宅建の時効を民法144条〜169条の条文で整理します。取得時効の10年と20年、債権の消滅時効の5年と10年、起算日の考え方、完成猶予と更新の違い、催告・協議の合意の扱いを表で確認できます。
目次
結論:宅建の時効は、民法144条〜169条の3つで整理します。①取得時効は、占有を続けた期間で決まり、善意無過失なら10年、そうでなければ20年です(162条)。②債権の消滅時効は、「知った時から5年」か「行使できる時から10年」の早いほうです(166条1項)。③時効の進み方を変える事由は、完成を一時止める「完成猶予」と、期間を数え直す「更新」の2つで、催告は完成猶予(6か月)だけで更新ではありません(150条)。
この記事は、e-Gov 法令検索で読んだ民法の条文だけをもとに、宅建(宅地建物取引士資格試験)の権利関係で問われる時効を整理したものです。権利関係の全体像は宅建の権利関係の攻略(14問の内訳と論点別の記事)にまとめてあり、ここでは「時効」の検索意図に絞って、起算日、期間、完成猶予と更新を掘り下げます。
宅建の時効:取得時効と消滅時効の期間(早見表)
まず期間を1枚で並べます。
民法の時効期間:取得時効は、所有の意思をもって平穏かつ公然に他人の物を占有して、20年(占有の開始の時に善意無過失なら10年)。債権の消滅時効は、知った時から5年、または行使できる時から10年。債権・所有権以外の財産権は、行使できる時から20年。最終確認日:2026-10-07。出典:e-Gov 法令検索 民法162条・166条。
| 種類 | 期間 | 根拠 |
|---|---|---|
| 所有権の取得時効(原則) | 20年 | 民法162条1項 |
| 所有権の取得時効(占有開始時に善意かつ無過失) | 10年 | 民法162条2項 |
| 債権の消滅時効(権利を行使できると知った時から) | 5年 | 民法166条1項1号 |
| 債権の消滅時効(権利を行使できる時から) | 10年 | 民法166条1項2号 |
| 債権・所有権以外の財産権の消滅時効 | 20年 | 民法166条2項 |
| 人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権 | 10年が20年になる | 民法167条 |
| 定期金債権(知った時から/行使できる時から) | 10年/20年 | 民法168条1項 |
| 確定判決などで確定した権利 | 10年(確定の時に弁済期の来ていない債権は除く) | 民法169条 |
条文は、取得時効と消滅時効のどちらも「一定の期間が経過すると、権利を取得する・権利が消える」という仕組みです。以下、順に見ます。
時効の起算日:「知った時」と「行使できる時」の違い
時効の効力について、民法144条は「時効の効力は、その起算日にさかのぼる。」と定めています。起算日は、時効期間を数え始める日のことです。起算日がいつになるかは、時効の種類で決まり方が違います。
- 取得時効:占有を始めた時から数えます。162条は、一定期間にわたり、所有の意思をもって平穏かつ公然と占有し続けたことを要件にしており、10年の場合の善意無過失は「その占有の開始の時」に判断します(162条2項)
- 債権の消滅時効:次の2つの起算点があり、早く満了したほうで時効が完成します(166条1項)
| 起算点 | 内容 | 期間 |
|---|---|---|
| 主観的な起算点 | 債権者が権利を行使することができることを知った時 | 5年 |
| 客観的な起算点 | 権利を行使することができる時 | 10年 |
「知った時」と「行使できる時」が同じ日になる債権なら、5年のほうが先に満了します。債権者が行使できることを知らないまま時間が過ぎた場合に、10年の客観的な起算点が最終的な歯止めになる、と整理すると覚えやすくなります。
期間の数え方(当サイトの計算)
時効期間の数え方は、民法の期間の計算の定めに従います(138条)。日・週・月・年で期間を定めたときは初日を算入せず(140条)、月または年の期間は暦に従って、最後の年において起算日に応当する日の前日に満了します(143条2項)。期間は末日の終了をもって満了します(141条)。
条文のとおりに当てはめた、当サイトの計算例です(数値は設例)。
- 債権者が、2026年4月1日に権利を行使できると知った(その日から行使もできる)。5年の消滅時効の場合
- ① 初日の4月1日は算入しないので、起算日は4月2日。5年後の応当日2031年4月2日の前日である2031年4月1日の終了で満了する
- ② 検算:知った日と同じ月日の5年後(2031年4月1日)の終了、と数えても同じ。2つの数え方が一致する
- 占有の開始が2016年4月1日の取得時効の場合:善意無過失なら10年で2026年4月1日の終了、悪意または過失があれば20年で2036年4月1日の終了に満了する
末日が日曜日・祝日などの休日に当たるときの扱いは142条にあり、その日に取引をしない慣習がある場合に限り、期間は翌日に満了します。
取得時効(162条・163条・164条)
取得時効は、他人の物を占有し続けた人が所有権を取得する制度です。民法162条の要件を表にします。
| 条文 | 占有の態様 | 期間 |
|---|---|---|
| 162条1項 | 所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した | 20年 |
