宅建士の押印が不要になった経緯を、宅建業法35条5項・37条3項の改正前後の条文で確認。2022年5月18日施行の改正、宅建士の記名の扱い、電磁的方法で37条書面を提供するときの承諾と要件、令和5〜7年度の出題箇所まで整理します。
目次
結論:宅建士の押印は、現行の宅建業法では不要です。35条5項(重要事項説明書)は宅建士が書面に「記名しなければならない」、37条3項(37条書面)は宅建士をして「記名させなければならない」と定めています。以前は「記名押印」でしたが、令和3年法律第37号による改正で、2022年5月18日施行の版から「記名」だけになりました。ただし、記名そのものは今も必要です。電磁的方法で37条書面を提供する場合も、書面の交付に係る宅建士が明示される方法でなければなりません。
「押印が不要になった」ことと、「宅建士の関与が不要になった」ことは別の話です。このページは、令和8年度試験(法令基準日は2026年4月1日)に合わせて、2026年10月4日時点の e-Gov 法令検索の現行条文と過去の版にもとづいて整理しています。条文は e-Gov 法令検索の宅地建物取引業法 で確認できます。
合格ナビの宅建問題360問のうち、37条書面の記名・押印・電磁的方法を取り上げる問題は7問です(2026-10-04 集計。当サイトの問題の数であり、試験での出題頻度ではありません)。
35条書面と37条書面の「記名・押印・電磁的方法」を一覧で比べる
| 項目 | 35条書面(重要事項説明書) | 37条書面(契約書面) |
|---|---|---|
| 宅建士の記名 | 必要(35条5項)。宅建士が書面に記名する | 必要(37条3項)。宅建業者が宅建士をして記名させる |
| 宅建士の押印 | 不要(2022年5月18日施行の版から) | 不要(2022年5月18日施行の版から) |
| 電磁的方法による提供 | 承諾を得て可能(35条8項) | 承諾を得て可能(37条4項・5項) |
| 電磁的方法で提供したとき | 宅建士に書面を交付させたものとみなし、記名の規定(5項)は適用しない(35条8項) | 書面を交付したものとみなし、記名の規定(3項)は適用しない(37条4項) |
| 電磁的方法の要件(記名に代わる措置) | 施行規則16条の4の8。書面の交付に係る宅建士が明示されること(2項4号)、など | 施行規則16条の4の12〜15。書面の交付に係る宅建士が明示されること、など |
37条3項の現行文言:宅地建物取引士をして、当該書面に記名させなければならない(押印の文言なし)。2026年4月1日施行の版で確認。最終確認日:2026-10-04。出典:e-Gov 法令検索 宅地建物取引業法37条。
押印が不要になった経緯(2022年5月18日施行)
e-Gov の過去の版を取得して、37条3項と35条5項の文言を比べると、次のとおりです。
| 条文 | 2022年4月1日施行の版 | 2022年5月18日施行の版(以後、現行も同じ) |
|---|---|---|
| 37条3項 | 「…宅地建物取引士をして、当該書面に記名押印させなければならない。」 | 「…宅地建物取引士をして、当該書面に記名させなければならない。」 |
| 35条5項 | 「…宅地建物取引士は、当該書面に記名押印しなければならない。」 | 「…宅地建物取引士は、当該書面に記名しなければならない。」 |
2022年5月18日施行の版は、「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」(令和三年法律第三十七号、2021年5月19日公布)による改正で、施行日は2022年5月18日です。この改正で、押印の文言が外れたことに加え、37条4項・5項と35条8項・9項の電磁的方法による提供の規定が入りました。
出典:e-Gov 法令検索 宅地建物取引業法(2022年4月1日施行の版・2022年5月18日施行の版)。ここでは、この2つの版を取得して比べています。
令和8年度試験の法令基準日(2026年4月1日)の時点では、すでに記名のみの版が施行されています。35条書面・37条書面への宅建士の押印を求める記述は、現行の宅建業法の規定に照らせば誤りになります。
なお、押印の文言が外れたのは、35条書面・37条書面の宅建士の記名です。媒介契約書面を定める34条の2第1項は、現行条文でも、宅建業者が書面を「作成して記名押印し、依頼者にこれを交付しなければならない」と定めており、押印の文言が残っています(e-Gov 法令検索 宅地建物取引業法34条の2の現行条文で、2026年10月4日に確認)。35条・37条の宅建士の記名とは、別の書面・別の義務です。
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宅建士の記名は今も必要(37条3項・35条5項)
