問題
ある日,精神科病院に勤務するA精神保健福祉士は,週明けに行われた担当病棟の看護部の申し送りで,3 か月前に入院した患者Bさん(30 代,男性)の祖父が亡くなったことを知った。Bさんは幼い時に両親が離婚し,その後は母親の実家で育てられ,祖父を大変慕っていた。先週末に母親から病棟スタッフへ電話があり「本来はBも葬儀に参列するべきであるが,祖父が亡くなったことへのショックや,慌ただしい葬儀への立会いの負担が病状に影響を与えるかもしれず,家族としても対応を決めかねている」とのことであった。そこで両者で検討の末,ようやく病状が落ち着いてきたBさんには,今は知らせずに葬儀を執り行うことを決定したとのことであった。申し送りでその報告を聞いたA精神保健福祉士は,家族の気持ちは理解できるものの,一連の対応に何か釈然としないものを感じた。 次のうち,Bさんに対する周囲の一連の対応を象徴するものとして,適切なものを1 つ選びなさい。
【出典】公益財団法人 社会福祉振興・試験センター「第28回精神保健福祉士国家試験(令和7年度)」専門科目 問題19(精神保健福祉の原理)
※問題文は同センター公表のものを改変せずに掲載しています。
※解説・補足は goukaku-navi.jp が独自に作成したもので、公益財団法人 社会福祉振興・試験センターとは一切関係ありません。
※本問は出題当時の法令・制度に基づいています。
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答え合わせ
- 1
- 2
- 3
- 4
- 5
自信の3択
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解説
※この解説は goukaku-navi.jp が独自に作成したもので、公益財団法人 社会福祉振興・試験センターとは一切関係ありません。
※出題当時の法令・制度に基づく問題です。現在の制度と異なる場合があります。
正解は 1
祖父の死をBさんに知らせず、葬儀への参列も本人に相談せずに決めたのは、家族と病院スタッフが「本人のため」と考えて、本人の意思を確かめずに決めた対応です。これを「パターナリズム」(父権主義・温情的干渉主義)といいます。
パターナリズムは、本人の利益を守るつもりで、本人に代わって物事を決めてしまうことです。善意から行われるため見落とされやすく、本人の自己決定の権利を損なうおそれがあります。A精神保健福祉士が「釈然としないもの」を感じたのはこのためです。
ほかの選択肢は、子どもへの不適切な養育、施設症、施設建設への地域の反対、依存症を周囲が支えてしまう関わり、を指す言葉です。
なぜ正解か
正解は 1。家族と病棟スタッフは、ショックや葬儀の負担が病状に影響することを心配し、「今は知らせずに葬儀を執り行う」と決めた。善意に基づいてはいるが、祖父を大変慕っていた成人のBさん本人に、知る機会も、参列するかどうかを考える機会も与えていない。本人の利益のためとして、本人の意思に関わりなく周囲が判断するのがパターナリズムである。
ほかの選択肢
- 2:マルトリートメントは、子どもに対する虐待やネグレクトを含む「不適切な養育」を広く指す言葉。本事例は成人への対応である。
- 3:インスティテューショナリズム(施設症)は、長期の施設・病院生活によって、意欲の低下や依存、生活技能の喪失などが生じる状態。入院3か月で生じた問題ではない。
- 4:施設コンフリクトは、障害者施設などの建設や開設に地域住民が反対し、対立が生じること。
- 5:イネイブリングは、依存症者の飲酒や薬物使用などの問題行動を、周囲が尻拭いなどによって結果的に支えてしまう関わり。
正解の根拠
正解は 1。パターナリズム(paternalism)は、本人の利益や保護を理由として、本人の意思に反して、あるいは本人の意思を確かめないまま、他者がその人の行動や選択に介入することをいう。父親が子どもに代わって判断する姿になぞらえた言葉である。
事例では、家族(母親)と病棟スタッフが「ショックや葬儀への立会いの負担が病状に影響するかもしれない」と考え、検討の末に「今は知らせずに葬儀を執り行う」と決めた。病状への配慮という善意からの判断だが、(1) 成人であるBさん本人に事実を知る機会がない、(2) 参列するか、どのように別れを告げるかを本人が選べない、(3) 後に事実を知ったとき、自分だけが外されたと感じ、家族や病院への信頼が損なわれるおそれがある、という問題を含む。A精神保健福祉士の「釈然としないもの」は、自己決定の尊重という価値に照らした違和感であり、ソーシャルワーカーとしての倫理的感受性といえる。
誤りの肢の論点
- 2 マルトリートメント:身体的・心理的・性的虐待やネグレクトに加え、それに至らない不適切な関わりも含む広い概念で、主に子どもへの養育について使われる。
- 3 インスティテューショナリズム:長期入院・入所によって生じる二次的な障害を指す。ウイング(Wing, J.)らが精神科病院の長期入院者について論じたことで知られる。本事例は入院期間も問題の性質も合わない。
- 4 施設コンフリクト:精神障害者の施設やグループホームの建設をめぐる地域住民との対立。スティグマや偏見が背景にあることが多い。
- 5 イネイブリング:依存症の家族支援でよく出る概念で、問題行動の後始末を周囲が引き受け続けることで、本人が問題に直面する機会を失わせてしまう関わりを指す。
実務での考え方
病状への配慮が必要な場面でも、伝えないことを周囲だけで決めるのではなく、主治医と相談しながら、いつ・誰が・どのように伝えるか、本人がどう参加できるか(参列、後日の墓参、写真や手紙で別れを告げるなど)を考える道がある。A精神保健福祉士に求められるのは、家族の気持ちを受け止めたうえで、本人の知る権利と自己決定の機会をチーム内で問い直すことである。
関連論点
パターナリズムの対になる概念は自己決定(自律の尊重)である。インフォームド・コンセントや意思決定支援も、本人の意思を中心に据えるという同じ流れの中で問われる。
出典と作り方
本問は公益財団法人 社会福祉振興・試験センターが公表した「第28回精神保健福祉士国家試験(令和7年度)」専門科目 問題19(精神保健福祉の原理)です。同センターの「過去問題利用にあたっての留意事項等」(https://www.sssc.or.jp/pastissues/index.html)に従い、問題文は文言を変えずに掲載しています(PDFの折り返しによる改行位置の違いのみ。原文にふりがなが付いている語は、ふりがなも付けています)。 原本は同センターの「過去の試験問題」でご確認ください。
解説・補足は合格ナビ(goukaku-navi.jp)が独自に作成したもので、公益財団法人 社会福祉振興・試験センターとは一切関係ありません。 本問は出題当時の法令・制度に基づいています。精神保健福祉に関する法令・制度は改正されるため、現在の制度と異なる場合があります。最新の内容は厚生労働省などの公的な情報でご確認ください。
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