| 162条2項 | 同上に加えて、占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかった | 10年 |
要点は次の4つです。
1. 「所有の意思」「平穏」「公然」の3つは、20年でも10年でも必要です。10年の場合は、これに占有開始時の善意無過失が加わります
2. 善意無過失かどうかは、占有を始めた時点で判断します(162条2項の「占有の開始の時に」)
3. 所有権以外の財産権も、自己のためにする意思をもって平穏かつ公然と行使する者が、前条の区別に従い20年または10年を経過した後に取得できます(163条)
4. 占有者が任意に占有を中止したり、他人に占有を奪われたりしたときは、162条の取得時効は中断します(164条)。163条の場合にも準用されます(165条)
取得時効は、期間が経過して時効が完成しても、後に説明する「援用」がなければ裁判所は時効によって裁判できません(145条)。
消滅時効(166条〜169条)
債権の消滅時効は、前の表のとおり「知った時から5年」か「行使できる時から10年」です。166条の周辺には、期間が変わる条文が3つあります。
- 人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権:166条1項2号の「10年間」を「20年間」と読み替えます(167条)。「知った時から5年」の部分は変わりません
- 定期金の債権:各債権を行使できると知った時から10年、行使できる時から20年です(168条1項)。債権者は、時効の更新の証拠を得るため、いつでも債務者に承認書の交付を求められます(同2項)
- 確定判決などで確定した権利:もとの時効期間が10年より短くても10年になります(169条1項)。ただし、確定の時に弁済期の到来していない債権には適用されません(同2項)
債権でも所有権でもない財産権は、権利を行使できる時から20年行使しないときに時効で消滅します(166条2項)。
この論点の問題を解く
時効の完成猶予と更新の違い(147条〜154条)
時効の進み方に影響する事由は、次の2つに分かれます。
- 完成猶予:一定の事由がある間(または終了してから一定期間)、時効が完成しない。期間は数え直さない
- 更新:事由の終了後、時効が新たにその進行を始める。期間を最初から数え直す
事由ごとに、効果を整理します。
| 事由 | 完成猶予 | 更新 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 裁判上の請求・支払督促・民事訴訟法275条1項の和解や民事調停・家事調停・破産手続参加など | 事由が終了するまで。権利が確定せずに終了したときは、終了から6か月 | 確定判決または同一の効力のものによって権利が確定したとき、終了した時から新たに進行 | 147条 |
| 強制執行・担保権の実行・競売・財産開示手続など | 事由が終了するまで。申立ての取下げ・取消しで終了したときは、終了から6か月 | 事由が終了した時から新たに進行(取下げ・取消しで終了した場合を除く) | 148条 |
| 仮差押え・仮処分 | 事由が終了した時から6か月 | なし | 149条 |
| 催告 | その時から6か月 | なし。猶予中の再度の催告は猶予の効力がない | 150条 |
| 権利についての協議を行う旨の書面の合意 | 合意から1年、合意で定めた協議期間(1年未満に限る)、協議の続行を拒絶する書面通知から6か月のうち、最も早い時まで | なし | 151条 |
| 権利の承認 | なし | 承認の時から新たに進行。承認には、相手方の権利を処分する行為能力や権限までは要らない(同2項) | 152条 |
整理のしかたは、次の3点です。
1. 更新があるのは、確定判決などで権利が確定したとき(147条2項)、強制執行などの手続が終了したとき(148条2項)、権利の承認(152条)です
2. 仮差押え・仮処分、催告、協議の合意は、完成猶予にとどまります
3. 協議を行う旨の合意は書面(電磁的記録を含む)でします(151条1項・4項)。猶予中にした再度の合意にも猶予の効力がありますが、時効が完成するはずだった時から通じて5年を超えることはできません(同2項)。催告と協議の合意は、一方による猶予中にもう一方をしても、猶予の効力がありません(同3項)
完成猶予や更新の効力は、事由が生じた当事者とその承継人の間でだけ及びます(153条)。強制執行や仮差押えの手続を、時効の利益を受ける人に対してしないときは、その人に通知した後でなければ、148条・149条の効力は生じません(154条)。
そのほかの完成猶予(158条〜161条)
条文は、次の場合にも時効の完成を猶予します。
| 場面 | 猶予の内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 時効の期間の満了前6か月以内に、未成年者・成年被後見人に法定代理人がいない | 行為能力者となった時または法定代理人が就職した時から6か月を経過するまで | 158条1項 |
| 夫婦の一方が他方に対して有する権利 | 婚姻の解消の時から6か月を経過するまで | 159条 |
| 相続財産に関する権利 | 相続人が確定した時、管理人が選任された時、破産手続開始の決定があった時から6か月を経過するまで | 160条 |
| 時効の期間の満了の時に、天災などで147条1項・148条1項の手続を行えない | 障害が消滅した時から3か月を経過するまで | 161条 |