押印が不要になっても、記名は必要です。37条3項は、37条書面を作成したとき、宅建業者が「宅地建物取引士をして」書面に記名させる、という形で書かれています。35条5項は、宅建士自身が書面に記名する、という形です。
- 記名する人:宅建士(宅地建物取引士証の交付を受けた者。2条4号)。宅建業者の代表者や、宅建士でない従業者が代わりに記名する形ではありません。
- 専任の宅建士である必要:37条3項・35条5項の文言には、専任の宅建士に限るという定めがありません。
- 記名の対象:35条書面(35条1項〜3項の書面)と、37条書面(37条1項・2項の書面)です。
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売買契約書への押印との違い(37条書面を契約書で兼ねるとき)
「売買契約書 宅建士 押印」で調べる人が迷うのは、契約書と37条書面の関係です。
国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(令和8年4月1日施行版)の37条関係は、37条に基づいて交付すべき書面は、同条に掲げる事項が記載された契約書であれば、その契約書をもって37条書面とすることができる、としています。これは法令そのものではなく運用の考え方です。運用の考え方のこの箇所は記名について直接は書いていませんが、契約書で兼ねる場合はその契約書が37条書面にあたるため、37条3項により宅建士の記名が必要になる、と読むのが条文に沿った整理です。
一方、35条・37条の条文が定めているのは、宅建士の記名です。契約の当事者である売主・買主が契約書に署名や押印をするかどうかは、これらの条文には書かれていません。「宅建士の押印が不要になった」ことと「契約書に当事者が押印するかどうか」は、別の問題として区別してください。
出典:国土交通省 宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方(第37条関係)。
電磁的方法で37条書面を提供するときの承諾と要件(37条4項・5項)
37条4項は、売買・交換の書面(1項)の交付に代えて、政令の定めるところにより次の者の承諾を得て、電磁的方法で書面に記載すべき事項を提供できると定めています。5項は、貸借の書面(2項)について同じ仕組みを定めています。
| 場合 | 承諾を得る相手(37条4項各号) |
|---|---|
| 自ら当事者として契約を締結した場合 | 契約の相手方 |
| 当事者を代理して契約を締結した場合 | 契約の相手方、代理を依頼した者 |
| 媒介により契約が成立した場合 | 契約の各当事者 |
電磁的方法で提供したときは、「当該書面を交付したものとみなし」、記名の規定(3項)は適用されません。その代わりに、国土交通省令で定める「記名に代わる措置」が必要です。
承諾の手続(施行令3条の4)
- 承諾を得る前に:宅建業者は、国土交通省令で定めるところにより、あらかじめ、電磁的方法の種類と内容を示します(1項)。
- 承諾を得た後でも:相手方から書面等で電磁的方法による提供を受けない旨の申出があったときは、電磁的方法による提供をしてはなりません。ただし、その後に再び承諾を得たときはこの限りではありません(2項)。
満たすべき基準(施行規則16条の4の12第2項)
| 号 | 基準 |
|---|---|
| 1号 | 相手方が、ファイルへの記録を出力することにより書面を作成できること |
| 2号 | ファイルに記録された記載事項が、改変されていないかを確認できる措置を講じていること |
| 3号 | 宅建業者等のファイルに記録する方法のとき、記録する旨または記録した旨を相手方に通知すること(相手方が記載事項を閲覧したことを確認したときを除く) |
| 4号 | 書面の交付に係る宅地建物取引士が明示されること |
4号が、記名の代わりとなる措置にあたります。運用の考え方(第37条第4項関係)も、電磁的方法で提供する場合は、書面に出力できる形式で提供し、電子署名等の方法で記載事項が改変されていないことを将来も確認できる措置を講じること、そして宅建士の記名が必要であることを示しています。
出典:e-Gov 法令検索 宅地建物取引業法施行令3条の4、宅地建物取引業法施行規則16条の4の12、国土交通省 解釈・運用の考え方。運用の考え方は法令ではなく、条文の義務と区別して読んでください。
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本試験での出題のされ方(令和5〜7年度)
不動産適正取引推進機構(RETIO)が公表している本試験問題のうち、テキストを確認できた令和5〜7年度で、37条書面の記名・押印・電磁的方法が関わる箇所は次のとおりです(設問文は載せていません)。
| 年度 | 問 | 取り上げられている論点 |
|---|---|---|
