不動産鑑定評価基準(国土交通省)の中身を、宅建の「価格の評定」向けに整理します。正常価格、原価法・取引事例比較法・収益還元法の三手法と積算価格・比準価格・収益価格、試算価格の調整、公示価格を規準とする地価公示法8条・11条との関係を、基準と条文で確認します。
目次
結論:不動産の鑑定評価は、不動産鑑定士が不動産の経済価値を判定し、貨幣額で表示することで、その統一的な基準が国土交通省の不動産鑑定評価基準です。価格を求める基本的な手法は原価法・取引事例比較法・収益還元法の三つで、求めた価格をそれぞれ積算価格・比準価格・収益価格といいます。複数の試算価格を調整して鑑定評価額を決め、公示区域内で土地の正常な価格を求めるときは公示価格を規準としなければなりません(地価公示法8条、基準総論第8章第9節)。宅建の「税・その他」では、価格の評定として出る分野です。
この記事は、国土交通省が公表している不動産鑑定評価基準(「鑑定評価基準等」のページからリンクされているPDF)と、e-Govの地価公示法を読んで、価格の評定の部分を整理したものです。基準の文は、一部を要約して書いています。個別の不動産の価格や、鑑定評価を依頼する場合の助言はしません。
不動産の鑑定評価とは、何をすることか
基準は、不動産の鑑定評価を、対象である不動産の経済価値を判定し、これを貨幣額をもって表示することだと書いています(総論第1章第3節)。そのうえで、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格を、不動産鑑定士が的確に把握する作業に代表される、専門家の判断であり、意見である、としています。
国土交通省のページは、この基準を「不動産鑑定士が不動産の鑑定評価を行うに当たっての統一的基準」と説明しています。PDFの表紙には、平成14年7月3日全部改正、平成19年4月2日・平成21年8月28日・平成26年5月1日一部改正、と書かれています。国土交通省のページには改正年月日の記載がなく、リンクされているPDFの表紙に書かれている最後の改正は平成26年5月1日です(2026-10-21 時点)。
不動産鑑定評価基準の版:国土交通省のページからリンクされているPDFの表紙は、平成14年7月3日全部改正、平成26年5月1日一部改正まで。最終確認日:2026-10-21。出典:国土交通省 鑑定評価基準等・不動産鑑定評価基準(PDF)。
鑑定評価で求める価格の種類:正常価格
基準は、鑑定評価によって求める価格は基本的には正常価格であり、依頼目的に対応した条件により限定価格、特定価格又は特殊価格を求める場合がある、と書いています(総論第5章第3節Ⅰ)。
正常価格の定義は、市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格です。基準は、その市場の条件として、次の3つを挙げています。
| 条件 | 内容(要約) |
|---|---|
| (1) | 市場参加者が自由意思に基づいて市場に参加し、参入・退出が自由であること。市場参加者には、売り急ぎ・買い進み等をもたらす特別な動機がないこと、通常の知識や情報を得ていること、通常必要と認められる労力・費用を費やしていること、対象不動産の最有効使用を前提とした価値判断を行うこと、買主が通常の資金調達能力を有していること、という要件がある |
| (2) | 取引形態が、市場参加者が制約されたり、売り急ぎ、買い進み等を誘引したりするような特別なものではないこと |
| (3) | 対象不動産が相当の期間市場に公開されていること |
正常価格のほかに、基準は限定価格(併合や分割等に基づいて市場が相対的に限定される場合の価格)や特定価格(法令等による社会的要請を背景とする鑑定評価目的の下で、正常価格の前提となる条件を満たさない場合の価格)を定めています。ここでは正常価格だけを押さえます。
三方式と三手法の対応
基準の総論第7章は、鑑定評価の方式に、原価方式、比較方式及び収益方式の三方式があると書いています。
| 方式 | 着目するもの | 価格を求める手法 | 手法で求めた価格 |
|---|---|---|---|
| 原価方式 | 不動産の再調達(建築、造成等による新規の調達)に要する原価 | 原価法 | 積算価格 |
| 比較方式 | 不動産の取引事例又は賃貸借等の事例 | 取引事例比較法 | 比準価格 |
