合格する | 紛争解決手続代理業務試験。毎年1回以上、厚生労働大臣が行う(試験の実施事務は連合会が担当できる) | 社労士法13条の3・13条の4 |
| 3 付記を受ける | 合格を証する書類を添えて付記申請書を社労士会経由で連合会へ。付記されると特定社会保険労務士証票が交付される | 社労士法14条の11の2・14条の11の3 |
研修の内容は、施行規則第9条の3で次の5つと定められています(e-Gov 法令検索 社会保険労務士法施行規則)。
- ① 個別労働関係紛争に関する法令及び実務
- ② 個別労働関係紛争の解決のための手続
- ③ 個別労働関係紛争における書面の作成
- ④ 紛争解決手続代理業務に携わる者としての倫理
- ⑤ その他個別労働関係紛争に関し必要な事項
連合会の事業報告書では、この研修は「特別研修」と呼ばれています。第21回特別研修は9月1日〜11月22日に行われ、中央発信講義はeラーニング、グループ研修とゼミナールは北海道・宮城県・東京都・愛知県・大阪府・広島県・福岡県で実施されました。
第21回特別研修:受講者数752人・修了者数649人・修了率86.3%(令和7年度)。最終確認日:2026-10-02。出典:全国社会保険労務士会連合会 令和7年度事業報告書(PDF)。
試験の受験手数料は政令で定められています。研修の受講料は法令に定めがないため、連合会の案内で確認してください。
紛争解決手続代理業務試験の受験手数料:15,000円(社会保険労務士法施行令第1条第2項)。最終確認日:2026-10-02。出典:e-Gov 法令検索 社会保険労務士法施行令。
研修・試験・付記の流れを問題で確認する(論点別問題):
紛争解決手続代理業務試験の合格率・合格基準・難易度
厚生労働省の発表では、紛争解決手続代理業務試験は平成17年の社労士法改正で新設され、平成18年度から実施されています。直近4回の結果は次のとおりです。
| 回(年度) | 試験日 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
|---|---|---|---|---|
| 第21回(令和7年度) | 令和7年11月22日 | 1,041人 | 526人 | 50.5% |
| 第20回(令和6年度) | 令和6年11月23日 | 856人 | 398人 | 46.5% |
| 第19回(令和5年度) | 令和5年11月25日 | 892人 | 502人 | 56.3% |
| 第18回(令和4年度) | 令和4年11月26日 | 901人 | 478人 | 53.1% |
出典:厚生労働省 第21回・第20回・第19回・第18回(紛争解決手続代理業務試験の結果について)。合格率は合格者数÷受験者数で、当サイトの再計算でも一致しました。
紛争解決手続代理業務試験の合格基準:100点満点中55点以上、かつ第2問10点以上(配点は第1問70点・第2問30点。第18回〜第21回で同じ基準)。最終確認日:2026-10-02。出典:厚生労働省 第21回紛争解決手続代理業務試験の合格者について。
難易度を数字で見ると、合格率は第18回〜第21回で46.5%〜56.3%で、受験者のおよそ2人に1人が合格しています。ただし受験できるのは、社労士として登録し、63時間以上の研修を修了した人に限られます(申込みは、試験日までに修了する見込みの段階でもできます。施行規則9条の5第2項)。合格基準には「第2問10点以上」という条件が付いているので、第1問だけで55点を取っても合格にはなりません。
試験の実施事務は連合会が担当しており、第21回の受験申込者数は1,099人、受験率は94.7%でした(同事業報告書)。試験は第18回〜第21回のいずれも11月の土曜日に、全国7都道府県で実施されています。試験問題と出題の趣旨は、厚生労働省の発表によれば連合会のホームページに掲載されています。
試験の前提になる法律(個別労働関係紛争解決促進法・社労士法)を問題で確認する(論点別問題):
特定社労士が守るルール:代理できない事件と社労士法人
特定社労士には、紛争解決手続代理業務を行ってはならない事件が定められています(社労士法第22条第2項)。
| 号 | 代理してはならない事件(条文の要約) | 依頼者の同意による例外 |
|---|---|---|
| 1号 | 紛争解決手続代理業務に関して、相手方の協議を受けて賛助し、またはその依頼を承諾した事件 | なし |
| 2号 | 相手方の協議を受けた事件で、協議の程度と方法が信頼関係に基づくと認められるもの | なし |
| 3号 | 受任している事件の相手方からの依頼による他の事件 | あり(受任している事件の依頼者が同意した場合) |
| 4号・5号 | 以前勤めていた開業社労士・社労士法人が1号・2号に当たる関わりをした事件で、自ら関与したもの | なし |
ただし書の「依頼者が同意した場合は、この限りでない」は第3号だけにかかります。1号・2号・4号・5号には同意による例外がありません。