| 令和5年度 | 問26 | 37条書面の電磁的方法による提供 |
| 令和5年度 | 問28 | 業務に関する規定の違反の個数を問う問題のうち、37条書面への宅建士の記名と押印の扱いを取り上げる肢 |
| 令和5年度 | 問43 | 37条書面(媒介による売買)の記載事項・交付・記名など |
| 令和6年度 | 問35 | 37条書面の電磁的方法による提供 |
| 令和6年度 | 問40・問44 | 37条書面の記載事項・交付など |
| 令和7年度 | 問29・問33 | 37条書面の記載事項など(電磁的方法・押印の論点は、テキスト検索では見つかりません) |
出典:RETIO 令和7年度 試験問題、令和6年度、令和5年度ほか過去の問題。令和4年度以前は、公表PDFが画像形式でテキストを検索できなかったため確認していません。
37条書面の電磁的方法による提供は、令和5年度(問26)と令和6年度(問35)に、それぞれ1問ずつ取り上げられています。条文の仕組み(承諾、改変の確認措置、宅建士の明示、申出があったときの扱い)を、条・項の単位で整理しておくと対応しやすくなります。出題の根拠となる法令は、試験を実施する年度の4月1日現在施行されているものです(RETIO 宅建試験の概要)。
35条書面と37条書面の記載事項の違い、書面の交付時期、違反したときの扱いは、「宅建の35条書面と37条書面の違い」で整理しています。
当サイトのオリジナル例題で確認する
次の問題は、当サイトが条文をもとに作ったオリジナルの例題です(実在する試験問題ではありません)。
宅建業法37条の書面に関する次のア〜エの記述のうち、宅地建物取引業法の規定によれば、誤っているものはどれか。
- ア:宅建業者は、37条書面を作成したときは、宅建士をして書面に記名させなければならない。
- イ:37条書面への宅建士の記名には、記名のほかに押印を伴うことが求められている。
- ウ:37条書面を電磁的方法で提供するには、あらかじめ電磁的方法の種類と内容を示して、相手方の承諾を得る必要がある。
- エ:37条書面を電磁的方法で提供する場合の方法は、書面の交付に係る宅建士が明示されるものでなければならない。
答えはイです。現行の37条3項は記名だけを求めていて、押印の文言はありません(2022年5月18日施行の版から)。アは37条3項、ウは施行令3条の4第1項、エは施行規則16条の4の12第2項4号のとおりです。
このほか、当サイトの宅建問題では、次の問題で同じ論点を確認できます。
著作権・正確性の方針:本サイトは一般財団法人 不動産適正取引推進機構(RETIO)と一切関係ありません。掲載問題は出題範囲を参照した合格ナビ独自の自作問題です。条文は2026年10月4日時点の現行のものと、過去の版(2022年4月1日施行の版・2022年5月18日施行の版)を参照しています。
よくある質問
Q37条書面に宅建士の押印は、現在は必要ないのですか?
現行の宅建業法37条3項は、宅建士をして書面に「記名させなければならない」と定めており、押印は求めていません。2022年4月1日施行の版は「記名押印させなければならない」でしたが、2022年5月18日施行の版(令和3年法律第37号による改正)から「記名」だけになりました。
Q37条書面を契約書で兼ねる場合、契約書に宅建士の記名は必要ですか?
必要と読めます。国土交通省の解釈・運用の考え方は、37条に掲げる事項が記載された契約書であれば、その契約書をもって37条書面とすることができるとしています。その箇所は記名について直接は書いていませんが、契約書が37条書面にあたる以上、37条3項の「宅地建物取引士をして、当該書面に記名させなければならない」が適用される、と読むのが条文に沿った整理です。
Q37条書面を電子メールなどで提供すると、紙の書面は別に交付しなくてよいのですか?
37条4項は、政令の定めるところにより相手方などの承諾を得て電磁的方法で提供したときは、書面を交付したものとみなすと定めています。承諾を得る前には、用いる電磁的方法の種類と内容を示す必要があります(施行令3条の4第1項)。
Q契約当事者(売主・買主)の押印は、37条で決まっているのですか?
37条3項が求めているのは、宅建士の記名です。契約の当事者が契約書に署名や押印をするかどうかは、35条・37条の条文には書かれていません。
Q媒介契約書面にも、押印は必要ありませんか?
35条書面・37条書面とは別の書面です。宅建業法34条の2第1項は、媒介契約を締結したとき、宅建業者が記載事項を書いた書面を「作成して記名押印し」、依頼者に交付すると定めており、現行条文にも押印の文言があります。押印が外れたのは、35条5項と37条3項の宅建士の記名です。
法令や試験の数字は、改正や年度で変わります。この記事の最終確認日は2026年10月4日です。申込みや合格基準は、必ず試験団体の公式情報で確かめてください。

