問題
マクロ経済スライドに関する次のア〜オの記述のうち、正しいものはどれか。
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答え合わせ
- ア
- イ
- ウ
- エ
- オ
自信の3択
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解説
正答はウです。
マクロ経済スライドでは、スライド調整後の年金の名目額が前年度を下回らないようにする「名目下限」のルールが設けられています(国民年金法第27条の4第1項の「当該率が一を下回るときは、一」)。物価・賃金の伸びが小さい局面ではスライド調整の全額を吸収できない場合があり、その場合は調整しきれなかった分を「特別調整率」として翌年度以降に繰り越す「キャリーオーバー」が働きます(同条第1項・第3項)。
アは誤りで、賃金が下落する年度はスライド調整を行いません(同条第2項)。オは誤りで、調整期間の終了年度は政令で定めます(第16条の2第2項)。
エは誤りで、令和8年度はマクロ経済スライドが発動されており、名目賃金変動率+2.1%からスライド調整率0.2%を差し引いた+1.9%が改定率(1.9%)となっています。
マクロ経済スライドの仕組みと令和8年度の実際(必須整理):
| 要素 | 内容 | 令和8年度の値 |
|---|---|---|
| 名目賃金変動率 | 実際の賃金の変動率 | +2.1% |
| スライド調整率 | 被保険者数変動×平均余命の延び | -0.2% |
| 改定率(実際の改定幅) | 名目賃金変動率+スライド調整率 | +1.9%(=1.9%) |
| 名目下限ルール | 名目額が前年度を下回らない | 適用(+1.9%で名目増のため名目下限発動せず) |
| キャリーオーバー(特別調整率) | 名目下限で調整できなかった分を翌年度以降に繰越 | 未調整分の有無は厚労省の改定資料で確認 |
各選択肢の解説:
- ア(誤): 第27条の4第2項は「名目手取り賃金変動率が一を下回る場合の調整期間における改定率の改定については、…名目手取り賃金変動率を基準とする」と定めています。賃金が下落する年度は下落分だけ改定し、スライド調整でさらに引き下げることはしません(調整できなかった分は特別調整率として繰り越されます)。「必ず適用される」は誤りです。
- イ(誤): キャリーオーバーは「特別調整率」として制度化されています(第27条の4第1項・第3項)。「できない」は誤りです。
- ウ(正): 名目下限(第27条の4第1項の「当該率が一を下回るときは、一」)と、調整しきれなかった分を翌年度以降に繰り越す特別調整率(同条第3項)の組み合わせを正確に記述しています。
- エ(誤): 令和8年度はマクロ経済スライドが発動されており(1.9%参照)、名目賃金変動率+2.1%からスライド調整率0.2%を差し引いた+1.9%が改定率です。「発動されなかった」は明白な誤りです(hot_topic論点)。
- オ(誤): 第16条の2第2項は「財政の現況及び見通しにおいて、前項の調整を行う必要がなくなつたと認められるときは、政令で、調整期間の終了年度を定める」と定めています。調整期間は財政検証(財政の現況及び見通し)を経て政令で終了年度を定める仕組みで、調整期間中の財政検証では終了年度の見通しも作成・公表します(同条第3項)。「自動的に終了」「政令で定められることはない」は誤りです。
【マクロ経済スライドの導入経緯と制度設計の論理】
マクロ経済スライドは2004年(平成16年)の年金制度大改正で導入されました。それ以前は「物価スライド制」として、物価が上昇すれば年金額も同率で上昇する仕組みでしたが、少子高齢化の進行で「現役世代が減りながら受給者が増える」という構造的な財政圧力に対応できなくなりました。
制度設計の核心は「給付水準の自動調整機能」です。具体的には:
1. スライド調整率の算定式: 第27条の4第1項は、調整率を「公的年金被保険者総数の比率の三乗根となる率」(第1号・負担する人の増減)×「〇・九九七」(第2号・平均余命の伸びを勘案した一定率)と定めています(1を上回るときは1)。令和8年度のスライド調整率は-0.2%です。