| 収益方式 | 不動産から生み出される収益 | 収益還元法 | 収益価格 |
方式は、価格を求める手法と賃料を求める手法に分類され、それぞれの手法の適用で求められた価格又は賃料を試算価格又は試算賃料といいます。賃料を求める手法は第2節にあり、この記事では扱いません。価格を求める基本的な手法は、原価法、取引事例比較法及び収益還元法に大別され、このほかこれら三手法の考え方を活用した開発法等の手法があります(第1節)。
原価法:再調達原価から減価修正する
原価法は、価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、この再調達原価について減価修正を行って対象不動産の試算価格を求める手法です。この手法による試算価格を積算価格といいます(総論第7章第1節Ⅱ)。
- 再調達原価は、対象不動産を価格時点において再調達することを想定した場合に必要とされる適正な原価の総額です。建設資材、工法等の変遷により求めることが困難な場合は、同等の有用性を持つものに置き換えて求めた原価(置換原価)を再調達原価とみなします
- 減価修正の目的は、減価の要因に基づき発生した減価額を再調達原価から控除して、価格時点における適正な積算価格を求めることです。減価の要因は、物理的要因、機能的要因及び経済的要因に分けられます
- 原価法は、建物又は建物及びその敷地である場合に、再調達原価の把握及び減価修正を適切に行うことができるときに有効です。土地のみの場合でも、再調達原価を適切に求めることができるときは適用できます
計算の考え方(当サイトの例):再調達原価が3,000万円で、減価額が900万円と求められた場合、積算価格は3,000万円−900万円=2,100万円です。検算:2,100万円+900万円=3,000万円。
取引事例比較法:事例から比準する
取引事例比較法は、まず多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る取引価格に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた価格を比較考量し、これによって対象不動産の試算価格を求める手法です。この手法による試算価格を比準価格といいます(総論第7章第1節Ⅲ)。
取引事例は、原則として近隣地域又は同一需給圏内の類似地域に存する不動産に係るものから選択するものとし、次の要件の全部を備えなければなりません。
1. 取引事情が正常なものと認められるものであること、又は正常なものに補正することができるものであること
2. 時点修正をすることが可能なものであること
3. 地域要因の比較及び個別的要因の比較が可能なものであること
取引事例が特殊な事情を含み、これが取引価格に影響していると認められるときは適切な補正を行い(事情補正)、取引の時点が価格時点と異なることにより、その間に価格水準の変動があると認められるときは、価格時点の価格に修正します(時点修正)。
収益還元法:将来の純収益の現在価値
収益還元法は、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより対象不動産の試算価格を求める手法です。この手法による試算価格を収益価格といいます(総論第7章第1節Ⅳ)。賃貸用不動産又は賃貸以外の事業の用に供する不動産の価格を求める場合に特に有効で、文化財の指定を受けた建造物等の一般的に市場性を有しない不動産以外のものには基本的にすべて適用すべきものとされ、自用の不動産といえども賃貸を想定することにより適用されます。
収益価格を求める方法は2つです。
| 方法 | 内容 | 式 |
|---|---|---|
| 直接還元法 | 一期間の純収益を還元利回りによって還元する | P=a÷R(P:収益価格、a:一期間の純収益、R:還元利回り) |
| DCF法 | 連続する複数の期間に発生する純収益及び復帰価格を、その発生時期に応じて現在価値に割り引き、それぞれを合計する | 毎期の純収益と復帰価格を割引率Yで割り引いて合計 |
計算の考え方(当サイトの例):一期間の純収益aが240万円、還元利回りRが4%の場合、直接還元法の収益価格は240万円÷0.04=6,000万円です。検算:6,000万円×4%=240万円。
試算価格の調整と、鑑定評価額の決定