社労士法人の場合は、次のルールがあります。
- 紛争解決手続代理業務は、社員のうちに特定社労士がいる法人に限り、定款で定めるところにより行える(第25条の9第1項第2号・第2項)
- その業務は、特定社労士である社員(特定社員)だけが執行する(第25条の15第2項)
- 法人は、特定社労士でない者に紛争解決手続代理業務を行わせてはならない(第25条の19第2項)
付記は、偽りその他不正の手段で受けたことが分かった場合、連合会が抹消しなければなりません(第14条の11の4第1項)。
社労士法人と特定社労士を問題で確認する(論点別問題):
社労士試験の受験生が押さえる出題ポイント
社労士試験の勉強では、特定社労士は社労士法と個別労働関係紛争解決促進法の論点として扱います。当サイトでは、社労士法の問題を「社会保険に関する一般常識」、個別労働関係紛争解決促進法の問題を「労務管理その他の労働に関する一般常識」に分類しています。条文で確かめた要点は次のとおりです。
| 論点 | 条文の要点 | 根拠 |
|---|---|---|
| 紛争代理は何号業務か | 1号の4〜1号の6。3号(相談・指導)ではない | 社労士法2条1項 |
| 誰が代理できるか | 試験に合格し、かつ付記を受けた社労士に限る | 社労士法2条2項 |
| 独占業務の範囲 | 社労士・社労士法人でない者は、報酬を得て1号〜2号の事務を業として行えない。3号は対象外 | 社労士法27条 |
| 助言・指導の始まり方 | 当事者の双方または一方から援助を求められた場合に、都道府県労働局長が行う | 個別労働関係紛争解決促進法4条1項 |
| あっせんを行う機関 | 都道府県労働局に置かれる紛争調整委員会 | 同法5条1項・6条 |
| 不利益取扱い | 援助を求めたこと・あっせんを申請したことを理由とする解雇その他不利益な取扱いは禁止 | 同法4条3項・5条2項 |
個別労働関係紛争解決促進法の条文の出典は e-Gov 法令検索 です(2026-10-02 時点の現行条文)。パートタイム・有期雇用労働法の調停も、紛争調整委員会が行います(同法第25条第1項・e-Gov 法令検索)。
「特定社労士は意味ない」という評価については、独占業務の線引きと合わせて 社会保険労務士はやめとけ?一次資料で確かめる記事 で扱っています。
出題ポイントを問題で確認する(論点別問題):
まとめ
- 特定社会保険労務士=紛争解決手続代理業務試験に合格し、かつ付記を受けた社労士(社労士法2条2項)
- 社労士との違いは、あっせん・調停・ADRで紛争の当事者を代理できること(1号の4〜1号の6)。ADRで価額120万円を超えるものは弁護士の受任が条件
- なるには「研修(63時間以上)→試験→付記」の3段階。試験の受験手数料は15,000円
- 第18回〜第21回の合格率は46.5%〜56.3%。合格基準は55点以上かつ第2問10点以上
- 代理できない事件(22条2項)のうち、依頼者の同意で外れるのは3号だけ
条文の出典は e-Gov 法令検索です(2026-10-02 時点の現行条文。社会保険労務士法は2026年10月1日施行の改正を反映した版)。
よくある質問
Q特別研修を修了する前に、紛争解決手続代理業務試験を申し込めますか?
申し込めます。社会保険労務士法施行規則第9条の5第2項ただし書は、試験の日までに研修を修了する見込みである場合、研修修了証に代えて「修了する見込みであることを証する書面」を添えるよう定めています。研修を修了しないまま試験を受けられるわけではありません(法第13条の3第1項は受験者を研修を修了した社労士と定めています)。
Q紛争解決手続代理業務試験の受験手数料はいくらですか?
社会保険労務士法施行令第1条第2項で15,000円と定められています(現行の政令。2026年10月2日時点)。法第13条の5が準用する第12条第3項により、試験を受けなかった場合も返還されません。特別研修の受講料は法令に定めがないため、全国社会保険労務士会連合会の案内で確認してください。
Q試験に合格すれば、すぐに特定社労士を名乗れますか?
合格だけでは足りません。社労士法第2条第2項は、試験に合格し「かつ」第14条の11の3第1項の付記を受けた社労士を特定社会保険労務士と定めています。付記の申請は、合格を証する書類を添えて社労士会を経由し連合会へ出します(第14条の11の2)。付記されると特定社会保険労務士証票が交付され、それまでの社会保険労務士証票は返還します(第14条の11の3第2項・第3項)。
Q社労士法人が紛争解決手続代理業務を行うには何が必要ですか?
社員のうちに特定社会保険労務士がいることと、定款で定めることです(社労士法第25条の9第1項第2号・第2項)。その法人の紛争解決手続代理業務は、特定社労士である社員(特定社員)だけが業務を執行します(第25条の15第2項)。
法令や試験の数字は、改正や年度で変わります。この記事の最終確認日は2026年10月2日です。申込みや合格基準は、必ず試験団体の公式情報で確かめてください。