2. 名目下限(Nominal Floor)の意義: 日本の法制では、名目額がマイナスになること(前年より年金が減ること)は政治的・社会的に困難です。このため「名目額は前年度を下回らない」という名目下限が設けられています。これにより、物価や賃金がほとんど上昇しないデフレ・低インフレ局面では、スライド調整の全量を吸収できない年が生じます。
3. キャリーオーバーの機能: 名目下限によって「今年調整しきれなかった分」は切り捨てにならず、「特別調整率」として翌年度以降の改定率から差し引く形で繰り越されます(キャリーオーバー)。これにより「本来あるべきスライド調整」が遅延して実施されます。条文上は「平成二十九年度における特別調整率は、一とする」(第27条の4第3項第1号)とされ、特別調整率は毎年度、名目手取り賃金変動率×調整率を算出率で除した率を基準に改定されます(同項第2号)。つまりキャリーオーバーは平成29年度を起点に、それ以後の年度で働く仕組みです。
【令和8年度マクロ経済スライド発動の具体的計算】
令和8年度(2026年度)のスライドは以下の計算で発動されました:
- 名目賃金変動率: +2.1%(実質賃金+物価変動の合成)
- スライド調整率: -0.2%
- 改定率: +2.1% + (-0.2%) = +1.9%(1.9%)
- 老齢基礎年金満額(S31.4.2以後): 69,308円(令和7年度)×1.019 = 70,608円(令和8年度)
令和8年度は賃金の上昇局面のため名目下限は働かず、スライド調整率がそのまま差し引かれた「教科書通りの発動」です。受験生が混乱しやすいのは「マクロ経済スライド=年金が減る」という誤解で、実際には「賃金上昇分をフルには反映させない(削減幅を小さくする)」制度です。
【政策議論:30年後の所得代替率と「モデル年金」の将来像】
マクロ経済スライドの調整期間中、将来の所得代替率(現役世代の平均手取り収入に対するモデル年金の割合)がどう推移するかが政策上の重大論点です。政府は財政の現況及び見通し(財政検証)を作成するとき、調整期間の終了年度の見通しもあわせて作成・公表しなければなりません(第16条の2第3項)。所得代替率や調整終了年度の具体的な見通しの数値は、厚生労働省が公表する財政検証の資料で年次を確認してから使ってください。
社労士試験ではモデル年金額そのものも頻出です。令和8年度のモデル年金額は厚生労働省の年金額改定の公表資料で確認できます。この数字とマクロ経済スライドの仕組みを組み合わせて「将来のモデル年金がどう変化するか」という問いに答える能力が、上位合格者・社労士実務家に求められます。
- 国民年金法第27条の4e-Govで原文を読む
出典と作り方
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(本試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 国民年金法第16条の2(調整期間)・第27条の4(調整期間における改定率の改定の特例=調整率・名目下限・特別調整率)・第27条の5(既裁定者の基準年度以後改定率の特例)(https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000141・2026-09-30確認。第27条の6は存在しない)、厚生労働省 令和8年度の年金額改定について(https://www.mhlw.go.jp/content/12502000/001639615.pdf) 参照した数値: 国民年金 改定率(令和8年度・マクロ経済スライド調整後):1.9%(令和8年度+1.9%・名目賃金変動率+2.1%-スライド調整率0.2%)・2026-04-01発効(一次確認: 厚労省 001639615.pdf) 確認日: 2026-06-08 各根拠条文は厚生労働省「e-Gov法令検索」(https://elaws.e-gov.go.jp/)で原文を確認できます。令和9年度(2027年度)試験に向けて2026年10月1日時点の現行法令の数値を反映(令和9年4月の法改正で変わる箇所は試験前に更新・数値確認日 2026-10-01)。
本問・解説は試験対策のための学習コンテンツです。法令・通達は改正されることがあるため、最新の内容は厚生労働省・全国社会保険労務士会連合会の公式情報をご確認ください。