基準の総論第8章は、鑑定評価の手順を述べています。手法の適用(第7節)では、地域分析及び個別分析により把握した対象不動産に係る市場の特性等を適切に反映した複数の鑑定評価の手法を適用すべきだとされています。
第8節の「試算価格又は試算賃料の調整」は、複数の手法により求められた各試算価格の再吟味及び各試算価格が有する説得力に係る判断を行い、鑑定評価における最終判断である鑑定評価額の決定に導く作業をいいます。調整では、鑑定評価の手順の各段階を客観的、批判的に再吟味し、各試算価格が有する説得力の違いを適切に反映することによりこれを行う、とされています。
第9節の「鑑定評価額の決定」は、第1節から第8節で述べた手順を十分に尽した後、専門職業家としての良心に従い適正と判断される鑑定評価額を決定すべきである、と書いています。この場合に、地価公示法施行規則1条1項に規定する国土交通大臣が定める公示区域において土地の正常価格を求めるときは、公示価格を規準としなければならない、と書いています。
地価公示法:標準地と公示価格、そして「規準とする」
地価公示法は、都市及びその周辺の地域等において、標準地を選定し、その正常な価格を公示することにより、一般の土地の取引価格に対して指標を与え、及び公共の利益となる事業の用に供する土地に対する適正な補償金の額の算定等に資し、もって適正な地価の形成に寄与することを目的としています(1条)。
| 条文 | 内容 |
|---|---|
| 2条1項 | 土地鑑定委員会が、公示区域内の標準地について、毎年一回、二人以上の不動産鑑定士の鑑定評価を求め、その結果を審査し、必要な調整を行って、一定の基準日における標準地の単位面積当たりの正常な価格を判定し、公示する |
| 2条2項 | 「正常な価格」とは、土地について、自由な取引が行われるとした場合の取引(農地・採草放牧地・森林の取引は除く。ただし、それ以外のものとするための取引は除かれない)において通常成立すると認められる価格。建物その他の定着物や地上権などの権利が存する場合は、それらが存しないものとして通常成立すると認められる価格 |
| 4条 | 不動産鑑定士は、標準地の鑑定評価を行うにあたって、近傍類地の取引価格から算定される推定の価格、近傍類地の地代等から算定される推定の価格及び同等の効用を有する土地の造成に要する推定の費用の額を勘案して行わなければならない |
| 6条 | 土地鑑定委員会は、標準地の価格を判定したときは、すみやかに、所在・単位面積当たりの価格及び基準日などを官報で公示する |
| 8条 | 不動産鑑定士は、公示区域内の土地について鑑定評価を行う場合において、その土地の正常な価格を求めるときは、公示された標準地の価格(公示価格)を規準としなければならない |
| 11条 | 公示価格を規準とするとは、対象土地と類似する利用価値を有すると認められる標準地との位置、地積、環境等の土地の客観的価値に作用する諸要因についての比較を行い、その結果に基づき、標準地の公示価格と対象土地の価格との間に均衡を保たせること |
4条の3つの勘案事項は、当サイトの整理では、基準の比較方式(取引価格)・収益方式(地代等)・原価方式(造成費)に対応して見えますが、4条の文言は「近傍類地の取引価格から算定される推定の価格」などで、手法の名前は書かれていません。具体的な方法は国土交通省令で定めるところによります(4条)。条文の言葉と基準の言葉は、別に読みます。
令和8年度の宅建試験との関係
不動産適正取引推進機構(RETIO)が公表している問題冊子では、令和5年度・令和6年度・令和7年度の問25が、いずれも「不動産鑑定評価基準によれば」の語を含む、鑑定評価の問題でした(問題文はここに載せません)。令和5年度は「正しいもの」、令和6年度・令和7年度は「誤っているもの」を選ぶ形式でした。年度によって、聞かれる用語は違います。
機構は、出題の根拠となる法令を、試験を実施する年度の4月1日現在施行されているものとしています(宅建試験の概要)。基準は法令ではなく国土交通省の基準ですが、問題が「不動産鑑定評価基準によれば」と書いている以上、この記事で読んだ基準の文が根拠になります。最新の版は、必ず国土交通省のページで確かめてください。
令和8年度宅建試験の法令の基準日:出題の根拠となる法令は、試験年度の4月1日現在施行されているもの(令和8年度は令和8年4月1日)。最終確認日:2026-10-21。出典:不動産適正取引推進機構 宅建試験の概要。
