力率改善とは何をすることか、なぜ電流と損失が減るのかを、有効・無効・皮相電力の関係から順に説明します。必要なコンデンサ容量の求め方を2通りで検算し、電気技術者試験センターが公表した第一種電気工事士の問題で確認します。
目次
結論:力率改善とは、モーターなどの「遅れ」の無効電力を、進相コンデンサの「進み」の無効電力で打ち消して、力率を1に近づけることです。有効電力は変わらず、必要な電流が小さくなるので、電線や変圧器の損失が減ります。必要なコンデンサ容量は、有効電力をP、改善前・改善後の力率角をθ1・θ2として、Qc=P(tanθ1−tanθ2)で求めます。
第一種電気工事士の学科試験では、力率改善は「コンデンサの容量を求める計算」として繰り返し出ています。合格ナビの第一種電気工事士の問題データ(平成30年度〜令和7年度の学科試験から261問、2026-10-04集計)のうち、問題文か選択肢に「力率」または「進相コンデンサ」を含む問題は26問で、そのうち必要なコンデンサ容量を求める計算問題は4問です。
| 用語 | 記号・単位 | 意味 |
|---|---|---|
| 有効電力 | P[kW] | 熱や動力など、実際に仕事をする電力 |
| 無効電力 | Q[kvar] | 電動機などが磁界をつくるために電源と往復する電力。仕事はしない |
| 皮相電力 | S[kV・A] | 電圧と電流の積。電線や変圧器が流す必要のある容量 |
| 力率 | cosθ | P÷S。1に近いほど無駄な電流が少ない |
力率とは:有効電力・無効電力・皮相電力の関係
交流回路では、電流が電圧に対して遅れたり進んだりします。このずれの角度を力率角θと呼び、cosθを力率といいます。3つの電力は直角三角形の3辺の関係にあります。
- S²=P²+Q²(皮相電力の2乗は、有効電力の2乗と無効電力の2乗の和)
- 力率 cosθ=P÷S
- 無効率 sinθ=Q÷S、tanθ=Q÷P
たとえば P=150kW、力率0.8(遅れ)の負荷では、S=150÷0.8=187.5kV・A、Q=√(187.5²−150²)=112.5kvar です。tanθ=112.5÷150=0.75 とも一致します。
電動機や変圧器のような誘導性の負荷は、電流が電圧より遅れます。これを「遅れ力率」と呼び、受電設備の負荷はほとんどこの形です。
力率改善とは:遅れの無効電力を進みの無効電力で打ち消す
コンデンサは、電流が電圧より進む(進み無効電力を出す)部品です。負荷と並列に進相コンデンサを入れると、負荷が必要とする遅れ無効電力の一部を、電源側から運ぶ代わりにコンデンサが受け持ちます。
ベクトルで見ると、次のようになります。
- ①有効電流(電圧と同じ向き)は変わらない
- ②遅れ無効電流(電圧より90°遅れた向き)が、コンデンサの進み電流(90°進んだ向き)の分だけ小さくなる
- ③合成した電流は、短くなり、電圧との角度(力率角θ)も小さくなる
| 項目 | 改善前(P=150kW) | 改善後(Qc=63.2kvarを接続) |
|---|---|---|
| 有効電力 P | 150kW | 150kW(変わらない) |
| 無効電力 Q | 112.5kvar | 49.3kvar |
| 皮相電力 S | 187.5kV・A | 157.9kV・A |
| 力率 | 0.80 | 0.95 |
数字の出し方は、後の「容量の求め方」で説明します。
なぜ力率を改善するのか:電流が減り、損失が減る
三相の電線を流れる電流は、I=P÷(√3×V×cosθ)で表せます。有効電力Pと電圧Vが同じなら、電流は力率に反比例します。
P=150kW、線間電圧6,600Vで計算します。
- 力率0.8:I=150,000÷(√3×6,600×0.8)=16.4A
- 力率0.95:I=150,000÷(√3×6,600×0.95)=13.8A
電流の比は 13.8÷16.4=0.842 で、力率の比 0.8÷0.95=0.842 と一致します(検算)。
電線の抵抗で失われる電力(線路損失)は、1線の抵抗をrとすると 3I²r なので、電流の2乗に比例します。損失の比は(0.8÷0.95)²=0.709 で、約29%減ります。変圧器や電線が流す電流が小さくなるので、同じ設備でより多くの有効電力を送れる余裕も生まれます。