この論点の問題を解く
時効の援用と放棄(145条・146条)
時効は、期間が経過すれば自動的に効力が確定するのではありません。民法145条は、時効は当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない、としています。消滅時効の場合の「当事者」には、保証人、物上保証人、第三取得者その他、権利の消滅について正当な利益を有する者が含まれます。
一方、146条は、時効の利益はあらかじめ放棄することができない、としています。契約の時点で、時効を主張しないと約束させるような定めは、この条文と合いません。
行政書士試験での出題範囲との関係
民法は、行政書士試験の試験科目でもあります。行政書士試験研究センターの令和8年度の受験案内は、「行政書士の業務に関し必要な法令等」(出題数46題)について、次のように書いています。
行政書士試験の試験科目:「憲法、行政法(行政法の一般的な法理論、行政手続法、行政不服審査法、行政事件訴訟法、国家賠償法及び地方自治法を中心とする。)、民法、商法及び基礎法学の中からそれぞれ出題し」。令和8年度は、令和8年4月1日現在施行されている法令に関して出題。最終確認日:2026-10-07。出典:行政書士試験研究センター 令和8年度 受験案内。
このように、民法は宅建(権利関係)と行政書士のどちらの試験科目にも入っています。行政書士試験の民法の学び方は、行政書士の民法対策で扱っています。
宅建の時効の覚え方:3つの質問で整理する
条文の細部を覚える前に、問題文を読んだら次の3つを順に確かめます。
1. 取得なのか消滅なのか:取得時効なら、占有の態様(所有の意思・平穏・公然)と、占有開始時の善意無過失の有無で、10年か20年か。消滅時効なら、債権か、それ以外の財産権か
2. いつから数えるのか:占有の開始時(取得時効)か、権利を行使できると知った時と行使できる時(債権)か
3. 数え直しか、猶予か:裁判上の請求・強制執行・承認は、更新があり得る事由。催告・仮差押え・協議の合意は、猶予のみ
当サイトの宅建の問題は、過去の出題論点をもとに作成した論点別問題で、各問に初級・標準・上級の3段階の解説がついています。
まとめ
- 取得時効は、所有の意思・平穏・公然の占有が20年、占有開始時に善意無過失なら10年(162条)
- 債権の消滅時効は、知った時から5年、行使できる時から10年のどちらか早いほう(166条1項)。人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権は10年が20年になる(167条)
- 完成猶予は期間を数え直さず、更新は新たに進行を始める。催告は6か月の完成猶予だけ(150条)、承認は更新(152条)
- 時効は当事者が援用しなければ裁判所が裁判できず(145条)、時効の利益はあらかじめ放棄できない(146条)
- 民法は行政書士試験の試験科目でもあり、同じ条文を共通して学べる
本サイトは一般財団法人 不動産適正取引推進機構とは関係ありません。掲載している問題は、機構が公表する出題範囲を参照して合格ナビが作成した論点別問題です。条文は e-Gov 法令検索の民法を2026年10月7日に読んだものです。試験の出題の根拠となる法令は、試験を実施する年度の4月1日現在施行されているものです(不動産適正取引推進機構)。
よくある質問
Q債権の消滅時効は、結局何年で完成しますか?
民法166条1項は、債権者が権利を行使できると知った時から5年間行使しないとき、または権利を行使できる時から10年間行使しないときに、債権が時効によって消滅すると定めています。どちらか早く満了したほうで完成します。人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権は、同条1項2号の「10年間」が「20年間」になります(167条)。確定判決などで確定した権利は、もとの時効期間が10年より短くても10年になります(169条1項)。
Q内容証明などで催告をすれば、時効は更新されますか?
更新されません。民法150条1項は、催告があったときは、その時から6か月を経過するまでの間は時効は完成しない、と定めています。完成が6か月猶予されるだけで、時効期間が新たに数え直されるわけではありません。しかも、催告で猶予されている間にした再度の催告は、猶予の効力がありません(150条2項)。猶予の間に裁判上の請求などを行うかどうかが、次の分かれ目になります。
Q時効が完成する前に、「時効を主張しません」と約束しておくことはできますか?
できません。民法146条は、時効の利益はあらかじめ放棄することができない、と定めています。この条文が禁じているのは「あらかじめ」の放棄です。あわせて145条は、時効は当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない、としています。
Q時効の効力が「起算日にさかのぼる」とは、どういう意味ですか?
民法144条は「時効の効力は、その起算日にさかのぼる。」と定めています。時効が完成した時点から効力が始まるのではなく、数え始めた日(起算日)から効力があったものとして扱う、という意味です。取得時効なら、時効期間の起算日から所有権を取得していたものとして扱われます。
法令や試験の数字は、改正や年度で変わります。この記事の最終確認日は2026年10月7日です。申込みや合格基準は、必ず試験団体の公式情報で確かめてください。