まとめ
- 不動産の鑑定評価は、不動産の経済価値を判定して貨幣額で表示すること。統一的な基準が、国土交通省の不動産鑑定評価基準(PDF表紙の最後の改正は平成26年5月1日)
- 鑑定評価で求める価格は基本的には正常価格。市場性を有する不動産について、合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格
- 価格を求める基本的な手法は、原価法(積算価格)・取引事例比較法(比準価格)・収益還元法(収益価格)。このほか三手法の考え方を活用した開発法等がある
- 複数の試算価格は、再吟味と説得力の判断を経て調整し、鑑定評価額を決める。公示区域内で土地の正常価格を求めるときは公示価格を規準とする
- 地価公示法8条が公示価格を規準とする義務を、11条がその意味(比較して均衡を保たせること)を定めている。地価公示法の「正常な価格」と基準の「正常価格」は、別の文書の別の言葉
本サイトは一般財団法人 不動産適正取引推進機構とは関係ありません。掲載している問題は、過去の出題論点をもとに合格ナビが作成した論点別問題で、公式の試験問題ではありません。条文と基準は、必ず e-Gov 法令検索と国土交通省の最新の内容で確認してください。この記事は一般的な制度の説明であり、個別の不動産の価格についての助言ではありません。
参照した一次ソース
- 国土交通省 不動産鑑定評価基準(総論第1章第3節、第5章第3節、第7章第1節、第8章第7節〜第9節)
- 国土交通省 鑑定評価基準等のページ
- e-Gov法令検索 地価公示法(1条・2条・4条・6条・8条・11条)
- 不動産適正取引推進機構 宅建試験の概要・公表されている問題冊子(令和5年度〜令和7年度の問25)
よくある質問
Q不動産の鑑定評価の「三手法」とは、何と何ですか?
不動産鑑定評価基準は、価格を求める鑑定評価の基本的な手法を、原価法、取引事例比較法及び収益還元法に大別し、このほか三手法の考え方を活用した開発法等の手法がある、と書いています(総論第7章第1節)。それぞれの手法で求めた価格を、試算価格といいます。
Q積算価格・比準価格・収益価格は、それぞれどの手法で求める価格ですか?
基準は、原価法による試算価格を積算価格、取引事例比較法による試算価格を比準価格、収益還元法による試算価格を収益価格と呼んでいます(総論第7章第1節のⅡ・Ⅲ・Ⅳ)。
Q原価法は、土地だけの不動産には使えないのですか?
基準は、原価法は対象不動産が建物又は建物及びその敷地である場合に、再調達原価の把握及び減価修正を適切に行うことができるときに有効であり、対象不動産が土地のみである場合においても、再調達原価を適切に求めることができるときはこの手法を適用することができる、と書いています(総論第7章第1節Ⅱ1.)。
Q公示価格と、不動産鑑定士の鑑定評価額は、どういう関係ですか?
地価公示法8条は、不動産鑑定士は、公示区域内の土地について鑑定評価を行う場合において、その土地の正常な価格を求めるときは、公示価格を規準としなければならない、と書いています。「規準とする」の意味は11条が定めており、対象土地と類似する利用価値を有すると認められる標準地との位置、地積、環境等の客観的価値に作用する諸要因を比較し、その結果に基づき、標準地の公示価格と対象土地の価格との間に均衡を保たせることです。
Q地価公示法の「正常な価格」と、鑑定評価基準の「正常価格」は同じ言葉ですか?
言葉が違います。地価公示法2条2項の「正常な価格」は、土地について自由な取引が行われるとした場合の取引(農地・採草放牧地・森林の取引は除く。ただし、それ以外のものとするための取引は除かれない)において通常成立すると認められる価格(建物などの定着物や地上権などがある場合は、それらが存しないものとして通常成立すると認められる価格)です。基準の「正常価格」は、市場性を有する不動産について、合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格です(総論第5章第3節Ⅰ1.)。2つの定義は別の文書に別の文言で書かれているので、条文と基準のどちらの話かを区別して読みます。
法令や試験の数字は、改正や年度で変わります。この記事の最終確認日は2026年10月21日です。申込みや合格基準は、必ず試験団体の公式情報で確かめてください。