電気料金の力率による割引・割増は、電力会社の供給約款で基準が決まっています。契約先の約款で確認してください。
コンデンサ容量の求め方:Qc=P(tanθ1−tanθ2)
必要な容量は、「改善前の無効電力」から「改善後に残す無効電力」を引いた差です。
- 改善前の無効電力 Q1=P×tanθ1
- 改善後の無効電力 Q2=P×tanθ2
- コンデンサ容量 Qc=Q1−Q2=P(tanθ1−tanθ2)
例題:150kWの負荷の力率を0.8から0.95に改善する
- ①改善前:cosθ1=0.8 なので sinθ1=0.6、tanθ1=0.6÷0.8=0.75
- ②改善後:cosθ2=0.95 なので sinθ2=√(1−0.95²)=√0.0975=0.3122、tanθ2=0.3122÷0.95=0.3287
- ③容量:Qc=150×(0.75−0.3287)=63.2kvar
検算1(皮相電力から):改善前 S1=150÷0.8=187.5、Q1=√(187.5²−150²)=112.5。改善後 S2=150÷0.95=157.9、Q2=√(157.9²−150²)=49.3。差は 112.5−49.3=63.2kvar で一致します。
検算2(逆算):63.2kvarを接続すると無効電力は 112.5−63.2=49.3kvar になり、力率は 150÷√(150²+49.3²)=0.950 に戻ります。
本番では tanθの値が問題文に与えられることが多いので、公式に代入するだけです。
この論点の問題を解く
公式の問題で確認:電力損失を最小にするコンデンサの容量
電気技術者試験センターが公表した令和6年度上期 学科試験(出題例)の問7を、図を除いて引用します。
図のように三相電源から,三相負荷(定格電圧200 V,定格消費電力20 kW,遅れ力率0.8)に電気を供給している配電線路がある。配電線路の電力損失を最小とするために必要なコンデンサの容量[kvar]の値は。ただし,電源電圧及び負荷インピーダンスは一定とし,配電線路の抵抗は1線当たり0.1 Ωで,配電線路のリアクタンスは無視できるものとする。イ.10 ロ.15 ハ.20 ニ.25
出典:令和6年度上期 第一種電気工事士 学科試験(出題例) 問7(一般財団法人 電気技術者試験センター)。問題PDF、解答PDF(図は公式PDFを参照)。
解き方:線路損失は電流の2乗に比例するので、損失が最小になるのは電流が最小のとき、つまり力率が1のときです。力率1にするには、負荷の無効電力をすべてコンデンサで打ち消します。
- 負荷の無効電力:Q=P×tanθ=20×0.75=15kvar(tanθ=0.6÷0.8=0.75)
- 必要なコンデンサ容量:Qc=15kvar → 正答は ロ(公式の解答も ロ)
検算(損失で確かめる):コンデンサ接続前の線電流は 20,000÷(√3×200×0.8)=72.2A、損失は 3×72.2²×0.1=1,562.5W。接続後(力率1)は 20,000÷(√3×200)=57.7A、損失は 3×57.7²×0.1=1,000W です。損失の比 1,000÷1,562.5=0.64 は、力率の2乗 0.8²=0.64 と一致します。
当サイトの問48(出典:令和3年度(午後) 問7)にも、同じ内容の問題があります。
力率の値を読み取る問題と、平均力率の求め方
力率改善の前に、力率そのものを求める問題も出ます。抵抗とリアクタンスを並列につないだ交流回路では、抵抗を流れる電流が有効電流、リアクタンスを流れる電流が無効電流で、力率=有効電流÷回路電流です。
- 電源電圧120V、抵抗8Ω、リアクタンス15Ω、回路電流17Aの並列回路:有効電流 120÷8=15A、無効電流 120÷15=8A、力率=15÷17=0.88(88%)。検算:√(15²+8²)=17A で回路電流と一致します。
- 電源電圧200V、抵抗20Ω、回路電流20Aの並列回路:有効電流 200÷20=10A、力率=10÷20=0.5(50%)。
受電設備の平均力率は、一定期間の有効電力量(kWh)と無効電力量(kvarh)から求めます。公式の問題(令和7年度下期 問36)では、電力量計と無効電力量計の組合せが正答です(問題、解答)。
配線図の問題:直列リアクトルと進相コンデンサ
公表された第一種の配線図の問題では、高圧進相コンデンサに直列リアクトルを組み合わせた単線結線図が出ています。直列リアクトルの役割とリアクタンスの値について、電気技術者試験センターの公表問題から確認できる点は次のとおりです。
- 令和6年度下期 問49「⑨で示す機器の役割として,誤っているものは。」の選択肢は、イ「コンデンサ回路の突入電流を抑制する。」ロ「電圧波形のひずみを改善する。」ハ「第5調波等の高調波障害の拡大を防止する。」ニ「コンデンサの残留電荷を放電する。」で、正答はニです。図の⑨は進相コンデンサと直列に入るコイルの記号で、直列リアクトルです。つまり、突入電流の抑制・波形ひずみの改善・第5調波の障害拡大の防止は直列リアクトルの役割で、残留電荷の放電は役割ではありません。出典:令和6年度下期 問題、解答。
- 令和7年度上期(出題例)問49「⑨で示す直列リアクトルのリアクタンスとして,適切なものは。」の正答は、ロ「コンデンサリアクタンスの6%」です。出典:問題、解答。
直列リアクトルを入れた回路の無効電力(設備容量)は、コンデンサのリアクタンスをXC、リアクトルのリアクタンスをXLとすると、回路の正味のリアクタンスが XC−XL になるので、Q=V²÷(XC−XL)で表せます。XC=150Ω、XL=9Ωなら、XC−XL=141Ω なので V²÷141 です(検算:回路電流 I=V÷141、Q=V×I)。
自分で解く:60kWの負荷の力率を0.7から0.9に改善する
有効電力60kW、遅れ力率0.7の負荷に進相コンデンサを接続して、力率を0.9にするには、何kvarのコンデンサが必要でしょうか(独自の練習問題です)。
- ヒント:tanθ1=√(1−0.7²)÷0.7=1.020、tanθ2=√(1−0.9²)÷0.9=0.484
- 答え:Qc=60×(1.020−0.484)=約32kvar
- 検算:S1=60÷0.7=85.7、Q1=61.2。S2=60÷0.9=66.7、Q2=29.1。61.2−29.1=32.1kvar で一致します。
問題演習につなげる
力率改善は、第一種の学科で「配電理論及び配線設計」「電気の基礎理論」「電気機器」の計算として出ます。コンデンサ容量の公式 Qc=P(tanθ1−tanθ2)と、「力率1のときに電流・損失が最小になる」の2点を押さえると、公式の問題の多くに対応できます。高圧受電設備の機器の役割や電圧降下の公式は、高圧工事攻略法で整理しています。
試験センター非提携:本サイトは電気技術者試験センターと一切関係ありません。本サイトの問題は、電気技術者試験センターが公表した過去の試験問題(各問に出典を明記)で構成しています。
よくある質問
Q力率を1より大きくすることはできますか?
力率は有効電力を皮相電力で割った値で、有効電力が皮相電力を上回ることはないため、1を超えません。コンデンサを付けすぎて無効電力が逆向きに残ると、力率は1から下がり、今度は「進み」力率になります。この状態を過補償と呼ぶことがあります。必要な容量は、負荷の遅れ無効電力ちょうどが目安です。
Q力率を改善すると、有効電力(消費電力)も減りますか?
減りません。コンデンサが打ち消すのは無効電力で、負荷が仕事をする有効電力は同じです。変わるのは、同じ有効電力を送るのに必要な電流です。電流が小さくなる分、電線の抵抗で失われる電力(線路損失)が減ります。
Q需要家の月間の平均力率は、どの計器の値から求めますか?
Q直列リアクトルのリアクタンスは、コンデンサの何%ですか?
電気技術者試験センターが公表した令和7年度上期(出題例)の問49は、「⑨で示す直列リアクトルのリアクタンスとして,適切なものは。」で、正答は「コンデンサリアクタンスの6%」です。出典:令和7年度上期 学科試験(出題例)、解答。
法令や試験の数字は、改正や年度で変わります。この記事の最終確認日は2026年10月4日です。申込みや合格基準は、必ず試験団体の公式情報で確かめてください。
